102 本物のお城
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突然、部屋から出てきた私を見てリエーフは驚きながらも、私とパトリックの後をついてきた。
なんとローラもうまい具合に部屋を出られたみたい。
「よかったね」「はい」と、目と目を見合って会話する。
「あの、パトリック様、どうしてここにいらっしゃるのですか?」
「ん? ここは僕の家みたいなもんだよ?」
いや、絶対に違うでしょ。
「ええと。それで、どちらに行かれるのですか? その、もう少しゆっくり歩いていただけないでしょうか」
「あっ、悪い、悪い。小さなレディをエスコートしたことがないものでね」
パトリックは悪気もなく、「テヘヘ」と笑っている。これでも名門、ロラン公爵家の次男なんだよね。厳しく躾けられたはずだよね?
「それよりさ。お菓子は? 持ってきたよね? 君がリュドビクを訪ねてくるのに、手土産を持ってこないなんて考えられないからね。何を持ってきたんだい? 本当に荷物は全部アーロンがさばいたのかな?」
「そのアーロンという方については、パトリック様の方がお詳しいのでは?」
「ふむ。ふむふむ。それなら女性の荷物に勝手に手をつけるようなことはしていないと思う。よし、君の部屋に行ってみよう」
さ、さようですか。
もう、言ったそばからまた歩くスピードが上がってるよ。私の足の長さを考えてほしい。
「あ! パトリック様。私からも一つお尋ねしたいのですが」
「何だい?」
「こちらの公爵邸を『カラーリ城』と呼ぶのは何故なのですか? 確かに立派でお城のように見えますが、フランクール公爵邸ですよね?」
「あー、そのこと? まあ実際、城だったんだよ。その昔、僕たちのご先祖さまにあたるカラーリ公爵家が住んでいたとき、国王を輩出したんだよ。その王様の代だけは、ここを国王の住む城にしたから、カラーリ城と呼ばれていたんだ。まあ今じゃそう呼ぶ人間も少なくなったけどね」
へぇ。マジでお城だったんだ。お城が実家ってどんなんだろう。
ま、ポテチをバリバリ食べるような人間が住むところでないことだけは確かだな。
「そういや、君はこの忙しい年末にどうして来たんだい? ダイアナがいない間の勉強をここでするようリュドビクから指示でもあったのかい?」
「いえ、そういう訳ではなく、新年祝賀パーティーに参加するにあたり、私の礼儀作法を完璧なものにするための特訓を施すと言われて……」
「あっはっはっ、なんだそれ! あー、あれかぁ。王宮のパーティーかぁ。特訓なんて別にいらないと思うけどね。リュドビクは大袈裟だからなぁ」
いや、ちょっと! 本当に? 今のままでいいなら帰りたいんですけど?
「でも、国王陛下や王妃陛下にご挨拶をするのですよね? しかも私は初めてお目にかかる訳ですし、万が一失礼なことをしてしまったら――」
「そのときはリュドビクのせいにしちゃいなよ。そのための後見人なんだしさ! 難しく考えることないって」
いやー。うっかりこの人を信じかけた私が馬鹿だった。失敗したら後見人のせいにするなんて、そんなことしていい訳がない。
そもそも私は伯爵として、今後もずーっと王様に仕える身分なんだから、初対面でつまずいてちゃ駄目じゃん! うちの領地はどうなるの!
ものすごく嫌だけど引き返した方がいいかな?
「あ、アーローン」
あんな遠くにいる人に、そんな大声で呼びかけるなんて。本当にいいところのお坊ちゃんかよ、ってツッコみたくなる。
まあ、この、直線距離にして数十メートルはありそうな廊下がすごいんだけどね。
何がすごいって、塵一つ落ちてない!
何十だか何百だかの部屋に、廊下に、バルコニーに、庭やその他諸々、それに家具とか、とにかく恐ろしいまでに掃除すべき対象があるのに、どれもこれもピカピカ。
信じられない。何人がかりでやっているんだろう……?
公爵家の半端ない財力の一端を垣間見た気がする。そういや、事業もやっているって話だったけど、どれくらい儲けているんだろう?
――などと下世話なことを考えていたら、アーロンがすぐ近くまで来ていた。早っ!
「マルティーヌの部屋まで案内してくれないかな」
「かしこまりました」
さすが。何故とは聞かない。
「ではドニに案内させましょう」
へ?
振り返ったらドニがいた。
うわぁぁっ!
どっかの国のエージェント並みじゃないの! 知らんけど。
どういう仕上がり方してんの?!
ボンドガールとイチャイチャする方向で仕上がるならわかるけど、本職の方をモノにするとは!
「それでは私がご案内させていただきます」
ドニが信じられないくらいエレガントな、それでいてフレンドリーな笑顔で、「こちらです」と右手を進行方向に向けた。
何も考えずにドニについて行っていたけれど、何回か角を曲がって階段を上がったりしているうちに心配になってきた。
すこーしドニとパトリックと距離を空けて、そっとローラに聞いてみた。
「ねえ、ローラ。あなたここまでの順路を覚えた?」
ローラは悲しげに首を横に振ると、「申し訳ございません。このような広いお屋敷は初めてで、私には覚えられません」と小さく呟いた。
ごめん! そうだよね。私たちは所詮、田舎者だもんね。
「いいのよ。私だけかと思って聞いてみただけなの。ドニがいるんだし、お任せでいいのよ、きっと」
「はい。でも私も頑張って覚えますから!」
そうだった。ローラは頑張り屋さんだった。ごめん。焚き付けるようなことしちゃって……。
「あ! 角部屋だね!」
えぇ……?
パトリックが勝手に部屋に入って行った。
いくらマルティーヌが十二歳でも、女の子の部屋に入るかな?
「よかったー。お菓子はそのままだよ! じゃあ、僕はこの、丸い――ええと何だったかなぁ? とにかく、これを貰っていくよ」
そして中から早速荷物を漁ったらしい声が聞こえた。
くぅぅ。
ふと横を見れば、ローラからよくないオーラが立ち昇っている。どうどう。抑えて、抑えて。
慌てて部屋に入ると、別口にしておいた焼き菓子が、手付かずでテーブルの上に置かれていた。
そりゃそうだよね。手土産かどうかなんてわかる訳がないし、たとえ手土産だとしても、渡してもらう前に処理するなんてあり得ない。
「コホン! パトリック様。そちらはマカロンという焼き菓子になります。まずはお世話になるリュドビク様に差し上げたいと思いますので、パトリック様はその後リュドビク様からお裾分けしていただくとよろしいのではないでしょうか?」
「何を面倒臭いことを言ってるんだい? 結局僕が貰う訳だから今貰っておくよ」
マぁジぃでぇー?!
「こんなにたくさんあるんだから平気だよ。多分、リュドビクが想定していたよりも多いと思うよ?」
それ、私たち――レイモンとローラとアルマとケイトのみんなで頭を悩ませていたことなんだけど。
公爵が想定している量を絶対に下回らないように、できれば驚くほどの量を持っていきたいと、日持ちする順に量を多めに作ったんだよね。
食べきれずに余ったら、使用人に下げ渡せばいいんだもの。
だから、前世の『七泊以上の目安のスーツケース』一個分くらいを持ってきたのだ。
パトリックはその三分の一くらいを、両手でなんとか抱え込もうと悪戦苦闘している。
なんか……グーパンチをお見舞いしてやりたい気分……。
現在連載中の部分は書籍でいうと3巻に入ると思うのですが、3巻の出版はまだ未定です。
皆さまにいい報告ができるよう頑張ります!




