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宇宙宅配便カンパニー「ミゥ」!  作者: いのそらん
1部
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1-5 出た、見た、ミゥ! その2

1-5 出た、見た、ミゥ! 後半


 それは、これまでの徹との付きあいで、徹がそんな対外的な体裁を意識して発言を行ったことなど皆無であったという事だ。舞は、徹が頭脳、ことロボット工学においては宇宙でも10本の指に入るだろうと高い評価を与えていたが、こと共同社会への適応力については、逆に底辺にいる事も確信していた。常に自分の価値観だけが基準の、いわいるマッドサイエンティストなのだ。そんな徹が、先に語ったような理由で行動するわけはないのだ。


 まあ、詳細は徹の心の奥底にあるとして、こんな理由から、今、徹の前に立っているミゥはその設計思想に基づいた外見をしていた。


 メンテナンスルームに足を踏み入れたミゥは、部屋の隅にある、各種計器に囲まれた、背もたれの無い小さな黒い椅子に腰を降ろし、ようやく声を発した。


「タダイマ帰還シマシタ。マスター」

 ミゥの声はアンドロイドには珍しい人工世帯を通した音声であるため、声の質としては申し分無いものであった。


 徹の趣味で女の子っぽいトーンの高い声ではなく、ハスキーまではいかない少し硬めの声に調節されていた。徹は、この声を『かわ美しい』と表現をしていた。ただ、声の質は置いておいて、実際、ミゥのしゃべり方は、人間のそれと比べると、かなり機械的であるという印象が強い。言うなれば感情のない声といった風であるのだ。


「お帰り。ミゥ。今日もご苦労様」

 徹は、笑顔をミゥに向けた。

 ミゥは、無表情のまま背中にかかる髪を体の前にたくしあげ、顔だけを徹のほうに向けた。


「バックアップト充電ヲ開始シテモヨロシイデスカ?」

「あ、今日、指先の温度センサーのライブラリを更新したから、ついでに書き換えて置いてくれる?」

 徹が部屋のすみにある小さな椅子に視線を向ける。


「了解シマシタ」

 頷くミゥ。


「それと、君が寝ている間に、手首から先、手の甲、平、指に人工皮膚の移植をするからね」

「了解シマシタ」

 ミゥは、そう徹の問いかけに対して返答しながら、背中のちょうど肩甲骨にあたる部分の間、中央部分にある接続端子のカバーをはずそうと背中に手をまわした。ミゥがその動作を始めると、徹はミゥから目をそらした。ミゥが背中に手をまわしているシルエットは、まるでドレスのファスナーを下げている女性そのものであり美しかった。


 ミゥがインターフェースの接続を完了し、バックアップとライブラリのアップデートが開始されたのをモニターで確認すると、徹が再び口を開いた。


「ミゥ。何度か注意しているけど、僕は君のマスターではないよ。同僚であり、友人だ。徹と呼んでくれればいい」

「・・・」

微動だにしないミゥ。


「それと、お帰りと挨拶されたら、『ただいま』だよ。笑顔を忘れずにね」

 気にせず続ける徹。


「デスガ・・・」

 ミゥが、今度は徹のほうに顔を向ける。


「ですが、何だい?」

 徹が優しく問いかける。


「ワタシニハ擬似感情ノ表情筋制御プログラムがインストールサレテオリマセン。マスターガ削除シタノデハナイノデスカ?」


「ミゥ。君には周囲の状況を分析して、プログラムがその場に適切な感情を用意された選択肢から自動で選択するような擬似感情は要らないんだよ。そんなプログラムで選択された感情を、いくら表情、いや表情だけじゃないな・・・態度、仕草にいくら反映させてみても、それは本当の感情じゃないんだ。君はその心で本当に感じたことを表現できるはずだよ」

徹が頷きながら、ミゥの質問に返答を返す。


「・・・。理解デキマセン」

 ミゥがボソリと呟いた声に、


「いつかわかるさ」

 徹が再び優しさをこめて、そしてはっきりと断言した。


 ミゥは、ゆっくりと自分の胸にかかる髪を指先でいじりながら視線を前に戻した。


「マスター。ドウシテ充電ヲ開始スルト、私ヲ見テクレナイノデスカ?」

 次の質問。徹は、ミゥからこういう質問をされた時、いつも成長を感じていた。


「それは、そうするのが私にとって大切なことだからだよ」

 内容は違いこそ、こういう会話が、今のミゥと徹の日常であった。


「・・・。理解デキマセン。終了シマシタ」


 ミゥがゆっくりと立ちあがると、徹もようやくミゥに顔を向けた。ミゥは、胸の前にかかった髪を、左右の手で軽く後ろにはらった。そして、手からこぼれた前髪の一部が顔にかかると、ミゥはもう一度髪を、今度は指の平で後ろに流した。


「ミゥ。君が最初にその椅子から立って髪の毛を背中に戻したときを覚えているかい?」

「イイエ。視覚的ナ記録ハ、スベテガ鮮明ニ再生デキルワケデハアリマセン」

「それが人だからね。でも、僕は覚えているよ。君は、手の平で髪の毛を握ると、文字通り前から後ろに移動させたんだ」

「・・・」

「それが、今は違う。あと、最近君はときど自分の髪の毛を指でいじっているね?なぜだい?」

 無言を交えながら、会話が進んでいく。


「ワカリマセン」

「それが、私が君から視線をはずす理由の答えだ。じっくり考えてごらん」

「・・・了解シマシタ」

ミゥの了承の言葉を受けとった徹は、『今日はここまでかな』という大きな頷きと共に、両手で膝頭を、パンッと叩いて、ミゥに告げる。


「さて、君はこれから勉強の時間だ。カレンさんと、舞さんが待っているよ」

「ハイ」

 そう、返答をすると、ミゥはメンテナンスルームを後にした。徹は、ミゥが部屋から出ていってからもしばらくその扉を眺め、


「ミゥ。焦ることはない。君は確実に成長しているよ・・・」

 そう小声で付け加えた。

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