6-3 海、美女、びしょ濡れ その6
BBQが始まると、昨日の夕食の時と同じで、玲華の独壇場となった。特に玲華が何かを重要な指示したり、役割を果たしているというわけではないが、とにかく仕切っていた。
玲華は皆の食べっぷりを確認しながら、ミゥに次に焼く食材の指示を出していたのだ。
重要な指示を出しているって?
玲華が指示をしている内容が状況に即した適切なものであったなら、確かにちょっとは意味のある指示なのかもしれない。しかし、玲華は、とにかく海鮮、しかも魚しか指示しないのだ。
一方ミゥは、玲華に急かされるようにひたすら魚を焼いていた。このBBQにおける調理係は、ミゥであったからだ。
ミゥは特に何かを食べるわけでないので、皆が食べたい食材を焼く担当になるのが確かに効率はいい。
しかし、厳密な意味でBBQを理解していないミゥは、とにかく玲華の指示に従ってしまうのだ。
で、それをなぜか茜がひたすらフォローをしていたのだ。
そもそもバーベキューは、確かに肉を焼く係がいる場合もある。では、この茜の立ち位置はなんなんだろうか。
あくまでで地球時代日本国における例示ではあるが、ちょっとBBQにおける焼き担当を掘り下げてみることにより、茜の立ち位置がはっきりする。
大学のサークルでのBBQは、自身を『皆の役にたつ縁の下の力持ちのナイスガイ、という側面もあるんだぜ』っていう見せたがり男子が、まず最初に名乗りをあげる。次に、その男子に気がある女子が『私料理はあんまり得意じゃないけど、あなたが頑張ってるから助けてあげる、私は思わず付き合いたくなるプリティガール』みたいな感じで出てきて、結果として自然発生的に焼き担当が決まったりするのだ。
焼き担当の話とは関係ないが、もちろん他のサークルメンバーもその焼き担当の2人に興味がない場合に限り『食べたいもの何かある?』『飲み物お茶でよかった』などと、男子女子共に会話のきっかけを模索しながら欲望渦巻く頭脳戦が繰り広げられることになる。
では、会社のバーベキューだと、どうだろうか。
会社になると役職や、その力関係が関係してくることが多い。
まず、新入社員や部署内でものを頼まれやすい性格の職員が、イベント係なる謎な担当を拝命し、彼らが準備から約担当までをこなす。ここは大きく大学サークルとは異なる。
社員の多い企業になると『気遣いや配慮、周囲を調整する能力に長けていると上司に思われたい俺って(私って)エリート』っていう職員が上司の好みを確認して、いきなり上司の分だけ焼き担当として割り込んできたりもする。また『俺様、この私は、人が持ってくるもの食べるだけの食べ専』などと、勘違い系モテ男、自己中男、僕ちゃん、お局様、お姫様、女王様など自分では絶対に焼きには参加しない職員もいたりするのだ。欲望の方向性が多岐にわたるため、ある意味カオスである。しかし、その陰で『しょうがない僕(私)がやるか』という、お人よし軍団が焼き担当になる場合もあったりもするためプラスマイナス0であろうか。
鍋奉行もそうだが、基本どんな大学サークルでも会社でも、宴会時にわざわざ名前を指定して、鍋担当、焼き担当、酌担当、盛り上げ担当などを指名することはまずはない。
しかし、蓋を開けてみると、だいたいこれら役が自然発生的に生まれているのだ。生まれ方は絶対とは言わないが、大なり小なり先ほど挙げたような理由があるのである。
さらに、実はこのBBQ開始時の担当、BBQの間ずっと継続してるわけではないのだ。ある程度の時間が経つと放棄されることが多く、場合によっては最初からある部分がごっそり欠けてしまっていたりもするのだ。
大学サークルの場合であれば、ある程度肉がいきわたり、皆の意識が食事から会話や遊ぶことに移ると、だいたいは焼き担当なんか居なくなってしまい、残った食材はそのまま放置され、炭火も維持できなくなってしまう。
会社であれば、皆にある程度アルコールが入ってくると、完全に開始時の担当は崩れてしまう。アルコールの影響で予測できない行動をとり始めるからだ。歩き回っていろんな人に絡んだり、場合によっては酔い潰れて寝てしまっていたりもするのだ。
そんな時に現れるのが、BBQで残った食材を焼き始めたり、酔い潰れた人の世話をしたり、場合によっては余った食べ物を持ち帰れるようにまとめてくれたり、BBQを終了に向けてスムーズに進行するように手配、後片づけを同時並行的に担当してくれるお人好し軍団こと『世話を焼名人』である。この世話焼き名人、場合によっては恋のキューピッドにもなってしまう万能さんであることすらあるのだ。
例え話が長くなってしまったが、まさにこの『世話焼き名人』が茜の立ち位置であるのだ。
今回にメンバーを振り返ってみよう。
自分で焼くことなんてありえない舞。
もう完全に酔っぱらいのカレン。
ひたすら食べているチャイ。
自分の欲求のみ追及している玲華。
舞とカレンに絡まれてオロオロしている徹。
玲華の指示に従い、ひたすら焼いているミゥ。
これでは、まもとなBBQなど成り立つわけがない。
茜がミゥの横に立ち、皆の注文をさりげなくまとめながら、適切な指示を出しなおす。
焼き加減については、茜自らが手を貸して、ミゥに指導教育。
併せて、平均的に食材が減っていくように調節し、さらには後詰のアレンにも一通りの食事を運ぶ。茜がいるからこそ、成り立っているBBQであるとも言えるだろう。
まさに、できる女であった。
結局、ある程度BBQが落ち着きを見せてから、茜はようやく自身の食事を始めることができたのだった。
いやー本当に必要な話かと言われると・・・。
でも、メンバーの雰囲気を少しでも感じられるようにと思い・・・。
いやー若い頃思い出します。




