100 ドニと再会
記念すべき100話目です!
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お城みたいな公爵家の中に一歩入っただけで、私とローラはその豪華さに呑まれてしまった。
後ろにリエーフがいるはずだけど、さすがに振り返ることはできない。
「マルティーヌ様、少々こちらでお待ちいただけますでしょうか。応接室にお通しする前に、ドニを連れてまいりますので」
あー! そうだった。ドニがいるんだった!
「っはあ。マルティーヌ様、すごいお屋敷ですねえ」
家令の姿が見えなくなると、ローラがやっと息ができるとばかりに、「ふうふう」言いながら話しかけてきた。
「本当ね。私もこれほど豪華なお屋敷は初めてよ。お屋敷っていうか、お城よね? お城って言っていたわよね?」
「はい! 私にもお城と聞こえました」
ほんと、どういうことなんだろう……?
と首を傾げていると、家令がドニを連れて戻ってきた。早い。さすがだね。椅子に座ろうかと考える時間もいらなかった。
「お待たせいたしました。ドニ。あなたもマルティーヌ様にお会いするのは久しぶりでしょう。せっかくなのでご案内はあなたに任せることにしましょう」
「承知いたしました」と返事をしたドニは、記憶にあるモテモテスマイルじゃなく、品のある控えめな笑顔に変わっていた!
「では、マルティーヌ様。私はこちらで失礼させていただきます。何かございましたらすぐにお呼びくださいませ」
「はい。ありがとうございます」
そうしてアーロンは丁寧にお辞儀をしてから立ち去った。
ドニを見ると、まだ上品な微笑を浮かべている。
はぁぁっ?! 嘘でしょう?!
怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
このお城で修行すると、こうも変わるものなの? もしかして、私も……?
おっとっとっと。ここで慌てふためいていると公爵の耳に入るかもしれない。
毅然としていなくっちゃね。
「久しぶりね、ドニ。留守の間、変わりなかったかしら?」
「はい。マルティーヌ様。主人のいらっしゃらない屋敷は火が消えたようで寂しかったですが、領地でのご活躍を聞いておりましたので、マルティーヌ様がお健やかに過ごされていることは存じておりました」
ちょっと、ちょっと。ドニよ、ドニさんよ!
私、今だから言うけど、結構、世の乙女たちを虜にしちゃいそうな、あの甘い感じが好きだったのに。この変わりようは少しばかりショックかも。
「……そ、そう。ねえ、歩きながら話をするのはマナー違反かしら?」
「いいえ、そのようなことはございません。どうかお楽になさってください。緊張されなくても大丈夫です。このお屋敷にいらっしゃる方は皆、マルティーヌ様のお味方ですよ?」
本当に?
「ねえ、ドニ。あなた、少し感じが変わったわね。ローラ、あなたはどう思う?」
ここは付き合いの長いローラの意見を聞きたい。今はちょっとよそゆきモードなだけ? それとも……?
「はあ。ここがフランクール公爵邸でなければ、ふざけていると思ったはずです」
ローラの素直な意見を聞いて、ドニは眉根を上げて苦笑した。
そして、やっと昔のドニらしく砕けた感じで言い返した。
「おやおや。随分ではないですか。マルティーヌ様に恥をかかせないよう頑張ったつもりなのですがね」
ドニぃー! そうそう。それ! それ!
その今にもウインクしそうな感じ! あぁほんと懐かしい。
「ふぅ。あなたらしさが残っていて安心したわ。でもよく化けたものね」
「なるほど。ドニは化けていたのですね」
「二人とも、歩きながら話していいとは言いましたが、私の評価を下げるような会話は慎んでいただけませんか」
ドニは一言だけ笑顔で軽くクレームを入れると、またしても公爵邸仕様の表情で武装した。
「マルティーヌ様、参りますよ。応接室では公爵閣下と前フランクール公爵夫人がお待ちです」
「前フランクール公爵夫人?」
「はい。公爵閣下のお母上です。元レディ・ダルシー・フランクールです」
え? どっちで呼べばいいの? いくら私が伯爵でも、サッシュバル夫人と違って、公爵夫人だった方を「フランクール夫人」なんて軽々しく呼べないよ。
「大丈夫です、マルティーヌ様。ダルシー様は妖精のようなお方ですから」
は? おい、ドニさんよ!
妙齢の女性に、しかも高貴なお方に対して、少女を褒めるような、そんな――まさか不埒なことを考えていたりはしないよね?
歳は? 公爵の母親ってことは、十代で産んだとしてもアラフォーだよね?
思わずドニにジトリとした視線をやると、彼は平気な顔でそれを受け止めて、
「こちらのお部屋になります」
と、美しい仕草で応接室のドアを示して微笑んだ。
廊下といい、ドアといい、本当にお城なんだとつくづく思う。
エントランスホールから続く長い廊下にも、そこかしこに素人目にもスゴいとわかる美術品が置かれていたし。
一点物の洒落たソファーや小ぶりのテーブルの配置なんて、売れっ子デザイナーの仕事かと思うくらい、おっしゃれーな感じだった。
話をしながらでも、向こうの方から目に飛び込んできたもんね。
そんなことを考えて一瞬遠い目をした私が現実に戻ってドニを見たものだから、心の準備ができたと思われたみたいで、ドニがトントントンとノックしてしまった。
ちょっ、待って。心の準備がまだできていないのに!
「マルティーヌ様をご案内いたしました」
「入りたまえ」
あ、公爵の声だ。
何故だか緊張が解れる。緊張が解れたのはいいことなのかな? 少しくらい緊張していた方がよかったりしない?
とにかく、ぐずぐずしてはいられない。
ドニがドアを開けてくれたので、何はともあれ部屋に入る。
ひぇっ!
あまりの眩さに、もう少しで大袈裟に手をかざして眩しがるところだった。
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