6ー2 保養所、アンドロイド、そして歓談 その8
つまり、ミゥは食べる必要がまったくない。
しかし、食べる能力は有している。
では、食べたものがどうなるのだろうか。簡単である。圧縮してゴミとして体外に排出されるのだ。残念ながら肛門からではなく、腰の接続端子のすぐ上にある、排出ポットから1㎠ぐらいの立法体で排出されるのだ。
ミゥは、現状、味の分析はできても自身の感覚で『美味しい』と感じることが出来るわけではない。
そのため、徹もミゥに積極的に食事をとらせることは望んではいなかったし、ミゥもその必要性を感じていなかった。
今回は、皆が美味しそうに食べているのを見守る形で参加となった。それでも、途中で、
「ミゥお姉ちゃんは食べないの?」
だとか、
「ミゥは食べないのかにゃん?もったいないにゃん」
などと、食事に誘う声もあったが、ミゥは結局最後まで食事には手を付けなかった。
楽しい食事の時間も終盤に差し掛かると、皆の話題は自然と明日の予定に移っていった。
玲華が、
「明日の予定は、海にゃん!」
と、口を拭きながら宣言をした。
舞が、
「海?そんなものを許可した覚えはありませんわ」
真面目な顔でたしなめる。
「けっ。何が許可だよ。こいつ、エデン行きが決まってから、何着も水着買ってきて、その度にあたしに感想を言わせてたんだぜ」
カレンが、すかさずツッコミを入れる。
「な、な、なにをおっしゃってるのか分かりませんわ。エデンに行けばそういう機会もあるかと思い、万が一に備えて用意をしただけですわ」
舞が、ムキになって否定をする。
「何が、そういう機会だ・・・。誰かさんに見せようと思って、悩殺ポーズまで考えてっ・・・・」
舞が、慌ててカレンの口を押さえる。
「や、やめろよ。事実だろうが・・・」
カレンが口をモゴモゴさせる。
「カレンさん。あなただって、大きい胸があたしの武器だ!なんて言って、すごいの選んでたのではなかったかしら・・・」
舞が反撃に出る。
「ばっ・・バカ言うなよ。いい歳こいて、そんなもん。。。」
カレンが顔を真っ赤にして口ごもる。
舞もカレンも徹を意識してか、チラチラとそちらに視線を向ける。
茜は、そんな2人の様子をみて状況を理解した。
『2人とも、あの冴えない変態男を!?』
心で驚きを口にする。
『確かに、天才科学者というのは事実なのかもしれないけど、だってアンドロイドの胸をまさぐっている奇天烈な存在でしょ?』
頭の中が疑問符で一杯になる。
『それに、代表のカレンさんはさておき、伊那笠のお嬢様は、いくらなんでも釣り合わないでしょ』
茜は茜で状況を見ながら、きょろきょろしていた。
チャイが舞とカレンに割って入る。
「うわぁ~。いいなぁ。海。あたしも海に行きたいなぁ~。リゾート観光地に居るのに、まだ海で遊んだことないんだよね・・・」
「一緒に行くにゃん。抜かりはないにゃん。ミゥのスキャンデータを基に、チャイの水着も用意しているにゃん!」
玲華が目をキラキラさせながら、チャイに告げる。
「ほんとう?さっすが、姉御。一生ついていきます!」
いつの間にか、チャイが玲華を『姉御』呼ばわり。
「うちに任せるにゃん。計画はばっちりにゃん。パラソルもベンチも、海に浮かべるサメボートも用意済みにゃん」
「すごい、すごい。じゃあ明日は皆で海だね」
チャイと玲華は大騒ぎである。
「茜さん、いいよね?」
チャイが茜をみて、許可を求める。
茜は、
「え?いぇ・・・。警護の方がそれで良ければ・・・」
言葉を濁しながら、舞に助けを求める。
舞は、
「徹さん、ミゥの防水は問題ありませんの?塩水ではないかもしれませんが、人も多いですし」
ミゥに託つけて徹に判断を丸投げする。
「あ?」
もぐもぐと我関せずで食事を口に運んでいた徹が顔を上げる。
「防水は大丈夫ですよ。そもそも泳ぐこともできるはずです。また、砂地の砂浜、水の中でも十分な機動力を確保できるぐらいの駆動系は保持していますので問題ありません。むしろ、砂地のテスト稼働に良いかもしれません」
徹が、呆けた言葉に続けて、所感を述べる。
茜は、驚いて徹に顔を向ける。
「すいません。江藤さん。アンドロイドが海水浴をするのですか?」
徹は、
「ええ。もちろん。でも海水浴ではなくて、海水浴場環境下でも稼働可能という意味ではありますが」
茜の質問の意味を計りかねて、とりあえず無難な答えを返す。
「いぇ。そうではなくて、脅迫状が来て、警護が必要な状態で、それでアンドロイドも一緒に海水浴・・・・。いぇ・・・。もういいです」
茜撃沈。
唯一の常識人、茜が警護下で海水浴としゃれこもうとしている面々に折れたところで、カレンが、
「じゃあ、明日は入口にそれぞれ準備をして、9時に集合な」
そう、号令をかけた。流石社長。
「それと、玲華、当日のお膳立てはすべて任せた。大丈夫だろうな?」
カレンは、玲華に確認を飛ばす。
「ボス。準備万端。細工は流々にゃ!」
頼もしい答えが戻ってくる。
これで、明日の海水浴は決まった。
最後、ミゥが、
「私モ水着ハ必要デショウカ?」
と、質問を口にする。
全員が、
「いるだろ」
「要りますわ」
「つけなきゃだめだよ」
「いるんじゃないでしょうか」
「可愛いにゃん」
「着けても稼働効率は変わらないよ」
久しぶりに、ユニゾン?した。
何はともあれ、明日は美女、美少女、プラス野郎1名、輝く人工太陽の下で、海水浴となったのである。
いよいよ、次は海にいきますよ!




