132 春の大運動会⑦ 味当て&ランチ
いよいよ午前の部の最後の競技『味当て』。
テーブルはそのままで行う。
「では皆さん、元の席に戻ってください。これから皆さんの前にスプーンを載せた小皿を配りますので、全員に行き渡るまでそのまま手を付けずに待っていてくださいね」
数が多いので、キーファーもスコットも使用人たちと一緒になって配ってくれている。
私が作った回答用紙には、あらかじめ名簿の番号を書いているので、配布する際に、手首の番号と一致しているか確認しながら置いてもらっている。
配布し終えると、さっと傍に引いてくれるので、わかりやすい。
「これが午前中最後の競技になります。五つのスプーンの調味料を食べて、美味しい順に一から五まで番号をつけてください。難しく考える必要はありません。自分が美味しいと思う順でいいです。一緒に配られた紙に丸印が五個並んでいますね。この丸は小皿の位置と同じです。『美味しいな』、『この味が好きだな』、と思った順に丸の中に一から五までの数字を書いていってください。数字がわからない人は周りの大人に聞いてくださいね」
おそらく何をさせられているのか理解していない子どもが大半だと思うけど、わからなくても未経験のことってそれだけで面白いよね。
酸味や苦味にも美味しさを感じる人とそうでない人がいるように、美味しさの基準は人それぞれだ。
でも、『ソース開発』の専任者となる人には、私やアルマやケイトと同じような味覚を持っていてほしい。
私が美味しいと感じる味を同じように美味しく感じてもらえないと困る。目指す物が一致しないと迷走しちゃうからね。
アルマに頼んで、完成までの五段階の状態のケチャップを作ってもらった。左から、三、一、二、五、四なんだけど、この数字を書いてくれる子がいるかなぁ。いたらいいなぁ。
ケチャップが余程美味しかったのか、みんな綺麗にスプーンを舐めている。
あれ? もしかして、もうお腹が空いちゃった?
「それでは小皿と紙を回収しますね。次の準備をする間、皆さんは隣の建物に入って手をよく洗ってください。一人ずつ手巾を渡しますので、手を拭いたら何も触らずに元の席に戻って待っていてくださいね。絶対に顔とか髪とか服とかに触らないでくださいね」
キーファーがちゃんと使用人を回収班と先導班に分けてくれたので、子どもたちはワイワイ言いながらも散らばることなく宿舎へと向かっている。
その間に、各テーブルに人数分のボウルを設置してもらう。私特製の木製ボウルの中には、バターと砂糖をよく練り合わせたものと、ふるった小麦粉が入っている。
ふふふん。ショートブレッドの材料だ。ちょうど子どもの拳くらいの量なので、出来上がりだとカロ○ーメイトのバー二つ分くらいかな。
こねた後、バーの形に成形してもらいたいので、見本となる大きさの物を木で作った。それも各テーブルに一つずつ置いてもらっている。
新築の宿舎に興奮している子どもたちの声がここまで聞こえてくる。
まあ戸建てと違って集合住宅みたいなもんだから、見たことない子もいるよね。大きくて広くて素敵でしょう?
子どもたちが戻ってきたので、しつこいけど「何も触らないで」と念押しをしておく。
「はい。椅子に座る時も触らないで上手に座りましょうね。手巾は持ったままでいましょう」
引率する使用人たちも口々に「綺麗に洗ったからどこにも触らないように」と注意してくれている。
さてさて。揃ったかな?
ケイトと厨房の使用人も私の横でスタンバイオッケーみたい。
子どもたちによく見えるように、使用人がボウルの中が見えるように傾けた状態で持ち、ケイトには横から手を入れて実演してもらうのだ。
「はい。全員戻りましたね。ではお昼ご飯の前にお土産用のクッキーを作りたいと思います。こちらのケイトさんの真似をして、皆さんも自分のボウルの中の材料をよーく混ぜてくださいね。ではまずケイトさんが混ぜる様子を見てみましょう」
ケイトには直径四十センチくらいのボウルで作業してもらっているけれど、さすがに後ろの方の子には見えないだろうから、やや後方にも使用人が二人ペアとなって実演をしている。
「最初は手にくっついてぐちゃぐちゃになりますが、ほら――少しずつまとまってきましたね。こんな風にまとまってきたら四角く形を整えてみましょう。大きさはテーブルの上の積み木くらいの大きさで」
ケイトが四角いバーを一つ作って掲げてみせた。
「はい。それでは始めますよ。手巾を置いて、材料をよく混ぜてください。わからないことは、同じテーブルにいる人たちに聞いたり、近くにいる大人に聞いてくださいね」
何人かは私の話の途中から手巾を放り出して始めていたが、まあいいでしょう。
アルマには一通りテーブルを回ってもらって手つきの良い子の番号を控えてもらうことになっている。
まあ不器用でも舌の感度が抜群ならそっちを優先するんだけど、器用に越したことはないので一応選考の参考情報として活用したい。
「美味しいクッキーにするためには、白い粉が見えなくなるまでよくこねる必要があります。頑張って手を動かしてくださいね」
相変わらず、「はーい」という返事はないけれど、子ども同士おしゃべりしながら楽しそうに手を動かしている。
うんうん。いいねいいね。
アルマは二周目の巡回で、ちょこちょこアドバイスしているみたい。
もう十分混ざっている子には成形を促しているのかな?
「まだ四角くできていない人は、そろそろ形を作ってくださいね。前のテーブルから順に皆さんが作った四角いクッキー生地を集めます」
面倒だけど、自分が作ったクッキーを持って帰ってもらえるよう、回収担当の使用人には、番号を書いた紙の上に子どもが作ったクッキー生地を載せるようにして番号順に回収してもらう。
「では、終わった人は手巾でよく手を拭いてくださいね。ボウルを片付けたらおまちかねのお昼ご飯です」
「ワー」と歓声が上がった。そうだよね。送迎と昼食付きということで釣ったようなもんだからね。
「えー。世話役の方や保護者の方々もどうぞ子どもたちのテーブルに交ざってください。テーブルは三つでも四つでも自由に並べ替えてもらって大丈夫です。全員で囲んでくださいね」
来賓席ではドニが公爵たちに声をかけている。
私は収穫祭の櫓の上のような感じで、公爵たちも会場で一緒に食べればいいと思っていたけれど、レイモンに反対された。
来賓の皆様には、ちゃんと本館に戻ってダイニングテーブルで召し上がっていただくべきだと言われた。
収穫祭がよっぽど特別なんだね。
今日のランチは、来賓と子どもたちにほとんど同じ物を用意している。さすがにこれだけの人数分を用意しながら来賓のために特別メニューを用意するのは難しいので。
子どもたちに提供する頃にはすっかり冷めてしまっているかもしれないけれど、味は保証付きなので許してほしい。
出来立て熱々は来賓の皆様だけだ。
メニューは公爵には馴染みのあるいつぞやのチキンソテーのチーズがけだ。さすがにトロトロチーズは来賓のみに提供。
スープとデザートも来賓だけ。
ちなみに子どもたちの分は大皿料理にしたので、サイコロステーキならぬサイコロチキンソテーだ。
他にも子ども大好きメニューのフライドポテトとオニオンフライをサービスするからね。もちろん味当てしてもらったケチャップも付けてある。
レイモンが私に聞こえるように、「コホン」と咳払いをした。
私に、「そろそろダイニングルームへ移動してください」って言いたいんだろうけど。
あと一言だけだから。来賓の皆様を待たせるようなことはしないから。
次々に料理が運ばれてくると、子どもはすぐさま手を出そうとするけれど、世話役が注意して何とか押し留めている。
私がこうして立ったままこの場を離れないからね。
「全員で一緒に食べてもらいたいので、全てのテーブルに料理が並ぶまで待ってくださいね。そうそう。それから、お土産用のパンは別にありますから、遠慮しないでテーブルの上の料理は全部食べてくださいね」
ここは、「やったー!」という声が返ってきた。ふふふ。
やっぱりね。貧乏な家の子は、きっとお家で待っているご両親や祖父母にも食べさせてあげたいと、自分は食べずに持って帰ろうとすると思ったんだ。
子どもは遠慮しないでいいの!
使用人が全員傍に下がったのを見て、「いただきます」の号令をかけた。
「はい。全員分の料理が出ました。それでは召し上がれ!」
「きゃー」なのか「わー」なのか、そういう歓声と共に子どもたちがパクついている。
次回開催時には、前世のように、「はーい」とか「いただきまーす」とかの返事の練習をしてもらおうかな。




