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6-6 宇宙、夢中、無重力 その12

 コロニー・シュワーツの公社、ギガ・スペースラインの警備隊チーフのミハエル隊に曳航されながら、SWAN号は無事にコロニー・シュワーツ宙域に戻ってきた。

 SWAN号がコロニー・シュワーツのギガ・スペースラインのゲート境界を越えた瞬間、外界の宇宙はわずかに色調を変えた。


 SWAN号のモニターに、懐かしきコロニー・シュワーツの映像が映し出されると、舞やカレン、そしてチャイたちはほっと溜息をつくと共に、ようやく戻って来た安心感に包まれたのだった。

 もしかしたら、映し出されたその光景は、帰還した舞たちにとっては、『故郷としての温度』を感じさせるものであり、同時に、戦いが完全に終わったことを告げる合図のようにも思えたのかもしれない。


 コロニー自体は外見からではほとんど見た目に差がない。このコロニー・シュワーツは、筒形のドーム型スペースコロニーのテラπ型Type06となっていた。Type04以降のテラ型のコロニーは非常に安定しており、その形状はまったく変わっていなかった。宇宙から見れば、正直、竹輪のような外観をしている。恒星からのエネルギーを集めるために、3枚の羽を広げているが、それ以外は特に特徴もなかった。


 そんな竹輪のようなコロニーを映像で見て、郷愁の念を抱くことができるのかとも言いたくなるが、これがこの時代、全ての意味で故郷である。少なくとも、ミゥを除いた他の乗員は、コロニー・シュワーツの映像を視界に収めて、何かしらを感じ、安堵していたのだった。


 茜にとってはコロニー・シュワーツは特に懐かしいホームではなかったが、命の危険のあった亜空間の戦闘を終えたばかりである。コロニーとはいえ、大地に足をつけることができるのは、やはりほっとしたのだろう。


 逆に、ミゥは少しだけ面白くなさそうな顔をしていたのも特徴的である。


 コロニー・エデンに行き、保養所に泊まり、海でバーベキューを行い、帰り道は正体不明の敵戦艦と戦闘を行った。非常に密度の濃い時間であったのだ。


 徹がSWAN号のメンテナンスを行っていた数日間は、昼間は玲華とチャイ、茜と一緒にいた。逆にそれ以外の時間は、昼も夜も徹と一緒だったのである。


 特に、海に向かう前日、そして戻った翌日は、徹は、ミゥが水につかったことによる影響がないのかどうか、とても丁寧にチェックをしてくれたのだ。また、人工太陽の光を長時間浴びたり、砂浜の砂がミゥの身体に何か影響を与えていないかも、それこそ部品単位で細かくチェックをしてくれた。それこそ、2人きりで部屋にこもっていたのだ。


 それが、コロニー・シュワーツに戻ってしまえば、日中は宅配業に出ることになってしまう。また、宅配業務から戻ると、スリープモードに入る前に一緒の勉強時間はあるものの、すぐにそんな時間は終わってしまう。


 徹との時間は、また元に戻ってしまうのだ。


 ミゥはアンドロイドである。これまでの学習の結果と徹のファジーメモライズシステムのお陰で、確かに感情らしきものが芽生え始めているが、まだまだ感情と呼ぶにはあまりにも拙い。だから、戦闘時も生命の危険を感じることはなかった。徹さえ生きていれば、自分は完全に消滅しても、同じ電子頭脳を移植してもらえれば、その時点ではすべてを同じ状態に戻すことができる。むしろ戦闘中は、徹が自分の傍にずっといてくれたのだ。非戦闘時と比べると距離感も近かった。だからこそ、ミゥはコロニーに戻るよりも、この一連の旅行の間の方が自分にとって良いと考えてしまっていたのだ。それだけではない、そんな自分の考え自体も否定したいような気持ちもあったのだ。そして、それが顔に出てしまっていたのだ。


 徹は、ミゥが新しく得た疑似的な表情筋を管理する感情の種類を換装時のときの6つから、さらに進化をさせていた。まずその分類を8つに増やしていた。喜び、期待、悲しみ、怒り、恐れ、驚き、嫌悪、信頼の8つである。そして、それを、社会的感情、道徳的感情、自己関連感情、対人感情、動機付け感情の5つでさらに細かい感情へと発展させるような新しいシステムにアップデートしていたのだ。そして、これを周囲にいる人間の行動から、その時の対象になっている人の表情を平均化して記憶する方法を取っていたのだ。


 社会的感情が羞恥、誇り、嫉妬、羨望となり、道徳的感情は義憤、感謝、尊敬、罪悪感という形である。自己関連感情は、自信、劣等感、自己嫌悪、達成感、困惑など、自己評価につながるものとして、逆に対人感情は愛情、友情、信頼、嫌悪、軽蔑とした。最後の動機づけ感情が、行動の原動力になるものとして、やる気、焦り、倦怠、興奮である。これらの感情は、人を観察していれば多くの場面で見ることができるものであり、その度にミゥは学習をしているのだ。


 表情は、周りにいくらでも学習する対象がいる。特に今回の護衛任務では、多くの感情とその表情を学んでいたのだ。そして、今回ミゥが自然と浮かべた表情は、悲しみと自己嫌悪だった。


 自分と徹の蜜月が終わってしまうことに対する悲しみと、命の危険があった戦闘を終えて皆が安堵している中で、それを面白く思っていない自分に対する自己嫌悪である。


 それと同時に、ミゥは徹が授けてくれた表情を司るシステムにも少し困惑していた。確かに、人としては感情を顔に出すのは大切だが、アンドロイドのミゥとしてはどうなのだろうか。周りにいる同僚たちやチャイは、人として扱ってくれているところが多分にある。しかし、そうではない人はどう思うのだろうか。例えば、宅配をした先で、自身の身体をジロジロ見てくる相手に嫌悪感を顔に浮かべることは良いとは言えない。ミゥは理屈ではそれを理解していた。まだ表情を取り繕うことができないミゥは、ポーカーフェイスも演技もできないからだ。


 ミゥはそんなことを考えながら、着陸の準備に向けてナビゲーターを整理している徹に視線を向けた。

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