表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宇宙宅配便カンパニー「ミゥ」!  作者: いのそらん
2部
81/94

6-3 海、美女、びしょ濡れ その7


 茜は心からこのBBQを愉しんでいた。

 茜は芸能プロダクション界隈では、そこそこ有名なやり手のマネージャではあった。

 一時期は、経営側に立っていたこともあり、平均以上の高収入を得ていた時代もあった。ただ、浮き沈みの激しいこの業界で、茜がやっていきたいと思う仕事が、経営陣として運営に参画するよりも『宝石の原石であるアイドルの卵を育てていくこと』だと気づいたため、現場に戻ってきたのだ。

 これは、所謂『やりがい』というものを選んだ結果だった。


 茜は、運良くチャイという『原石』を見つけて、今回の脅迫状のような多少の紆余曲折はあるものの、順調にスターへの階段を上っている少女に寄り添えている。そして今、茜がプロデュースしている少女であるチャイは、本来はビジネスとしての間柄であるはずの警護を請け負ってくれている会社のスタッフたちと歓談、大騒ぎ?しながらBBQを楽しんでいる。


 それも単なる警護会社ではない。本業は警備とは何の関係もなく、たまたまチャイのパトロンを務めてくれている伊那笠財閥のご令嬢が中核になって経営している法人、つまり「カンパニー・ミゥ」が警護任務も請け負ってくれているのだ。チャイは、その会社のスタッフたちと、もう友達と言っても差し支えない距離感で観光気分を満喫していた。


 茜は、チャイは孤児院出身で、孤児院の友人たち以外には縁故はないと思い込んでいた。というか、そう報告書にもあった。

 もちろん、先のシュワーツ脱出劇は知っていたが、巻き込まれたのは会社であって、チャイはむしろ迷惑をかけた側である。恨まれこそすれ、こんな友達めいた関係を築けるような関係性ではないはずである。それにチャイがカンパニー・ミゥに宅配物として集荷されてから脱出劇までの、ほんの2,3日の間の関係である。当然、ミゥを例外としても、他のメンバーたちと深い人間関係を作る時間などあったはずがない。

 しかし今、友人、いやもう家族というぐらいの距離感で、ワイワイしながら皆と楽しんでいるのだ。

 普通に考えれば、異常な状態でもあった。


 しかし、アイドルの卵として考えれは、良いこと尽くめである。


 なにせその友人は、あの伊那笠財閥の跡取りである伊那笠 舞とアンドロイド業界では知らない人はいないという天才科学者たる江藤 徹なのだ。その2人と、その周囲の面々がチャイを気にかけてくれている。特に舞はスポンサーにもなってもらっているし、今回の警護依頼だって、自立思考型アンドロイドである『ミゥ』による要人警護ということで、既に話題になっている。

 そして警護そのものも、カンパニー・ミゥの面々がどうだということではなく、『伊那笠の庇護下にあるのだから、結果安全なのだろう』という保証付きのようなものであった。


 信じられないようなチャイの幸運がもたらした風景を目の前に眺めながら、美味しいBBQに舌鼓を打つ。チャイがトップアイドルになるまで付き添っていくつもりの茜が、これが嬉しく、楽しくないはずがない。

 だから、茜は、本当の意味でこのBBQを愉しんでいたのだ。


 そして、もう1つ・・・。

 そう、それは、白米の存在である。


 お米を食べる機会はあっても、白米をそのまま食べる機会は、実はあまりない。価格の問題もそうだが、なにより白米だけで食べることのできる品質のお米が一般には流通していないのだ。


 だから、米は加工したり、餡やタレを掛けて食べることが一般的である。しかし、今回は、白米。しかもブランド米のササニシキが用意されているという。日系人である茜にとっては生唾物である。


 その白米は今、目の前にあった。

 1粒1粒が輝いており、まさに米粒が立っている。艶もあり、なんとなく甘い香りまでが漂ってくる。


 箸を使う習慣があまりない茜は、スプーンをつかって、その白米をほんの一口だけ口に入れる。


「あ、甘い・・・・」


 茜は、思わず感嘆の言葉を漏らす。

 もちろん、本当に甘いのではない。


『噛むと噛むほどにほのかな甘みと芳醇な香りが口の中一杯に広がる』

 というお米の試食リポートでありがちなフレーズの『甘い』である。このお米は、まさに『湯気までおいしい』(たぐい)のお米なのだ。


 そして、そのお米を塩気のあるタレにつけた極上肉、宇宙時代の一般的な焼肉でよく食べるような合成肉ではない。本当の霜降りの牛肉。A5ランク相当の、口に入れた瞬間にとろけるような極上の肉だ。


『肉は飲み物』

 と、言ってしまいたくなるようなとろけるお肉を、ニンニクとゴマの味が効いたちょっとだけのピリ辛のタレに付けて、この白米と一緒に口に放り込む。


 まさに至福。誰もが、


『あぁ。こんな食レポ観たら、もう今日の夜の献立は焼肉!』

 となってしまうぐらいの素晴らしい味の競演。

 まあ、とにかく茜は愉しんでいたのだ。


 茜は、そうやって焼肉を食べながら、斜め前に座っている徹を観察していた。

 茜は、玲華とミゥの手伝いをしてBBQコンロの管理をしながら食べていたので、皆の動きがよく見えていた。


 まず先ほどから、焼いた肉や魚を、ミゥがひたすら徹の前に積んでいる。これは愛情表現なんだろうか。それもわざわざ、徹の隣に座っている舞との間に割って入るようにしながら、焼いた肉を積んでいるのだ。

 そして、舞はミゥが持ってきた肉を、何度拒否られてもめげずに、徹の口に運んでいる。しかも、


『はい、あーん』

 と、繰り返しているのだ。あれは、新たなプレイスタイルなんだろうか。


 カレンは、徹の前に座って、既に酔っているのだろう。目のやり場に困るような胸を強調しながら、徹に絡みまくっている。ぶっちゃけ面倒くさい絡み酒タイプの上司を彷彿させる。


 チャイは、徹をディスりながら大笑いして、徹のところに積まれた食べ物を、つぎつぎ口に放り込んでいた。


 本人がそう思ってるかどうかはわからないが、江藤 徹はハーレム状態であったのだ。まあ、玲華も含めて、全員が女性ではある。詰所にはロマンスグレーの渋いおじさまのアレンが居たが、このBBQに絡むことはない。


 そうやって観察していると、あることに気づいた。

 ハーレムの中心にいる徹は、さりげなく場をコントロールしていたのだ。


 カレンが酔ってフラフラしていると、水を勧めて飲んでもらい、どこから出したのか『酔い覚まし』をカレンに勧めている水に溶いている。それも酔いが醒めるほどではない絶妙な量をである。

 また、舞がしつこく迫ってくると、チャイに話題を振って、うまく回避し、しかも時々舞が喜ぶような話を振って場を持たせている。

 ミゥが肉を積み上げれば、『焼き加減』や『焼いたものの分配の仕方』など、アンドロイドの人工知能の教育も忘れない。

 玲華には定期的に、警護という視点から、周囲への注意を促す声掛けをしていた。それも極めて自然に。

 茜は、


『実は、江藤 徹は単なるメカフェチではなく、優秀なのかもしれない』

 と、そんな感想を抱き始めたのだ。


 まあ、徹がIQが高いのは事実ではあるのだが、茜はまだそこまで詳しく徹のことを知らない。

 この徹の行動は、優秀とか優秀じゃないとかそういう問題ではなく、普段、この濃い面々に囲まれ続けた結果、徹が身に付けた処世術、もとい苦労の結果のであるということに・・・・。


 そんなこんなで、BBQは進んでいき、お腹が膨れたところで、玲華とチャイが海にダイブを始めたのだ。


ふう、ついつい茜パートは力が入ってしまう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ