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6ー5 宇宙、夢中、無重力 その11

 状況はかなり厳しかった。

レーザーは利用不可であり、衝撃と破損した時の破片により機関銃銃口も閉鎖してしまっている。また、SWAN号の電磁バリアも残存率20%しかない。


「敵母艦後部ミサイル発射口ヨリ、飛翔体4。全テ実弾ミサイルト推定」

 ミゥの声が、いつも以上に冷たく響いた。


「来やがったな・・・!」

 カレンが歯噛みし、即座に操作パネルへ手を伸ばす。


 立体モニターには、4本の赤い軌跡がSWAN号へと迫る様子が描かれていた。

 その前方には、ダミーAとダミーB。

 ダミーAの電磁バリアが残り46%。ダミーBの電磁バリアの残りが56%。どちらも、すでに電磁バリアは半壊状態だ。


「A、B、それぞれ迎撃軌道に移行。突っ込ませます」

 徹の声が短く響く。


「了解。ミゥ、ダミー制御を優先」

「実行シマス」


 ダミーAが右へ、ダミーBが左へと滑り込み、ミサイルの進路に割り込んだ。


 次の瞬間・・・。


 ドンッ!!


「っ……!」

 客席全体が大きく揺れ、舞たちは思わず手すりにしがみつく。


 ダミーAのバリアは一撃で吹き飛び、そのまま爆散。

 ダミーBは1発目を受けてバリアが13%まで低下し、 そのまま横から突っ込んできた2発目を受け止めて、こちらも爆散した。


「ダミーA、ダミーB共に消失・・・」

 カレンが叫ぶ。


「残リノ1発ガSWAN号ニ直撃ノコースニアリマス」

 ミゥの声が重なる。感情がほとんど感じられないだけに、怖い。


「バックスラスター全開!衝撃に備えてください!」

 徹の指示と同時に、船体が後方へと強く押し戻される。

そして・・・。


ガアァンッ!!


 船体全体が悲鳴を上げるように軋み、SWAN号の電磁バリア表示が一気に1%まで落ち込んだ。


「ひっ・・・」

 茜が小さく悲鳴を上げ、玲華も珍しく声を失う。


「・・・まだよ。まだ終わってませんわ!」

 舞が震える手を握りしめ、前を見据えた。


 そんな中、ミゥが静かに口を開いた。


「マスター。心拍数ガ通常値ヲ上回ッテイマス。呼吸ガ浅クナッテイマス。休息ヲ推奨シマス」


 徹は苦笑しながら答える。


「え?このタイミングで?まあ、いや、ミゥ。これは・・・ただの疲れだよ。大丈夫」

「大丈夫、ノ定義ヲ提示シテクダサイ」


「・・・」


「マスターガ機能停止スルト、SWAN号ノ安全性ガ著シク低下シマス。

 マスターガ無事デアルコトハ、SWAN号ノ最適行動ニ不可欠デス」

 ミゥは淡々と続ける。


 その言葉は、あくまで『論理的説明』の形を取っていた。

 だが、舞は気づいた。


『これは、心配しているのだ』


 人工知能らしく、感情ではなく『論理的必要性』として言葉を紡いでいるだけ。

けれど、その声色はどこかぎこちなく、 普段のミゥよりもわずかに早口だった。


 舞は、ふっと微笑む。


「ミゥ。徹さんは大丈夫よ。あなたのマスターは、しぶといもの」

「舞サン。根拠ノ提示ヲ求メマス」


「経験則よ」


 ミゥは一瞬だけ沈黙し、その後、ほんのわずかに音程が上がった声で返した。


「了解・・・シマシタ」


 その微妙な変化に、徹は気づかない。

 だが、舞とカレンは気づいた。


 カレンがニヤリと笑う。


「ミゥ、お前・・・徹のこと、ちょっと心配してたろ」

「否定シマス。ワタシハSWAN号ノ安全性ヲ・・・」


「はいはい、わかったわかった」

 カレンが軽く手を振る。


 ミゥは言葉を止めたが、

 その沈黙は、どこか“照れている”ようにすら感じられた。


 そして、次の瞬間に、再び、ミゥの声が艦内に響く。


「敵母艦ノ制御系統ニ異常発生。ウイルス侵入ヲ確認。制御停止シマシタ」

「やった・・・!」

 カレンが椅子にもたれかかり、深く息を吐く。


 敵母艦の動きが完全に止まり、

 追撃していた小型艦も次々と沈黙していく。


 戦闘終了。


 その言葉を誰も口にしないまま、ただ、全員がその事実を理解した。


 そして、10分後――


「後方ヨリ接近船影。識別コード一致。シュワーツ警備艇、ミハエル隊ノ信号デス」

 ミゥの報告に、舞はようやく肩の力を抜いた。


「助かった・・・」

 誰ともなく漏れたその言葉が、SWAN号の中に静かに広がっていった。


 全員が、生き延びたのだ。


 警備艇がSWAN号の後方に並び、通信要求が届く。回線を開くと、スピーカーから、警備隊隊長のミハエルの声が響いた。


「SWAN号、接舷準備完了。これより曳航を開始する。 よく持ちこたえたな。事情は後で説明してもらうが、本当に、よく生きていた』


 その言葉に、舞は静かに目を閉じた。


「お仕事ご苦労様です。警備隊の皆さん。この船舶、SWAN号のオーナーである伊那笠財閥の伊那笠 舞ですわ。」


「言うとおりに、仕事だ。船籍の確認はできている。これからシュワーツ方面へギガ・スペースラインを抜ける。」

極めて事務的だが、ミハエルの温かい声が再びスピーカーから聞こえた。


 SWAN号は、警備艇に曳航されながら、ゆっくりと動き出し、戦闘宙域を離れていく。


 その船内には、戦い抜いた者たちの安堵と、

 そして、アンドロイドであるはずのミゥの、わずかに揺れた“心”が確かに存在していた。


 そして、SWAN号は、無事にシュワーツ側のギガ・スペースラインのゲートを抜けて、ようやくコロニー・シュワーツ宙域に戻ってきたのだった。


誤字の修正。2026.3.4

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