4話 - 青い空とガソリンスタンドとロボット
今日はとても天気がいい。空は澄んでいてとても青い。
ガソリンスタンドで働く田中君はそう思いました。
田中君は近くの大学に通う大学二年生です。回りからの印象は暗く根暗ではあるが、常識的で場の空気はちゃんと読めます。授業は居眠りしがち。しかし、変な奴ではなく、成績も中の上程度。いわゆる普通の人です。バイトも熱心とはいかないけれど、トラブルなく無難に仕事をこなすので、店長も「彼がいて助かる」と周りに漏らすほど優秀です。
要約すると田中君はトラブルに巻き込まれることがとても嫌いでした。過去に気を利かして同じクラスの女子の仕事を手伝いをしたところ、男女関係をクラス中に噂され冷やかされただけでなく、その女子は規則を破った罰として仕事していたので、勝手に手伝うなと先生に注意もされました。それからというもの田中君はめんどくさいトラブルに巻き込まれないのうに無難に日常を過ごすようになりました。
しかし、最近思うことがありました。
「…彼女、欲しいな」
めんどくさいことから逃げがちの田中君ですが、唯一仲良くしている友人にガールフレンドができたのです。ガールフレンドと遊ぶのが楽しくて付き合いも徐々になくなってきていました。久々に会ってもガールフレンドとの楽しい話ばかりしてきます。妬ましいと最初のうちは思っていましたが、最近は羨ましいと思うようになりました。
人生いろいろ。めんどくさいトラブルもたくさんありますが、そのトラブルを避けるために何もしない人生なんて楽しいはずありません。
「…ああ、彼女欲しい」
ですから、誰もいないときこうぼやくことが多くなりました。
しかし、田中君は女の子とどうやって話していいかわかりません。いざ、女性として、彼女にしたくて、目の前にして話そうとすると言葉が出てきません。
めんどくさがり屋の田中君は最近こうも思うのでした。
「空から女の子でも落ちてこないかな」
落ちてくるはずもありません。落ちてきたところでそれが運命的な出会いで交際に発展するとは限りません。
それでも毎日女の子でも落ちてこないかなといつものようにぼーっと空を見上げるのでした。
すると澄んだ空に一筋の雲が青いキャンバスの上に白い絵の具で線を描いたように走っていました。
きっと、飛行機雲だろうと思って眺めていると飛行機雲が弧を描いて大きくUターンしました。
「…ん?」
そして、その飛行機雲を出す何かがこちらにジェットエンジンを響かせて雲を引いてこちらに向かって来ています。
「な、なんだ!?あれは!?」
田中君が見たもの。
それは食パンを咥えた女子高生が足にジェットエンジンをつけた男におんぶされながら飛んでいました。
それは田中君に接近するとジェットエンジンを逆噴射してブレーキをかけると地面を滑るように着陸し、煙をあげながらちょうど田中君の前で止まりました。
「お兄さん。レギュラー満タン。現金で」
女子高生を背負った男はキメ顔で言いました。
「………」
ア然としている言葉が出ませんでした。
「ちょっと、ハチ君!なんでレギュラーなの!高いから軽油にしてよ!」
女子高生は男から降りて残りの食パンを口の中に押し込んで男に指差ししながらそう主張します。
「ハイオクって言わなかっただけで、優しいと思え」
「やだ!高いじゃん!ガソリン!」
そもそも、ガソリンをどこに給油するのか検討がつきません。
「そもそも、イズミが寝坊しなければ、良かったんだろ!」
「誰かが部屋を半壊しなければ、あんなに疲れることなかったの!」
「イズミが俺の警告も聞かずに好き勝手にやった結果だろ!後始末で疲れたからとか言い訳になるか!送ってもらってるだけありがたいと思え!」
「それに関して私が悪かったけど、なんで私がガソリン奢らなきゃいけないの!」
「次から勝手にボタン押したら燃料を奢りって言っただろ」
「次からでしょ!」
「今回の分を精算しろ!てか、無闇矢鱈にエネルギー使われたから、これ以上飛行するには燃料が足らん!それでもって急に遅刻だから送ってくれって言われたから現金をもってきてない!」
「言い訳じゃん!ロボットのくせに言い訳するだー!ロボットのくせにぃ!」
「魔法使いだったら、ロボットに頼らず自分で飛んで学校行けばいいだろ!」
「それは疲れるからやだ!機械のいいところは文句も言わなければ、疲れたも言わないところでしょ!」
「機械だって、燃料なきゃ働けないわ!飯くらい食わせろ!」
わー!わー!ぎゃー!ぎゃー!と交互に叫ぶ二人の姿はまるでカップルの痴話喧嘩です。田中君は目の前で起きていることが理解出来ず呆然としています。
「ああー!」
突然、イズミが一段と大きな声で叫びました。イズミの視線の先はガソリンスタンドに設置してある時計でした。
「もう!こんな時間じゃん!」
どうやら遅刻確定までのカウントダウンが始まったようです。
「お兄さん!」
イズミがガソリンを入れるノズルを抱えたままの田中君に鬼の形相で迫ります。
「早くハチ君にガソリン入れて!」
「い、入れるって、ど、どこに?」
田中君は目の前で起きていることが意味がわからなすぎて混乱しています。普段なら無難にその場を乗り切ることができるのですが、突然、空から男に乗って飛んできた女にガソリンを男に入れろというのです。無難にどう乗り切るか?そもそも、人にガソリンを入れるってどういうとこでしょうか?
「じれったい!貸して!」
ガソリンを入れるノズルを奪われて、そのノズルを男に突っ込みした。
「お!ごごご!」
男はガソリンで溺れているように見えます。
「ちょっ!何してるんっすか!」
思わず大きな声が出てしまいました。
このままだと溺れ死んでしまう!いや?ガソリンを飲んだ時点で死んでしまう!ん?とにかく!止めないと!
といった具合に混乱しつつも常識ある行動をとります。
「邪魔するなー!」
女の子と間思えない力で押し飛ばされて雑巾や洗剤が置いてある棚ごと倒れました。イズミが魔法で強引に田中君をハチから遠ざけたようです。天を仰ぎながらどうしてこんな目にあっているんだと泣きたくなった田中君に差し伸べる手が見えました。
思わずその手を取って立ち上がります。手を取ってくれたのはガソリンを飲まされた男でした。
「大丈夫か?」
「ふぁ、はい」
声が思わず裏返ってしまいました。この人はガソリンを飲まされて平気なのか?大丈夫ってこっちのセリフでしたが、八木早にいろんなことが起きて言葉が出てきませんでした。
「君、店長に伝えておいてくれ」
ハチは真剣なまなざしで言いました。
「ここのガソリン質が良くておいしかったよ」
「…はい?」
まるでレストランで料理長においしかったと感想を伝えるお客のようでした。
「お兄さん!いくら!遅刻するから早くして!」
イズミは田中君の胸倉をつかんで精算機前まで押しました。言われるがままに精算をするとイズミはきっちり料金を支払いました。
「ツケね」
「ツケじゃない。精算したんだよ!」
痴話げんかが物足りなさそうなイズミですが、時間がないようです。
「行くよ!」
「おう。お兄さん!また来るね」
ハチはイズミを背負うと足からロケットブースターが出てきて、轟音とともに煙が上がって二人の姿が見えなくなるとジェット音と主に二人は飛行機雲を引きながら空の彼方へ飛んで行ってしまいました。
その姿をポカーンと田中君は眺めていることしかできませんでした。
「いやー、田中君。朝早くからすまないね」
店の奥から店長が出てきました。トイレに行くと言って田中君を一時的に一人にしていました。
「あ~、あ。どうしたの?棚なものが散らばってるじゃない」
先ほどイズミに投げ飛ばされたときに散乱したものを店長は拾い始めます。そんな店長の姿を見て田中君は突然、現実に戻ってきました。
「ててて、店長ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「ど!どうしたの?急に大きな声出して?」
田中君は言いました。
「空からパン咥えた女の子が男に乗って飛んできて、男がガソリン飲んで飛んで行きました!」
「…何、バカみたいなこと言ってるの?」
後日、田中君は虚言癖が止まらないことを理由にバイトをクビになったそうです。




