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第7章 7-1 到着、膠着、硬直 その1

 SWAN号のハッチが開いた瞬間、コロニー・シュワーツ特有の柔らかな人工空気が流れ込み、舞たちは、ようやく緊張の糸を緩めた。

 午後3時を少し回ったばかりのドックは、作業音が遠くに響く程度で、思いのほか静かだった。


 タラップを降りた舞たちを迎えたのは、燕尾服に身を包んだアレンと、完璧なメイド服を纏う董 明星だった。

 アレンは深く一礼し、変わらぬ落ち着いた声で告げる。


「お帰りなさいませ、舞お嬢様。皆様、ご無事で何よりでございます」


 明星は普段と変わらぬ優雅な所作で頭を下げたが、玲華の姿を見つけた瞬間、猫耳がわずかに揺れた。その表情には、珍しく『母親』としての色が浮かんでいた。


「玲華・・・。無事でよかった」

「ただいま、お母さん」


 玲華は短く返したが、その声には安堵が滲んでいた。

 アレンはすぐに全員へ向き直り、必要事項を簡潔に伝える。


「今回の件につきましては、すでに財閥上層部へ報告が上がっております。

 正体不明艦による襲撃、そして亜空間での戦闘については、コロニー・シュワーツ側の警備隊が敵艦を拿捕済みです」


 舞が眉を上げる。


「拿捕できたの? あの状態で?」

「はい。特に皆様が『δ』と識別した艦は破損が少なく、乗員2名も確保されております。戦闘機も含め、AIによる操船が主であったため、死者は出ておりません」


 この報告に徹は胸を撫で下ろした。

 自分たちが放った攻撃やウイルス弾が、結果的に敵を無力化したとはいえ、死者を出さなかったことに安堵したのだ。


 アレンは続ける。


「これより公社による尋問と情報解析が行われます。AI判定が行われますので、虚偽は通用しないでしょう。所属組織や目的も、いずれ明らかになるはずです」


 明星が舞へ視線を向ける。


「そして、会長、伊那笠 源一郎様より伝言がございます。

 

 『よくぞ無事に戻った。任務も見事であった。だが・・・。SWAN号が、また妙な進化を遂げておるな』


とのことです」


舞は額に手を当てた。


「徹さん・・・。あとで技術資料まとめておいてくださるかしら。絶対に聞かれますわ」


 徹は苦笑するしかなかった。

 アレンは続けて、明日の予定を告げる。


「本日は皆様休息を。

 舞お嬢様、徹様、ミゥ様の3名は、明日公社へ出頭し、戦闘の詳細説明を行っていただきます」


 舞は小さく息を呑む。


『・・・。ミゥのデータ、絶対そのまま出せませんわね』


 こういう法に疎い舞でも、徹のウイルス弾は、どう考えても合法の範囲を逸脱しているは分かる。敵艦が制御不能になった理由を『自然な不具合』として説明する必要があった。


 舞は決めた。


『今日は徹を家に連れて帰って、お話合いをする必要がありますわね』


 ミゥのデータは本来改ざん不可能だが、徹なら痕跡を残さず書き換えられる。舞はそれを確信していた。そのくらい徹の能力を信頼していた。


 アレンが手を振ると、ドックの外に待機していた車両が静かに近づいてくる。

リムジンと、他のメンバーを送るための複数の車だ。


 明星が茜とチャイへ向き直る。


「本日は私が同行し、ホテルまでお送りいたします。

 お二人とも女性でいらっしゃいますので、私が適任と判断されました」


 その声音は穏やかだが、第一世代獣人としての鋭い気配が滲んでいた。

 カレンは別の車に乗り込み、実家へと帰っていった。

 アレンが先頭のリムジンの運転手と交代すると、舞にうなずいた。

 途端、舞は徹の腕を掴む。


「徹、ミゥを本社でスリープモードにしたら、そのまま伊那笠家に来てもらいますわね」

「え、いや、俺は・・・」


「《《来てもらうから》》」


 徹は観念した。

 しかし、ミゥは会社のメンテナンスルームでスリープモードに入る直前、徹に何度も『いつもの勉強』を要求するのだった。


「マスター。今日モ、学習ガ必要ダトオモワレマス・・・」


 ミゥの表情には、明らかな不満と困惑が浮かんでいる。

 表情筋のシステムであったとしても、その感情の元になっているのはミゥ自身の気持ちである。徹は優しく頭を撫で、これも諦めるのだった。


「分かったよ。ミゥ。少しだけやろうか」


 その後、今回のエデンでの旅の話を基に、少しだけミゥと勉強をした徹は、いまだ不満げであったミゥにスリープモードに入ることをお願いして、ようやく解放されたのだった。

徹も、今回の戦闘ログに関しては、舞と話をする必要性があると理解していたのだ。ミゥには申し訳ないが、これはミゥを守るためでもある。


 舞は、徹がミゥと話をしている間、リムジンで休んでいたのだが、余程疲れていたのだ、すぐに眠ってしまったのであった。

 徹が戻ったときに、舞は、外がすっかり暗くなっているのに気づき、驚いたのだった。

そんなこんなで、舞と徹が伊那笠家に到着したのは、完全に夜になってしまっていた。

 玲華は源一郎の命令で舞と徹の警護を担当しているため、当然のように二人と共に伊那笠家へ向かった。


 こうして、エデンからシュワーツに戻った3人と1体のアンドロイドに、茜とチャイを加えた6人は、それぞれの思惑と疲労を抱えながら、 ようやく長い1日を終えたのだった。


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