クリスマスのプレゼント
十二月二十四日、家に電話がかかってきた。
ぼくへの電話だ。ママに呼ばれて電話に出てみると、相手はサンタさんではなかった。
「君が欲しいのは、プロ野球のホームランボールだね?」
その通りだ。ぼくはサンタさんにお願いした。
ある選手が今年のシーズンに打った、年間新記録のホームランボールが欲しい。シーズン最多のホームランボールだ。
「実はね、我輩は大泥棒なのだ。サンタさんが君へのホームランボールを置いていったあとに、そのボールを我輩がいただくことにした」
まさかの犯行予告をして、電話は切れてしまう。
ぼくはママに今の電話の内容を伝えると、
「パパの声っぽかった」
すると、ママは素早く首を左右にふって、
「いいえ、あれは絶対に大泥棒。ママも昔、同じことがあったから知ってる。これ、ホントの話。今からでもサンタさんに、別のプレゼントをお願いした方が」
ママが色々言ってきたけれど、ぼくが欲しいのは年間新記録のホームランボールだ。これだけは絶対にゆずれない。
そして夜になり、やがて二十五日の朝になった。
目覚めたばかりのぼくは、急いで確認する。
クリスマスツリーのそばに、ホームランボールは見つからなかった。
代わりにメモが置いてある。
大泥棒からのメモだ。犯行に成功したというメッセージ。
何てことだ! ぼくの大事なクリスマスプレゼントが盗まれてしまった!
十数年後、俺はプロ野球選手になっていた。
これからシーズン最後の試合がある。
ここまでに打ったホームランの数は、年間最多記録と同じだ。あと一本打てば、記録を更新することができる。
極度のプレッシャーの中、試合が始まった。
俺は何回か打席に立つものの、ホームランが出ない。
で、これがおそらく最終打席だろう。
ここで俺のバットが目を覚ます。ツーストライクに追い込まれてからの、執念の一撃だった。
快音の直後に、球場全体が歓声に包まれる。新記録達成の満塁ホームランだ。
そのホームランボールは球場スタッフが回収して、ベンチまで持ってきてくれる。
ボールを受け取りながら俺は考えた。
十数年前のクリスマス、あの年のプレゼントは盗まれてしまった。年間新記録のホームランボールだ。
(それを、こんな形で受け取ることになるなんて・・・・・・)
大泥棒とその協力者、あの二人には心から感謝したい。