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【書籍化】錬金術師さまがなぜかわたしの婚約者だと名乗ってくるのですが!? (旧題『シークレット・ガーデンにようこそ!』)  作者: 葉月クロル


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あなたに届け 8

「理衣沙よ、すまぬが赤い狐の近くまで……行けるところまでで構わぬから行ってもらえぬか? そこで箱庭の扉を開けて貰えば、我がそやつをなんとか始末するゆえ」


「了解だよ、お狐ちゃん。それじゃあ、やってみるね」


 わたしが外に出ようとすると、ノムリンとアドリンが包みを渡してくれた。


「草餅を作っておいたんだよ!」


「とても美味しくできましたの。おやつに食べて欲しいんですの」


「ふたりとも、ありがとうね。これで元気いっぱいで突撃できるよ」


「とつげ……なにを言っておるのじゃ! 理衣沙、危険な真似をしてはならぬぞ!」


「あっ、今のは聞かなかったことにしてねー」


 奈都子お姉さんの突撃精神が乗り移っちゃったのかな、危ない危ない。

 わたしは草餅が入った包みを受け取ると、アランたちのところに戻った。


「……というわけで、ドラゴンの近くに行く必要があるんだ。箱庭の材料で作っただけあって、この草餅めっちゃ美味しいね」


「うむ、味も最高だが、消費した魔力が瞬時にすべて回復したぞ。さすがは精霊の祝福を受けた食べ物だな」


「あんたたちがごく自然に草餅を食べ始めたのを見て、頭がどうかしちゃったのかと思ったけれど……おやつじゃなくて、魔力回復薬としてだったんだね」


 手についたきな粉を舐めようかどうかと悩むお姉さんに、わたしは「えっ、そんなこと、あはははー」と言った。


「もっ、もちろんだよ! そんな、魔物の群れの前でのんびりおやつを食べるなんて……あ、もうひとつあるからどうぞ」


 すみません。わたしには魔力がないので、草餅は単なるおやつでしかないんです。


「では、出発しよう。リーサ、わたしの背に乗るがいい」


「おんぶなの? いやいや待って、ここに来た時に乗ってた錬金道具の乗り物は?」


「残念ながら、もう魔石にほとんど魔力が残っていない。あれは便利だが、燃費が悪い乗り物なのだ。少しならわたしが充填してもいいが、余力を残しておかないと万一の時に反撃ができなくなるので……さあ、おぶさるがいい」


 いやいや、戦場をおんぶされて駆け抜けるのはおかしいと思うの。

 と、奈都子お姉さんが最後の草餅を食べる手を止めて言った。


「わたしの魔力、たくさんあるけど? 少し渡そうか?」


「ぜひお願い!」


 わたしは箱庭の扉を開けると、大きな台車に乗った錬金バイクをゴロゴロと押して出てきた。


「アラン、お願い」


「……リーサと密になりたかったのに」


 アランはぶつぶつ言いながら、座席の前にある蓋を開けると、中から国王に貰った巨大な魔石を取り出して、お姉さんに渡した。


「無理をしない方がいいと思うが」


「期待を裏切って悪いけど、一瞬で満タンにしたわ」


 聖女の魔力、恐るべし。

 お姉さんは笑顔で魔石を返しながら草餅をかじった。


 アランは少ししょんぼりしながら魔石をバイクにセットすると「リーサ、行くぞ」とわたしを抱き上げてバイクに乗せた。そして、またわたしにかぶさるようにしてハンドルを握り、さりげなく頭にすりすりっとした。


「結局密着するんかい! じゃ、気をつけて行って来なね。狐がいなくなったらわたしも浄化に向かうから」


「了解! 行って来まーす。アラン、ちょっと重いよ」


「わたしの愛の重さだ」


 後ろからぎゅっとしてくるアランが錬金バイクに魔力を流すと、車体は空中に浮き上がり、そのまま木よりも高く飛びながら黒いドラゴンの方へと突き進んだ。ドラゴンは何事かと頭を巡らせたが、バイクのスピードに追いつけていない。


「ドラゴンを飛び越える瞬間に、箱庭の扉を開けるか?」


「任せて!」


 何度も開けまくり、すっかり箱庭の使い方に慣れているわたしは空中に扉を開けて固定することもできるのだ。わたしがタイミングを合わせて扉を開けて「お狐ちゃん、今だよ!」と声をかけると、中から茶色い狐が飛び出してきて赤い狐に飛びかかった。


 赤い狐対茶色い狐の戦いは激しく、ドラゴンに力を分け与える余裕はなくなったようだ。


「攻撃が通ったぞ!」


 下からそんな声が聞こえた。


「リーサ、錬金銃も出せるか」


「出せるかな……やってみる」


 アランがバイクを方向転換させて、箱庭への扉の前を通る。


「ノムリン、銃を渡して!」


 わたしと箱庭の精霊たちとは以心伝心だから、扉に突っ込んだわたしの手にはしっかりとほぼバズーカ砲の巨大な銃が握られていた。重いので、アランが素早く受け取ってくれる。わたしたちも以心伝心だね、えへへ。


 しばらく飛んでから、アランはまた車体を反転させて、わたしの手にハンドルを握らせた。


「このまま進路を固定してくれ」


「了解」


 わたしがハンドルを預かり、アランが銃口を構える。

 カッコいいな。

 このワイルドな美形がわたしの夫でーす、なんてね!


 彼の魔力が高まって髪がふわりと浮き上がり、バズーカ砲からドラゴンに向けて銀色の光が放たれて、今度は弾かれることなく頭を貫いた。

 っていうか、頭が消失した!

 なんて凶悪な兵器なのでしょう……。


「やったぞ、ドラゴンを倒したぞ!」


 歓声が湧き上がる中、一瞬動きがブレた赤い狐の喉笛にお狐ちゃんが噛みつき、そのまま空高く駆け上がった。

 どんどん高く駆けていき、とうとう姿が見えなくなった。


 これでどうやら危機は去ったようだ。アランが錬金バイクを扉の前まで進めてくれたので、わたしはバズーカ砲、じゃなくて錬金銃を中にしまうと扉を閉めて鍵をかけた。


「アラン、お疲れさま。すごくカッコよかったよ」


「そうか。それなら天使のご褒美がもらえるかな?」


「えっ?」


 振り向いたわたしの唇に、アランの唇が触れた。


「リーサがいれば、わたしは無敵になれる。わたしの天使、いつまでも共にいて欲しい」


「え、あ、その……はい」


 そのままゆっくりと錬金バイクで空を飛んで、アランが「偉大なる神と天使リーサの力で、悪しき魔物は葬り去られたぞ! ちなみに可愛い天使のリーサはわたしの嫁だ!」と人々に謎のアピールをしながら拳を振り上げると、士気の高まった戦士たちも「おおおおおおおーっ!」と拳を突き上げて、残った魔物たちを全滅させた。

 奈都子お姉さんは「ちっ、目の前でいちゃつきすぎなんだよ、ロリコン錬金術師は!」と文句を言いつつも、突撃しては瘴気を浄化して、フラール地域には平和が戻ったのだった。


 そう、すべてが片付いてめでたしめでたし。

 となったはずなんだけど。




 あとの始末はフラール地域の皆さんにお任せして、わたしたちは錬金バイクに乗ってそのまま王宮に帰った。


「お帰りなさいませ、リーサさま」


「ただいま、ナオミ」


 なんだか疲れちゃったので、お風呂に入り、ナオミの全身マッサージを受けて部屋着に着替えると、わたしは寝室で箱庭への扉を開けた。


「ノムリン、アドリン、お疲れさま。お狐ちゃんは戻ってる?」


「まだなんだよ。でも、リーサへのお手紙があるんだよ」


「こちらですの」


 わたしはアドリンから一枚の紙を受け取った。


『凶孤を封じて、ちと疲れたので我は眠る。いつかまた会えるじゃろう。その日まで息災で暮らせよ』


「そんな……お狐ちゃんが……」


 わたしは呆然と立ち尽くし、それから泣いた。

 いくら待っても、狐の幼女はもう生垣を突っ切って来ないと知ったからだ。


「アラン、お狐ちゃんが、お狐ちゃんがああああああーっ」


 泣きじゃくるわたしを、アランは根気強く慰めてくれた。


「いつか、必ず会える。お狐殿はリーサのところにきっと戻ってくるから大丈夫だ」


「どうしよう、お狐ちゃんがいなくなっちゃう、わたし、怖いし悲しいしどうしたらいいかわからないよう」


「わたしがいつもそばにいる。お狐殿が戻るまでリーサの隣にいて、どうしたらいいか共に考えよう」


 泣いて泣いて、胸に小さな狐の形の穴が空いたけれど、それをお守りにして日々を過ごせるようになった頃に、わたしは安全になったルニアーナ国でアランとの式を挙げた。


「おめでとう、理衣沙ちゃん」


「ありがとう、奈都子お姉さん」


 聖女として式を司ってくれた奈都子お姉さんは、ウェディングドレスに身を包むわたしの涙を拭ってくれた。


「お狐ちゃんにも見せたかったな」


「きっとどこかで見てるよ。神さまの時間の流れはわたしたちの時間とは違うから、そのうちひょこっと戻ってくる気がするし……気長に待っててあげなよ」


「うん、わかった」


 白い礼服に身を包み、輝くほどに美しい花婿(それもどうかと思うよ!)は、わたしの腰を引き寄せた。


「お狐殿を共に待とう。そして、笑顔で出迎えることができるように、わたしがリーサと幸せな家庭を築くことを誓う」


「頼むよ、錬金術師の坊や!」


「坊やはやめてくれ……」


「もう、ふたりとも相変わらずなんだから」


 わたしは笑いながら、アランに寄り添った。



☆☆☆

 

 その庭には、小さな鳥居があった。

 ドリュアドが建てて、ノームが赤い土で染めた鳥居の奥には、祠が構えられている。


 幼い女の子が、お皿に草餅を乗せて祠の前に置き、手を合わせた。


「おいしいおやつでしゅ」


 女の子が立ち上がって、祠に背中を向けて数歩歩いて振り返る。


「わあ、やっぱりなくなりました。いつもだれがたべてるんでしゅか?」


『ふふふ、我じゃよ』


 返事があったので、女の子は目を丸くした。


「われしゃん?」


『我は狐じゃ。そなたの母親の……仲良しの友達じゃぞ』


「そうなんでしゅね! おかあしゃまー」


 女の子は花が咲き乱れる庭園を走り抜け、その先の畑で作業をする母親のもとへと走った。


「どうしたの、ユーリ?」


「おかあしゃまのおともだちがきました! きょうもおやつ、たべました!」


「よかったね」


「おともだちのわれしゃんは、きつねしゃんなのです」


「……え?」


 母親は、手からスコップを取り落として立ちあがった。


「どうして、それを……」


「理衣沙、久しぶりじゃのう! 元気そうでなによりじゃ!」


 とことこと駆けてきたのは、茶色い狐だった。


「また共におやつを食べようぞ」


「お狐ちゃん!」


 理衣沙は胸に飛び込んできた狐を抱きしめて「もう、相変わらず最高にもふもふなんだから……」と涙声で言い、柔らかな耳に頬ずりをしたのだった。




     FIN.

これでこのお話は終わりです。

最後までお付き合いくださいまして、

ありがとうございました(*´∇`*)

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