6ー3 海、美女、びしょ濡れ その9
茜、徹、ミゥの 3人が残り物の食材で作った焼きそば等は、思ったより売れ行きが良かった。チャイや玲華はもちろんのこと、舞やカレンたちまで綺麗に平らげてしまった。
片付けはといえば、茜の協力もあり、タープテントとその下のバーベキュー関連のテーブルや椅子もほどなく片付き、一つにまとめられていた。まとめられたそれらの道具はホテルの従業員たちが、せっせと保養所へと運んで行った。
多少の片付けはしたものの、最後の大仕事は別の人がやってくれるという贅沢。基本真面目な茜としては、最後までやりきった感がなく、なんとなく奇妙な気持ちになったが、これも一つの社会勉強だと割り切ったのだった。
それに今回は、
『意外な出会いもあった』
それが、茜の隠すところない感想だった。
『最初はどれだけキテレツな男なんだ 』
と、感じていた江藤 徹が、
『頭も良く、周囲に配慮もでき、料理一つをとっても卓越した知識を有している、そんな魅力的な男性である』
という印象に変わったのだ。
『一回りも下の 若い子に・・・』
と、思うところがなかったわけではないが、茜が実際に接した時の印象としては、
『自分より年上の落ち着いた紳士』
であるように感じられたのだ。
『機会があれば食事にでも誘ってもう少し話をしてみたい』
最終的には、茜はそんなふうに思っていたほどだった。
そんな茜の気持ちをに感づいたのか、あるいは単なる偶然か、舞が茜の懸想に水を差した。徹がアレンのいるテントにミゥと一緒に移動し、茜も最初に横になっていたパラソルのあるソファーに移動すると、すぐに舞が、
「徹さんが後片付けを頼んでしまったみたいで、ご迷惑だったでしょう。でも徹さんへの印象は少しは変わったかしら」
と、声を掛けられたのだった。
茜は、急に話しかけられたこともあり、気の利いた答えを用意できず、
「迷惑?私は全然迷惑なんかじゃないですよ。そうですね。素敵な方ですね」
と、思わず答えてしまった。
舞は一瞬だけきょとんとした顔を見せたが、
「でしょう?あなたは目が高いわ。だからこそ私にふさわしいと言えるのよ」
そう鼻高々に 言ったのであった。
茜はほっとして、胸をなでおろした。
どうやら、
『自身の恋人として』
という方向に私の発言を捉えてくれたようだった。
茜は、自分自身がどういう気持ちで先程の言葉を口にしたのかは追究こそはしなかったが、舞が感じたそれとは少しだけ違うことには気付いていた。ただ茜は常識人である。この件に関してはここで考えるのを止めた。
しかし、茜も舞も気付いていなかった。
この会話を横で聞いていたカレンが小さく舌打したこと。さらには、アレンのテントで徹と並んでパイプ椅子に座っていたミゥが、ジト目で茜を睨んでいたことを・・・。
妙齢の女性が、まず『素敵』なんて語彙を用いて男性を評価したのであれば、まあ怪しい。しかもミゥにとっては、もう一つ理由があった。それは、学習材料として何度も見た映画『ローマの休日』の1シーンが関係しているのである。
男性が女性に、『迷惑ではない』と伝えるシーンがあるのだが、その言い回しと茜の言い回しがとても似ていて、ダブって感じられたのだ。男性、女性の立場も逆だし、前後の状況も違う。しかし、茜が言ったその言い回しは、そう感じられるものだったのだ。感じたものをそのまま直訳するのであれば、
『あれは下心がある』
である。
徹がまったく予測していない部分で、ミゥの学習効果がでた瞬間であった。
そして、こういうところだけは、カレンはかなり鋭い。
しっかりとミゥの視線にも気付き、お互いに頷き合ったのだった。ミゥ・カレン同盟が結ばれた瞬間であった。
さて、そんな水面下でのやり取りが一段落ついた所に、おやつを食べ終わってから再び海で遊んでいた、チャイと玲華がびしょ濡れのまま戻ってくる。
2人はまず、舞たちのもとには行かずに、徹とミゥのところに顔を出した。
「ミゥお姉ちゃん、せっかく海に来たんだから、一度くらい海に入ろうよ」
チャイがミゥの腕を掴んで引っ張りながらそう声を掛けた。
ミゥが困ったような顔をして徹の方に顔を向ける。今度は玲華が、
「徹、ミゥの水中テストはしないのかにゃん?あんまり、こういう機会はないにゃん?」
徹に玲華らしからぬ提案をする。
チャイは、ミゥたちがエデンに来てから、玲華が徹のことを名前で呼ぶのを初めて聞いた。
「姉御、姉御はその変態、名前呼びなの?」
玲華は、
「当たり前にゃん。舞お嬢様の家で一緒に住んでたにゃん。幼馴染みにゃん」
と、尻尾をブンブン振りながら説明した。
徹は、
「幼馴染みって・・・。しかも一緒にって、私は離れで、玲華さんは使用人寮じゃないですか。誤解受けますよ・・・」
と、慌てて付け加える。
「どっちでもいいにゃん。青春時代を共に過ごした仲良しにゃん」
チャイが、
『三角関係』
と、呟きながら目をキラキラさせている。
玲華の真意がどこにあるかは置いておいて、徹はこれ以上玲華の話に付き合うと誤解が広がると判断をして、
「ミゥ。じゃあ一回水に身体を浸してみようか」
と言って、話を切り上げた。
ミゥは、
「防水チェックシークエンスヲ開始シマス」
と、準備を始めたのだった。
徹とミゥ、それとチャイが波打ち際に向かう一方、玲華はワザワザ少しだけ舞たちのパラソルに近い場所をゆっくり歩きながら大声で、
「ミゥ、いよいよ水も滴るいい女作戦決行にゃん。徹もイチコロにゃん」
叫びながらチャイたちを追いかけた。
当然、舞たちが反応を見せる。
海に入る予定などこれっぽっちもなかった舞とカレンが、
『負けるものか』
と、急いで起き上がると、玲華を追いかけた。
見え見えの挑発であったが、最近のミゥの女子力は侮れないと感じているだけに、舞たちも挑発に乗るしかなかった。
茜は参戦する意義は感じてはいなかったが、皆が最後に水浴びをしようという時に、1人残るほど協調性がない性格でもなかったため、ゆっくりと起き上がると、舞たちに続いた。
玲華は、波打ち際にに皆が集まったのを確認すると、ビーチボールを高々と掲げて、
「第1回 カンパニーミゥビーチバレーボール大会開催!」
と、宣言を行った。
そのまま玲華は、両の手の平でボールを天に向かって弾き飛ばしたのだった。続いてミゥが、その次に茜がと、ボールは綺麗な弧を描いていった。
そもそも、ビーチバレーボールとはまったく違うボール遊びではあったが、誰もツッコミはいれなかった。
最初は面倒くさがっていた舞とカレンも徐々にノリノリになっていき、最後の方には海に頭から突っ込んでボールを拾い合う戦いへと変化していった。ボールを落とす度に玲華が茶化すため、負けずぎらいの面々は自ずとヒートアップしていったのだ。
結局、玲華が大会の終了を告げたときには、全員がびしょ濡れの状態だった。
美女、美少女が水着で激しく走り回る姿は、野次馬たちには大変魅力的的だったらしく、人だかりが出来ていた。
まあ、水も滴るいい女を十分に発揮できたようである。
夜は皆疲れきってしまい、夕食もそこそこに爆睡したのだった。
バーベキュー編終了。いよいよ大詰めに差し掛かります。頑張っていきます。




