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魔法使いが愛したロボット  作者: 駿河留守
第1章 魔法使いとロボット
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2話 - ロボット、働きに出る 前編④

「あ、危ないところだったよ…」

「いろんな意味でな…」

 息を荒くしながらイズミとハチは安堵の表情を浮かべていました。部屋の火は消し止められていました。しかし、畳とフローリング、壁に天井と焦げてしまいました。もちろん、固形燃料と化した毛布と枕たちは燃えカスになってしまっています。

「真っ黒になった部屋どうするんだよ?」

「魔法で何とかする」

 魔法って便利ですね。

「てか、なんで水かけても消えなかったの?まさか!魔法!?」

「なわけないだろ」

 魔法使いが使うセリフじゃありません。

「油って水の上では浮いてるだろ?水をかけると油はその水の上を滑って広がるから、燃えてる油が部屋中に広がったんだよ」

 そこでハチの指示でイズミの魔法を屈指して急速冷却しました。炎は火種と熱源と酸素の供給がなければ燃え続けることはできません。熱源を失った火は燃えることができず鎮火しました。

「じゃあ、油に火がついちゃったらどうすればいいの?」

「水をかけるな。消火器を使え」

「…勉強になります」

 イズミはあとで消火器がいくらするか調べることにしました。

「まぁ、最悪の事態は何とか免れたな」

「隣の宮城さんに火事の現場を目撃されること?」

「そこじゃねーよ」

 ちなみに宮城に現場を目撃されましたが、イズミが魔法で記憶を吹っ飛ばしたので覚えていません。

 魔法って便利ですね。

「玄関に置いてあるポリタンクの中に燃料が残ってたらマジで消防車呼ばないとならない状況になってたんだぞ」

 確かにポリタンクは熱で溶けて原型をとどめていません。

「え?なんで灯油失くなってるの?」

「え?」

 火事にならなくてよかったね、じゃなくてですか?

「なんで灯油ないの!昨日買ってきたばっかりだよ!」

「仕方ないだろ。腹が減ったんだから」

「ハチ君はなんで灯油で動くの!」

「ロボットだし」

 ごもっともな意見です。

「なんでロボットなの!」

「それロボットの俺に聞く?」

 ハチは呆れました。

「灯油いくらすると思ってるの?18リットルで1134円もするんだよ?二食はご飯食べれる金額だよ?数少ない仕送りでやりくりしてる私にとっては痛い出費なんだよ」

 と涙目でハチにすがります。

「と言ってもな。俺も燃料を補給しないと動けなくなるしな…」

「ちなみにハチ君はリッター何キロくらい?」

「俺を車か何かと勘違いしてないか?」

「教えて!そ、それで月に君にどれだけお金がかかるか計算するから」

 震えながら眼鏡をかけて電卓を取り出しました。

 お風呂が沸いた音が聞こえましたが、それどころではないようです。ハチはイズミの体温を測定しましたが、外で拾ってきた時と比べると体温は正常に戻っています。魔法のおかげでしょう。お風呂で温める必要はなさそうです。

「そうだな…」

 視界のフォルダからハチの基礎情報を検索して視界に出します。

「使用状況にもよるが、灯油だと大体一日23リットルってところか」

 それを聞いたイズミは固まって電卓を落としました。

「てことは一日1449円もするの…」

 18リットル1134円ですと、1リットル当たり63円です。23リットルですと、1449円かかります。その計算と電卓なしに計算したようです。普通の人なら電卓に頼りそうな暗算をしれっとこなすところからイズミの学力は意外と高いかもしれません。

 うつむいたイズミは無言で押し入れを開けました。四つん這いになって奥まで入ってぽいぽいと何かを探しているようです。目的のものを見つけたようで、押し入れから出てきました。

「何?その段ボール?」

「捨ててくるからここに入って」

「俺は捨て猫か!」

 飼うのが難しいなら拾ってきてはいけません。

「無理だって!自分ひとりの衣食住だけでもギリギリなのに!ロボット一台の面倒なんて見きれない!拾ってきたところに戻してくる!」

「待て待て!落ち着け!」

「無理ぃ!拾ってきた私が間違いだったぁ!」

「やめろ!引っ張るな!」

 イズミはハチの腕を力いっぱい引っ張ります。

「待て!それ以上引っ張るな!」

「えい!」

 ぶち!

 ハチの腕が外れました。

「俺の腕がぁぁぁ!!」

 イズミは泣く泣くハチの外した腕を段ボールに入れました。

「これ。不味くね?」

 ハチは身の危険を感じました。

「次は足をもらう…。足を取れば動けなくなって処理がしやすい…」

 魔法を使っていないのに目が赤く、鈍く光りました。

 殺人鬼にしか見えません。

「今までお世話になりました!」

 お世話になった期間、一日半。

 ハチは足のブースターを使って飛んで窓を突き破って逃げようとします。

「させるかぁぁぁぁぁぁ!!!」

 イズミの瞳が今度は本当に変わりました。オレンジ色か茶色に近い色です。するとハチが突き破ろうとする窓の淵が鈍く光りました。

 何も知らないハチは窓を突き破ろうと突っ込みますが、破れませんでした。

「ぐへっ!!」

 ゴッ!!という聞いたことのない鈍い音が聞こえました。まるで分厚い岩でも激突したかのような音です。激突した瞬間、健全な子には見せられないような信じられない角度にハチの首が曲がりました。ぶつかってもブースターでつけた勢いはすぐにはなくならず、激突した衝撃で四肢がバラバラに飛び散りました。

 飛び散った腕はブーメランのように弧を描いて部屋を舞い、ブースターが出たままの足は戸棚を押し飛ばし、テレビを倒し、暴走しています。胴体は激突した窓に張り付いています。頭はごろごろと床を転がります。

「わぁぁぁぁ!!」

 暴走した足が部屋中を飛び回ります。ガラス戸を突き破り、押し入れに穴を空け、電灯を破壊します。さらに足の指がイズミのスカートに引っかかり飛んでいきます。

「うげ!」

 スカートを引っ張られたイズミはバランスを崩して倒れるとそのまま足はスカートを巻き込んだまま飛んでいきました。

「ちょっと!変態!私のスカート返して!」

「と、止まれぇぇぇぇぇ!!」

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