1話 - 魔法使いとロボット 前編
雪が深々と降り注ぎます。冷たい冬の風が窓を冷やしますが、ぬくぬくに温まった教室は少し汗ばむくらい暖かいです。雪は屋根の上や人が通らない場所に少しずつ積もって景色がビルや住宅で埋め尽くされた灰色から白へと変わっていきます。そんな様子をイズミは授業中にぼーっと眺めていました。降り注ぐ雪のよう、とは言い過ぎかもしれませんが、白くきれいな肌に、灰色に近い黒くつややかな髪に黒い瞳に整った顔立ち。一部の男子からは人気がある少女の名前はイズミ。この機械の国の首都にほど近い高校に通う17才です。若い男の先生が教科書片手に近代歴史の授業を行っていました。機械の国と魔法の国の大きな戦争は悲惨な歴史です。戦争はもう二度と起こすべきではないことを若い世代にも教えなければなりません。そんな熱意は雪と冬風の影響ではありませんが、冷めきっています。
すると前の席の女子生徒から一枚のプリントが折りたたまれた状態で回ってきました。もちろん、秘密裏にです。
イズミはプリント受け取って開くと絵がたくさん描かれています。ほぼ、落書きのような絵は矢印を間に挟んで並んでいます。どうやら、イズミは絵しりとりをしているようです。授業をまともに受けずに友達同士で。
シャーペンを顎に当てて絵しりとりの続きを考えていると急に頭を軽く教科書で叩かれました。慌てて絵しりとりのプリント机の中に隠しました。
「え、えっと…」
見上げると先生はとてもご立腹でした。
「今、俺が説明したところを説明してみろ」
「は、はい!」
勢いよく立ち上がりますが、教科書が逆でした。クスクスと笑われます。慌てて教科書の向きを直して教科書を読みます。
「えっと、機械の国と魔法の国の間で締結された機魔協定は」
ぽこんと叩かれました。
「それを説明したのは先週の授業だが?」
先生と目を合わせられませんでした。
「お前には追加で宿題を課す。座れ」
「…はい」
しょんぼりして座ると先生は説明の続きを話し始めました。先生が行ったのを確認してから正面の席に座っているイズミの友人が振り返って面白そうに笑顔を向けていました。やっちゃったと舌を出してお返ししました。
と同時にチャイムが鳴りました。それを訊いた先生は教科書を閉じて教壇まで戻りました。
「今日の授業はここまで。次は機魔和平条約のところから始める。じゃあ、あいさつの前に追加の宿題が課せられたものはこの後宿題を取りに職員室に来ること。わかったか?」
イズミに向かって言いました。げんなりしながら頷きました。
「今日は雪も降ってて滑りやすいから気をつけて帰るように。以上!あいさつ!」
先生の威勢のいい声を合図に
それを聞いた教室の生徒たちはとある生徒が起立!礼!と号令をして授業が終わりました。それと同時に生徒たちはそれぞれ帰るために動き始めました。
「イズミ。ドンマイだね」
イズミの正面に座っている友人。カナコ。若干校則違反のウェーブのかかった茶色に染まった髪に耳にはピアスのザ・ギャルの女の子。背も高く非常にスタイルの良い少女です。
「先生が近づいてるなら教えてよ~」
「うちの背中に目があれば教えられたのになぁ~」
「できもしないこと言わないの」
机の中の教科書、ノートをバックに詰めながら談笑します。
「やっほー。追加宿題量産の女神、イズミちゃん!」
後ろから飛びついてきたのは少し小柄な少女。その衝撃でバックに詰めている最中のノートが床に散乱します。
「ちょっと!何するの~!」
と楽しそうです。
この寒い季節には少し季節外れの焼けた肌に男の子と間違ってしまいそうな短髪ですが、少し赤みがかっています。こちらも校則違反ギリギリに染めているようです。彼女もイズミの友人のナギサです。
「私の手にかかれば、ナギサにだって宿題を追加で与えることは可能だよ」
「やめてくれ~」
「マジでイズミは先生に見つかりすぎ」
「えへへへ。すごいでしょ」
「ほめてないんだけど」
冷めた目でカナコに見られます。
「本当に魔法使いみたいに宿題を量産するよね」
「魔法使いって」
ナギサの言葉にイズミは苦笑いをします。
「さっきの授業引きずってる感じ?話ちゃんと聞いてたの?」
「ちょっとだけ!」
「なら、あたしが問題出してやるよ」
カナコは見た目から素行が悪そうに見えますが、実は学年でトップ10に入るくらい頭のいい子です。対してナギサは見た目通りの成績です。真ん中よりしたくらいで成績は下から数えたほうが早いくらいです。
「そ、それは…」
「わ、私!職員室行ってくるね」
「おう」
「今だ!」
「あ!逃げるな!」
ナギサは机のバックと上着を持ってすさまじいスピードで教室から抜け出してその後をカナコが追い掛けます。しかし、教室を出る前に立ち止まって振り返ります。悠長にマフラーを首に巻きながらです。
「校門の前で待ってるよ」
そう伝えるとナギサを追い掛けに行きました。
「うん」
イズミは返事をしてふたりを見送りました。
「魔法使いみたい…か」
そう呟いてバックを持って、ダウンを羽織って教室を出ました。
魔法使いみたいに言われることは別に悪い気分ではありませんでした。