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【書籍化】錬金術師さまがなぜかわたしの婚約者だと名乗ってくるのですが!? (旧題『シークレット・ガーデンにようこそ!』)  作者: 葉月クロル


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薬草と回復薬 3

 本日の午前中の作業も順調に終了したので、錬金術師の皆さんは長めの休憩を取ることができると喜んでいた。長く休めば体内の魔力の回復も充分できるので、身を削るような業務でくたくたにならないで済むらしい……いや、身を削っては駄目だよね。


 でも、そこまで働かないと、回復薬の需要は満たせないのだそうだ。

 王宮にいると、前線の苦闘を頭で理解することしかできないが、なかなかシビアな世界にやってきてしまったようである。わたしもこのルニアーナ国で残りの人生を過ごしていくわけであるし、神さまから頂いた力を活用して、少しでもお手伝いできたらと思う。


 懐いた犬化した錬金術師長(いいえ、わたしは彼を錬金していませんよ)とゆっくり昼食をとり「午後のお仕事もがんばってくださいね、アランさん」と優しく送り出してから、ナオミさんに「少し休みます」と告げて寝室にこもった。


「昨日植えた薬草は、上手く育ったかな? ノームのノムリンに任せてあるから大丈夫だとは思うけど」


 わたしはナオミさんに頼んで用意してもらった、女性用のシャツにブカブカのオーバーオール風パンツというリラックスウェア(ということにしたが、実は庭作業用の服だ)に着替えると、鍵を取り出した。


 部屋の中央で鍵を構えると、扉が現れた。鍵穴に挿して回し、ドアを開ける。


「こんにちはー」


「あっ、リーサが来たんだよ!」


 幼児サイズだけど立派な大人だというノームが、身長よりも長いスコップを両手で持ち上げて「ばんざーい!」と喜んだ。どうやら精霊というのは、大人になっても無邪気な存在らしい。


「うわあ、畑がすごいね、よく育ってるね」


 わたしはドアを閉めると、日当たりの良い畑に足を踏み入れて、みずみずしい緑の葉を元気に伸ばしている薬草に手を触れた。ほうれん草くらいの大きさに育って、肉厚の葉も噛んだらシャキッと口の中で弾けそうな茎も、そのまま食べたくなるほど美味しそうだ。

 なるほど、失敗すると美味しいサラダ菜になるというわけがわかった。


「……うん、しっかりしてる。もうつぼみができてるね」


 力強く育った植物は、見ているこちらが元気になるようなパワーがある。


「そうなんだよ、もう根っこから引っこ抜いて収穫してもいいくらいなんだよ」


「そうだった、花が咲いちゃうと回復薬にならないんだよね」


「ならないんだよー」


 わたしとノムリンが話していると、木の小屋の扉が開いてお狐ちゃんが飛び出してきた。


「理衣沙よ、待ちかねたぞ! 羊羹を持ってきたのじゃー」


「わーい、食べる食べる! でも、その前に、薬草を摘み取っちゃいたいんだけど」


「よしよし、我も手伝ってやろうぞ」


 お狐ちゃんはやる気満々で、すでに着物にたすき掛けがしてあった。

 稲荷大明神は、稲を象徴する穀霊神であり、農耕神だ。そんなお稲荷さんの眷属だから、お狐ちゃんも農業がお好きなようだ。加護をくれる神さまと趣味が合ってよかった。


 それからわたしたち三人は、よく育った薬草を抜いて、少し広くなった畑……庭? とにかく、広くなった敷地の端に現れた泉で根についた土を洗い流して、ノムリンが出してくれた蔓のような紐でくくった。


「けっこうな量になったね」


 種の量が少なかったけれど、神さまの箱庭の栄養たっぷりの土で育ち、青々とした豊かな葉の薬草を十本まとめた束が十二個もできた。一部は種を取るためにそのまま花を咲かせることにして、植えたままになっている。これはノムリンがあとで種を採取しておいてくれるそうだ。


「リーサ、見て見てー、こっちの薬草はもっと大きく育つまで待つんだよ」


「あっ、何粒か混ざっていた違う種だね……薬草にしてはずいぶん背が高いね」


 濃い緑色の茎がまっすぐに伸びて、稲くらいに育っている。その先には黄緑色に鮮やかな水色の葉脈が入った葉がうちわのように広がっている。地球ではあり得ない色をした植物だ。


「間隔を空けて種を蒔いて、正解だったね。ところでこれ、光ってない?」


 明るいからわかりにくいけど、あまりにも鮮やかな色だし、それ自体が発光しているようにも見える。見た目が芸術的だから、花瓶に生けても素敵だろう。どんな花が咲くのかも楽しみである。


「光ってるよ! 夜に見ると綺麗なんだよ!」


 気のせいではなく本当に光ってたよ。


「やっぱり。華やかでファンタジックな植物だね……って、ここに夜があるの?」


「もちろんあるぞ。理衣沙が帰ってからは、夜と昼が交代でやってくる仕組みじゃよ」


 お狐ちゃんの技術がすごい。


 ノムリンがジョウロで大きな方の薬草に水やりをした。


「この薬草はもう少し育ててつぼみができたら、種用以外は収穫するよ。最初はあんまりできないけど、これからたくさん増やせるよ」


「そっか、楽しみだね……この普通の薬草の束をどうやって運ぼうかな。台車とかってある?」


「残念ながらないんだよ」


「まあ、これくらいなら往復すれば運べるね。これ以上増えたら、運搬するのに台車が欲しいな」


 そう、せっかくなので、できた薬草は錬金術省に持って行って回復薬にしようと思うのだ。残業になったら申し訳ないので、わたしが作業するつもりだけどね。


 収穫物を日陰に積んで、ノムリンが出してくれたジョウロで根に水をかける。


「こんな感じ?」


「うん、いいよ。こうしておけば、一日くらいなら取りたての新鮮さが保てるんだよ」


「おお、すごい水なんだ……なんか、動いたら喉が渇いたね」


 というわけで、今日はこの不思議な水でお茶を淹れて(これがまたすごい美味しいお茶になって、お狐ちゃんもびっくりしてた)羊羹をお茶請けにし、楽しいおやつの時間となった。


「そうだ、お狐ちゃん、この庭……っていうか畑の土地が広がってるみたいなんだけど」


「そうじゃよ。この箱庭は、面倒をみてやると喜んで育つ、生きている土地なのじゃ。ちなみに、忘れ去られると寂しくて縮んでしまうがのう」


 まさかの生き物だった!


「土地が寂しくなっちゃうの? それはかわいそうだよ」


 わたしはこの可愛い庭のために、毎日お手入れに通おうと決心した。


「リーサ、広くなったところも耕していいのかな?」


「そうしてもらえると助かるよ。ノムリン、よろしくね。侍女さんに、花の苗と野菜の種と、いろんなのを用意してもらえるように頼んであるから、少し待っててね。あ、サツマイモっぽいお芋の種芋は先にもらってきたんだっけ」


 わたしは席を立って寝室に戻り、ねっとりして黄色い、形はジャガイモだけど味はサツマイモのように甘みのあるお芋の入った布袋を持って戻ってきた。


「これなんだけど。四つくらいに切って植えるといいらしいよ」


「やったあ、嬉しいよ! たくさん耕してふっかふかの土にするよ! そして、このお芋を植えるよ!」


 ノムリンは喜びの踊りをしている。

 可愛い。

 中身は大人だけど見た目は幼児だから、ほのぼのとした気持ちになる。

 いいなあ、この箱庭は本当に癒されるなあ。


「美味しいお芋ができたら、焼き芋を作ってみんなで食べようね」


「焼き芋! すごく楽しみだよ!」


「おお、我も焼き芋は大好物なのじゃ! 早く植えて食べるのじゃ!」


 お狐ちゃんが、自慢の素晴らしい尻尾をふさふさ振ってはしゃいだので、その魅力に抗えなかったわたしは「お願い、ちょっとだけもふらせて!」と、気持ちの良い手触りを堪能させてもらった。


 土いじりが大好きなノムリンは、急いでお茶を飲み干すと「早くお芋を植えるんだよ! 焼き芋楽しみだよ!」と叫んで、畑の拡張作業をしに小屋を飛び出して行った。働き者のノームがいてくれるから、とても助かる。




 お芋の植え付けをすると、わたしは薬草を持って帰ることにした。

 寝室の床は絨毯が敷いてあるので、わたしは作り付けの棚の上に薬草を積んだ。スーパーの野菜売り場のほうれん草に似ているので、なんだか懐かしさを感じる。


「お狐ちゃんに頼んだら、スーパーでお菓子を買ってきてくれるかな?」


 羊羹もいいけど、ポテチなんかも食べたいんだよねー。

 あとで聞いてみよう。


 わたしは箱庭に戻って、ふたりにさよならをした。


「それじゃ、また来るね。次は大きい方の薬草も収穫できるかな?」


「きっとできるんだよ! 楽しみにして欲しいよ!」


「では、また後日にのう。さらばじゃ」


 お狐ちゃんも、すっかりここの常連になってるね。楽しそうにぴょんこぴょんこ跳ねながら竹の生垣を抜けて姿を消したよ。


 寝室のドアを閉めてから、わたしはベッドに横になってひと眠りした。

 それからベルを鳴らして、現れたナオミさんに「お昼寝終わりました」と声をかけた。


「それでですね。突然ですが、台車というか、食事を運ぶカートをひとつ貸してもらいたいんです」


 ナオミさんは棚の上に山積みになった薬草の束を見て不思議そうな表情をしたが、「なぜここにこのようなものが……とはいえ、天使さまのすることですからね……承知いたしました。すぐに手配いたします」と答えてくれた。


「それから、ディア……じゃなくてアランさんに、神さまの加護の力で薬草が手に入ったので、新鮮なうちに錬金してしまいたいって連絡してもらえますか?」


「はい、承りました。リーサさま、午後のおやつはどうされますか?」


「あっ、食べます! 先に食べます!」


 だって、ほら、わたしって育ち盛りじゃない。

 農作業の後は、すごくおなかが空くんだよ、これは仕方がないことなんだよ。





「……リーサ、これが加護の力で手に入れたという薬草、なのか」


 おやつを食べ終わってから、わたしの部屋に呼び出されたアランさん(というか、声をかけたら仕事そっちのけで飛んできたわんこさん)は、配膳用のカートに乗せられた薬草の束を手に取って「素晴らしい品質だな」と呟いた。


「詳しいお話はおいおいということで、これからも薬草を作っていきたいと思っています」


「まだ手に入れられるのか?」


「種をとって、増やしているところですから……はた、箱庭で」


 畑って言いそうになっちゃった! 実質、畑だけど。でも、あれはわたしの可愛いお庭なんだから。あくまでも箱庭なんだよ。お花も植える予定だしね。


「リーサが作ったのか?」


「そうですよ。土いじりが好きなので、錬金術省で頂いた種を育てました」


「種を渡したのは昨日だったが?」


「そこはほら、ありがたい神さまの加護が働いているわけですから」


 わたしはドヤ顔で言った。

 なんたって、精霊ノームくんやお稲荷さんの眷属のお狐ちゃんまで総出で育てたんだものね。加護がマシマシなのだ。


「で、早速これで回復薬を作って見たいのですが、皆さんのお仕事が終わってからでもいいので……」


「いや、もう薬草がないので、5番釜以降は空いている。すぐに使えるぞ」


 というわけで、ナオミさんが薬草の乗ったカートを押してくれて、錬金術師長閣下にエスコートされたわたしは再び錬金術省の建物を訪れた。

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