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宇宙宅配便カンパニー「ミゥ」!  作者: いのそらん
2部
70/94

6ー2 保養所、アンドロイド、そして歓談 その4


 ここも奇妙だ。

 男は『大丈夫だ』と、スキャンを拒否している。つまり『不要』と指示を下しているのだ。もちろん、男が見るからに怪我を負っていれば、対象の安全確保のために違った反応もあり得るのだろうが、男の怪我は現在緊急を要するようには見えない。この状況下では男の指示は妥当であり、本来、人の命令に従うはずのアンドロイドが指示を拒否して、スキャンを何度もしつこく迫る事などあり得ない。

 そう思考を巡らし、目の前のアンドロイド、ミゥを見た時茜は、再び言葉を失ったのだ。


 茜の目には、ミゥが眉が寄せ、目じりを下げ、口を半開きにして、先ほど男性を引っ張り上げたのとは逆の左手を、男の左肩に置き、その瞳を見つめていた。


 茜が感じたそれは、もうアンドロイドではない。誰かを心配する一人の女性であった。

 男も周りに人が居るのをまったく気にしていないのか、


「わかった。ミゥ。君の思うとおりにやってごらん」

 と見つめ返し、許可をだした。舞がこの2人の様子を見ていたら、さぞかし面白い修羅場になったに違いない。

 ミゥと呼ばれたアンドロイドは、


「ソレデハ、自身ノ判断ニテ基本バイタルト電磁式スキャンヲ実行シマス。対EMP(対電磁パルス防護)サレテイナイ機器ノ脱着ヲ希望シマス」

 と、口にした。

 男は、


「君の電磁スキャンは、よほどの出力で使用しない限り電子機器への影響はほとんどないよ。骨のスキャンをするだけではあれば、最低の出力で大丈夫だ。そのまま実行していいよ」

 そう返答した。


「実施シマス」

 アンドロイドは、一瞬だけ天を仰ぐような動作をして、


「全身206カ所ノ骨のチェック完了。問題ハアリマセン。頭蓋内部に一部スキャン不可領域ガアリマス。再実行ヲ申請シマス」

 と、スキャン結果を伝える。

 男は、


「頭蓋の中・・・か。それはいいよ。骨に異常がなければ、それ以上のスキャンは必要ない」

 今度は、有無を言わせない口調で返答をした。

 アンドロイドは、


「了解シマシタ」

 そう返答すると、もともと座っていたベットに腰かけた。

 そして、ようやく茜たちに気付いたかのように、


「マスター、個体名チャイト、記憶二ナイ女性ガ部屋二侵入シテオリマス。女性ハ敵性行動ヲ確認済デス。排除シテモヨロシイデスカ」

 報告しながら、茜たちに視線を向けた。


2人のやり取りを映画のワンシーンのように眺めていたチャイと茜は、ミゥのその言葉で現実に引き戻される。


「ミゥお姉ちゃん。この人は私のマネージャーさんだよ。茜さん。敵じゃないよ」

 チャイがミゥに伝える。ミゥは、


「先ホド、マスターヘノ暴力行為ヲ確認シテオリマス。現時点デハ敵ガ送リ込コンデキタ暗殺者ノ可能性ガアリマス」

 そう言って、茜を睨む。

 アンドロイドに『敵』と宣言され、あまつさえ暗殺者と言われながら睨まれている。しかし茜は、


『あのミゥと呼ばれたアンドロイドは、人を非難し睨むという感情さえ表現可能なんだ』

 と、見当違いな感動を覚えてた。しかし、このままでは攻撃されてしまうという現実にも思考がようやく追い付き、


「ミゥさん。先ほどは申し訳ございません。私は、チャイのマネージャーである、外岡 茜です。貴女あなたが襲われていると勘違いをしてしまい、その男性、貴女の開発者である江藤さんにあのような行動をとってしまったのです。改めて謝罪を致します」


 茜は、ミゥと徹に頭を下げた。

 ミゥは、今度はチャイの方を向くと、


「チャイサン。オヒサシブリデス。マネージャート称シテイル敵性体は、チャイノ芸能活動二オケルマネージャーナノデスカ」

 と、確認をした。

 チャイは、


「敵性体って・・・。ちゃんとマネージャーさんだよ。徹お兄ちゃんが変なことしているから誤解されるんだよ。謝っているし、許してあげて」


 ミゥに説明をした。

 徹は何も言わずに、興味深そうに3人の会話を眺めている。

 チャイは、徹にも、


「ほら、お兄ちゃんも。ミゥに説明してあげてよ」

 と、助けを求める。徹は、


「あくまでも判断はミゥ自身が行うものだよ。ちゃんと説明すればわかってくれるはずだよ」

 あくまでも傍観者を決め込むような発言をする。 

 チャイは、


「え~~」

 と、避難がましいため息をつく。

 茜は言葉には出さなかったが、むしろ


『アンドロイドに判断させる?それはありなの?』

 そっちの方に驚いていた。とにかく、男が言うように、説得が通じる相手ではあるということなのだ。

 茜はミゥをアンドロイドではなく、人として捉え直し、


「先ほどの事は謝ります。チャイに脅迫状が届いたり、先ほどこちらにくる時にも、プロダクションの事務所を外に出たところで暴漢3人に襲われたばかりで、気が張っておりました。申し訳ありません」

 もう少し丁寧に事情を付け加え、再び頭を下げた。

 ミゥは、徹の方に顔を向けると、判断を仰ぐように小さく頷きながらアイコンタクトを送った。


男も、小さく頷き返した。

ミゥは、


「ワカリマシタ。以後、マスターニ敵性行動ヲ確認シタ場合は、阻止ノ為ニ鹵獲(ろかく)シマス。コレハ、警護対象ノ安全ヲ確保スルタメノ一時的ナ行動デアリ、人ニ対スル能動的ナ行為デハナク、防衛行為ト宣言ヲシマス。マタ、生命ニ危険ガ及ブ行為ハデキマセンノデゴ安心クダサイ」

 と、茜に向かって説明を行った。茜は、


「重々気を付けるようにするわ」

 とだけ返答をした。


ふう、長くなったので2つに分けた後半です。次は18日土曜日にアップする予定です。

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