第1話
第1話
「早くご飯食べちゃいなさいよー。母さんもー仕事行くからー」
母からの急かす言葉にいいかげんな相槌で返す隼人は、朝餉の茶漬けの米や鶏肉をひとくち含んだ。右手にスプーンを持ち、口一杯に含み咀嚼する暇にスマホの様々なニュースをフリックする。いつの日からか、1日が始まるルーティンになっていた。最近は何かと物騒だし、何より情報を知ってるのと知らないのとじゃ大きな違いである。
『魔物の凶暴化に勢いが。統合は如何に』
『迷宮法案が遂に可決!その内容とは』
『探索免許証取得の下限年齢引き上げか。』
様々なニュースを寝ぼけた眼で流し読みする。
まず、魔物とはそれまで生息していた動植物が唐突に地下や廃屋に現れた迷宮の怪電波からの影響で生息地独自の進化を遂げた姿の総称らしい。従来の動植物に比べて凶暴さや姿形、生態が大きく変化し、森や海に近い町が襲撃に合うことがしばしば起こったらしい。そのため避難民が無事な区に逃げ込んだり、避難民同士が寄り合い、新しく出来た区や魔物から守るための防壁や砦等を増築した区が出来た。日本政府は、いや世界規模でこの魔物発現黎明期に瀕死に追いやられたが比較的最近盛り返して、電波塔だったりのインフラ設備を建築したりしてる。そんなこんなでニュースのような区の統合をしようとしたりしている。
また、迷宮法案とは、迷宮によって増殖し続ける魔物に対する抑止力になると、専門家が政府に提言し、それを攻略するための法案らしい。
正直、時間かけ過ぎてないか?と思う。
魔物発現黎明期と言ったが俺が生まれるより20年以上も前だし、なにより政府の怠慢じゃね。と自分の中で結論付けた。
あ、まずい。俺も時間かけ過ぎたっぽい。
あと2.3分遅れていたら間違いなくいつも乗るバスに乗り遅れると腹の中で冷や汗をかきつつ通学鞄を手に家を出た。
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(最近多いな、フラッシュバックが)
俺は棍棒に付着したゴブリンらの血をこいつらが着ていた布で拭いつつ思う。
仕事の最中だ、集中しよう。
粉雪が降り頻る地に倒れ伏せたゴブリンらの身体を弄る。こいつらは本当にどこにでもいるな。独自の生態として、環境に上手く適応するらしい。
また、半端に知識があるせいで物を作ることはできないが使うことはできてしまう、そのため、俺たち人間を殺した後の粗方全て奪われる。
ちなみに俺の目的はこれだ。奪われた物を奪い、町で売って金を稼ぐ。質が多少良い物はリサイクルショップに、また悪い物は適当に。ゴブリンが使った物は本当に質が悪いからな。何かの粘液が袖に付着しかける度に顔を顰める。ほんっと何の粘液だよこれ…
とりあえずこれでひと段落着いたかな。金になりそうなモンは背嚢に詰めて帰路に着くとしよう。歩みを進めつつ、物思いに耽る。今晩の献立はー、とか。多少足が出るが、棍棒ではなくちゃんとした武器のこととか。当たり障りないこと寝床に着くまでの仕事終わりルーティンだ。
例え、帰り道にまたゴブリンからのお誘いがあろうとも。そんな路傍の小石に躓いてもこの思考は心地よくなってる。皮算用が意外と楽しいんだなこれが。
しかし今日の小石は違うらしい。
楽しみの皮算用を途中で停止せざるを得なくなった。ふと横を見ると、俺とそんなに年が変わらないだろう同業者がいた。
否。その表現は間違いだ。
正しくは、つい先ほどまで人間だったモノ。つまり今はただの肉塊だ。
とりあえずその"路傍の小石"を近くで観察することにした。同族を釣るための餌でないことを確認するため、周囲を見渡する。よし、大丈夫そうだ。しかし長居は禁物。手早く済ませよう。
冬の寒さのせいか、腐ってはいない。それに俺が来た時はこんなのなかったしな。肉塊から垂れる血は凍りかけていた。そこまで時間は経ってないな。この寒い冬中に、動く生物を殺したがる生物を、俺は知っている。
ゴブリンか…いやしかしこの爪痕や歯形、魔物化した熊の仕業か。冬眠し損ねた個体か、と結論付けた。
だとしたらマズイな。熊は自身が捕らえた餌を掻っ攫われるのを非常に嫌う。
とりあえず背嚢をそばに下ろし、肉塊や血にはなるべく触れないように、そしてマシな物資を詰め込む。
生前使っていたのだろうメイン武器っぽいククリナイフを回収し、剥ぎ取り用のナイフは無論。財布の中の金銭を俺の財布に全て移し替えた。
しかしその時、財布に入っていた肉塊の生前の探索証を見てしまった。
正確には探索証の証明写真と目が合ってしまった。
現代ファンタジー系で、でもそれが物語の軸じゃない小説読みたかったんですけど見つからなくて。なので自分で作っちゃおう!って思った結果がこれです。暇な時間できたら続編書く予定です。