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僕は今日、小説投稿サイトを退会する。

作者: 書峰颯

――小説家になろう? を、退会しますか?


 モニター映し出される文字を見ていると、心の中の嘲笑が聞こえてくる。

 早く実行ボタンを押せ、退会理由なんざ空欄でいいだろう。

 僕が生み出した作品なんざ誰も求めていない。

 この世から一秒でも早く消え去って欲しい。

 

 早く死んで、そう嘆願している声にすら感じてしまう心の中の声に、耳を澄ます。


 空調の効いた部屋、物静かな室内で、僕は一体どれほどの文字を書き連ねてきたのか。

 時間を忘れ、一人の世界に没頭し、リズミカルにキーボードを叩く。

 紡いだ物語に幾千の人々が感動し、感銘し、同情し、同調する。

 

――本当に実行しますか? 退会するとデータの全てが削除されます。


 同じ文章なのに、引き留められている感じがしない。

 重箱の隅を楊枝でほじくるような辛辣なコメントには、あれだけ心揺さぶられたのに。

 パクリですよね? この作品の第三十二話、ここの表現と全く同じなのは何故ですか? 

 コイツの物語は全部ツギハギだ。人真似でしか生きていけないのか。

 こんなのして何が楽しいの? 書くの辞めたら? ツマンね。


 言いがかりを付ける理由なんざなんでもいい。

 叩ければいいんだ、集団で個人を攻めてゴミクズの様に消し去ってしまえれば、それでいい。

 圧倒的正義を振りかざし、自分の正義に酔いしれながら人を叩き潰す。

 

 文字文字文字、真っ黒な悪意の塊は軍隊アリのようだ。

 進路にいるものを見境なく踏みつぶし、かみ砕き、跡形すらも残さない。

 たった一つの正義感という名の悪意を胸に秘めて、己が満足の為に行動する。


――退会実行しました。


 おい、アイツ小説家になろう? を退会したらしいぜ。

 しょうがないよね、パクリ作家だっただから。

 炎上した作家は二度と生きていけないからな、その方が幸せだ。

 運営の代わりに動いたんだ、むしろ感謝して欲しいくらいですよね。


――XXのアカウントを削除しますか?


 アイツのSNSアカウント、鍵掛かったらしいぜ。

 本当だ、前に少しだけ絡んだ時も、ちょっと危険な感じがしたんだよね。

 見てみて、私アイツにブロックされてる!

 あ、本当だ、俺もブロックされてる!

 見境なしにブロックかよ、面倒見てやったのに。

 恩をあだで返すとか、酷い奴だったんだな。


――XXのアカウント削除を実行しました。

――三日以内に再ログインする事で復旧する事が出来ます。


 アイツのアカウント、ついに削除したみたいね。

 おー、見ることが出来ない。

 ログに残っててプロフだけ見る事が出来るけど、投稿サイトも全部消えてるね。

 アイツの名前打ち込むだけでサジェストにパクリって出てくるもんな。

 

 他にも複垢とかもしてたらしいよ?

 マジで? だから無名作家なのに月間総合一位とか取れてたんだ。

 ありえないよねぇ、どんだけ必死だったんだか。

 卑怯な奴はいつか天罰が下るんだよ、消えて問題なし。






 僕が小説を書き始めたのは、五年も前の事だ。 

 することが無かった、暇つぶしに書き始めたのがきっかけだ。

 読んでる小説が面白くて、だけど展開に納得いかなくて、自分で書いて満足してた。

 

 小説投稿サイトの存在を知ったのは、大体二年前。

 同じ仲間が出来たら嬉しいなと思い、投稿を始めてみた。


 私もこの展開の方が良いと思ってました。

 そんな感想が付くと嬉しくて、どんどん作品を書いていったんだ。

 

 その内新作も投稿するようになった。

 一次創作と呼ばれるオリジナルの異世界ファンタジーだ。

 自分独自の世界を造るのが楽しくなってきた、何もかも自由に決める事が出来る。

 王様も、魔王も、勇者も、ヒロインも、ライバルも、何もかも。

 創作の自由の魅力に取りつかれていた頃、こんな言葉を投げかけられた。


――SNSやらないんですか?


 感想欄にあった言葉、それを盲目に信じ込み、僕はSNSを開設した。

 フォローするのは仲間のみ、フォロワーはどんどん増えいくけど、基本相手にしない。 

 会話手段の一つとして活用していたに過ぎない、作品の宣伝もあまりしていなかった。


 文字書きだと認識され始めた頃、小説を書く人達からフォローされる事が増えていった。 

 投稿していた小説が、何かの拍子でランキング上位になっていたからだ。


――どうやったらランキング上位になれるんですか。

――物語の構成やプロットを教えて下さい。

 

 彼らの問いに答えられる術を、その時の僕は持っていなかった。

 期待に応えられないこと、それを疎ましいとも感じ初めていた。

 裏垢の存在を知ったのもそんな時だ、僕の名前で調べると辛辣な言葉が並ぶ。


 気づけば、僕の小説がサイト内トップに躍り出ていた。 

 日間ランキング一位、週間ランキング一位、月間ランキング一位。


 上位になればなるほど僕への風当たりは強くなり、SNSを開くのも嫌になってしまっていた。


 眠れない日が続いた。

 謂れのない文句を言われ、感想欄も彼らで汚染されていく。

 

――感想が書かれました。


 喜び勇んで開いていたその文字も、今では恐怖の対象でしかない。

 何を書かれているんだろう、また文句を言われてしまうのか。


 それまで裏で目立たないようにしていた僕を攻める言葉が、表にも溢れてくる。

 その日登録したばかりのSNSアカウントで、僕を質問攻めにする。 

 彼らが何をしたいのか、理解できなかった。 

 追及されたとしても、明確な答えを持ち合わせていない。


――アイツ、俺の作品パクッてるんじゃねぇの? 

 

 この言葉がネットの海に投げられてから、炎上は加速した。 

 感想、レビュー、全てが僕の物語の全てを否定し、文字通り炎渦となって燃やし尽くす。

 

「パクッてる証拠なんかある訳ないじゃないか! 僕は全部オリジナルで書いてる!」

 

 僕が過剰に反応すればするほど、彼らは喜んで拡散していく。

 怒るという事はやましい事をしているからだ。

 何もなければ無視すればいいのにね。 

 

 無視できるほどの量じゃなかったんだ。

 どこを見ても何をしても。


 僕を守ろうとする声もあったけど。

 残念ながら、そんな彼らの裏垢の存在も知っていた。


 何のために書いていたのか。

 ただの暇つぶしだったんじゃなかったのか。


 精神的苦痛の果てに、僕は逃げる事を選択した。

 だが……ふと、思い立ったんだ。


 ジャンル、異世界転生。

 転生した主人公は、女神からチートスキルを持ち異世界で無双する。

 テンプレ中のテンプレ。

   

 そのためには一度死なないといけない。

 死んでから蘇る必要がある。






――小説家になろう? のアカウントを作成しますか?


 僕の場合は、強くてニューゲームだ。

 与えられた番号は昔と違う、6桁だったのが7桁に増えている。

 

――SNSのアカウントを作成しますか?


 今日アカウントを開設しました。

 分からないことだらけなので、宜しくお願いします。


 どいつもコイツも笑顔で寄ってきやがる。


 投稿サイトの仕組みについて教えてあげるね。

 三点リーダーとか知ってる?

 投稿するのにちょうどいい時間とかあってね。





 蹂躙してやる。

 数日で全てを奪いつくしてやる。

 小説を書く目的が出来た。

 

 楽しみだなぁ……天辺を取った日に、お前ら全員の裏垢を晒しやるからな。

 正義が好きなんだろ? 


 これは、お前らに殺された、俺の為の正義だ。

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