5ー3 銘々、命名、宇宙船 その4
舞の爆弾発言により、場が硬直した中、
「あの・・・」
徹が小さく手をあげる。
司会である舞が硬直して動かないため、カレンが代わりに徹を指名する。
「SWAN号で・・・」
カレンから、『ピキッ』って嫌な音が聞こえた。
「よく冗談こけるな、この浮気男がぁ」
船名のコメントとは関係ない、心の声まで駄々漏れでカレンが徹に牙をむく。徹は、
「浮気!?え、いや、その・・・」
動揺して、言葉に詰まる。
「聞き捨てならないわね。浮気がなんですって、白状しなさい!」
舞がマッハで徹に詰め寄り、徹の肩を両手で揺すって問い詰める。舞、復活である。カレンはカレンで、
「こそこそデートしやがって・・・」
と、唾を飛ばす勢いで、舞と徹に文句を言い始める始末。もう、場は混沌である。
「みんな、徹様の話を聞くにゃん!さっきはカタカナで、今度はアルファベットにゃん?何かあるにゃん!」
そんな時、意外にも、玲華が徹の助けに入った。
どうして、会話でカタカナと英語の違いがわかるかなんて考えてはいけない。玲華はスーパー諜報員だから、わかるのだ。とにかく、皆が一斉に徹に注目する。
「えと、あの、
Striker Workship@Newage
が、正式名称で、略称SWAN号でどうかなって・・・」
徹の船名候補『SWAN号』の正式名称を聞いた舞は、キョトンとした顔で、
「意味は?」
と、尋ねる。徹は恐る恐る、
「Strikerは、地球時代英国の『護衛空母の名前』からもらって、Workshipは、そのまま『任務遂行艦』という意味です。で、@とNewageで『新時代の』となります。Strikerには、『銃火器を撃発する』といった意味もあります。なので、全体で、『新時代の攻撃および護衛任務艦船』といった感じでどうかなと・・・」
と、説明を加えた。
舞を始め、カレン、玲華が思案顔で押し黙る。
みんなの反応を、徹がモジモジしながら待っていると、舞が、
「いいですわね」
と、同意の言葉を口にした。
舞の言葉を皮切りに、
「決まりだな」
「カッコいいにゃん!」
と、他の2人からも賛同の声が続き、無事、宇宙旅客機の名称が決まったのだ。
名称がきまると、出航まで時間がないため、舞はすぐに宇宙交通局のデータベースに、先程の船名を正式名称と略称で登録をした。それからカンパニー・ミゥの面々は、急いで準備をして宇宙ドックに向かったのだった。
アレンは、いつも舞が使用しているリムジンと一緒に、先にコロニーエデンに向かってしまったため、この時はミゥの広告宣伝車両とカレンのスポーツカーに別れてドックへ向かうことになった。
誰がどちらに乗るかで、若干揉めたりもしたが、時間最優先でくじ引きとなり、カレンと徹、ミゥ、舞、それに玲華の3人のチームとなった。宇宙ドックに着いた時には、徹は心なしかゲッソリしており、代わりにカレンの機嫌は、ようやく元に戻っていた。
一度事がスムーズに流れ始めると、基本優秀な社員たちではある。2時間後には、ドックでの出航準備を終え、出航の順番を待っていた。
ミゥも、機体頭部のコックピットのパイロットシートに予定通りコネクタ接続も終え、準備万端で出航を待っていた。
SWAN号に乗り込んだ、カレン、舞、玲華の3人は客席でシートベルトを付けて、ドックから排出される際とギガスペースライン突入時の初期加速に備えている。
一方徹は、ミゥの横に立って、ミゥと機体のデータリンクや、インストールされたナビゲータープログラムの最終確認をしていた。
「ミゥ、何か不安や問題はあるかい?」
徹がミゥに訊くと、
「SWAN号ノ航行ニハ問題ハアリマセン」
そう返答が戻ってきた。
「には?他に何かあるのかい?」
再び徹が質問する。
「・・・」
ミゥが沈黙する。徹は、
「いいよ、まだ私たちの順番待ちまでは時間が掛かるよ。言ってごらん」
と、促す。
「徹サン。先程船名ニ関ワル議題ヲ検討サレテイタトキニ、カレンサンガ、マイサンノ年齢ニ言及サレテイマシタ。舞サントカレンサンは同年齢デハナイノデスカ?ナゼ言及サレルノデスカ?」
ミゥが首を傾げる。
『言ってごらん』
とは言ったものの、非常に答えにくい疑問をぶつけられ、徹は答えに窮する。
コックピットからは、客席にいるカレンと舞は見えなかったが、徹は2人の方を一度見てから、口の前に右手人差し指を立てて、ミゥに、
「その質問は、あの2人には絶対にしちゃダメだよ」
と、伝えた。
徹の返答は、ミゥの質問内容に直接返答したものではなかったが、ミゥは、
「ワカリマシタ」
と、徹と同じように口の前に指を立てた。
ミゥの最終チェックが終わると、徹は客席に戻り、シートベルトを付けた。リラックスした姿勢を取り、背もたれに身体を預けると、徹は先程のミゥの『内緒のポーズ』を思いだし、思わず笑ってしまった。
カレンと舞は、一人でニヤニヤしている徹に、少しだけ怪訝そうな視線を向けたが、それと同時に管制官から出航を許可する旨の通信が入ったため、姿勢を正した。
その後、ミゥは滞りなくなく、出航、ギガスペースラインへの突入を成功させ、SWAN号と本社の4人は、チャイが待つコロニーエデンへ向かったのだった。
5ー3完結。次はコロニーエデン編に突入!




