5ー2 換装、感想、全てをあなたに その2
かなり繊細で、難しいメンテナンスを終えたはずの徹は、カレン、舞、玲華の3人から、散々、
『デリカシー欠如男』
『セクハラ大王』
『変態仮面』
『女の敵』
『エロエロ魔王』
などと、ウルトラセクハラ男として認定を受けてしまった。
そんな3人に、言い訳することもできず、徹は為す術もなく立ち尽くし、呆然とするだけだった。
ミゥは、何が起きているのか理解ができず、ただ徹と舞たちを交互に見て、やはり立ち尽くしていた。
舞は、そんなミゥと徹にため息をつくと、
「玲華さん、シャワールームからタオルを1枚持ってきてくれるかしら?」
玲華にそう指示をだした。
玲華は、
「はいにゃん。ボス」
勢いよく敬礼をすると、そのまま小走りにシャワールームに向かって行った。
すぐに、玲華が真っ白い柔らかそうな大きいタオルを持って戻ると、舞はそれを受け取りミゥに近づき、肩からふわっとタオルをかけて両の乳房を隠した。そして、
「徹さん、ミゥをお借りしますね。会議室で『女子会』を開きますので、徹さんはご遠慮お願いします」
そのままカレンと玲華に目配せをし、続けてミゥに
「ミゥ。新しいユニットを手にいれたのね。おめでとう。でも、ちょっと勉強が必要なことがあるの。一緒に来てくれるかしら?」
笑みを浮かべて、声を掛けた。
ミゥは、徹の方をみて、許可を待つように動きを止めた。
徹は、
「舞さん、すいません。お願いします」
情けなく、眉を八の字にしたまま舞に返答した。同時に、ミゥに頷き、舞についていくように促した。
ミゥは、
「了解シマシタ」
そう、返答して、舞に続いた。
徹は、ミゥが返答をした時の表情に、先ほどチェックしたときに浮かべていた驚きと悲しみの表情の中間、人でいえば疑問、困惑にも似た表情がほんの僅かだが混じっているのを見つけて、
『はは・・』
と、寂しく笑った。
徹は気を取り直して、今回の換装に関する報告書を端末に向かって打ち込み始めた。
ちょうど、徹がメンテナンス端末に入力を始めた頃、舞たちは、会議室でミゥを囲んで女子会を始めていた。
ミゥはまだ、肩から前にタオルを羽織ったままの格好である。
舞、カレンの2人が、ミゥに
「女性は殿方の前で、素肌を簡単に晒してはいけませんわ」や、
「あいつはムッツリなんだ。気をつけろよ」
などと、一通りの注意訓告を言い終わったころ、徹も報告書の打ち込みを終えていた。徹は女子会の様子が気になり、舞からは『遠慮してくれ』とは言われてはいたが、とりあえずフロアに移動した。少しだけ戸惑いはあったが、意を決して、会議室のドアにノックしようと近づくと、部屋の中から舞たちの声が漏れ聞こえてきた。ドアをノックする手を止めて、声に耳を傾けた。
「おい、舞。とりあえずお前の水着のトップ、ミゥに貸してやれよ」
カレンが舞に伝える。
「そう思って持ってきてるわよ。ミゥ、そのまま両手をあげてくださいます?後ろから着けますので」
「ハイ」
「なんだよ、お前の水着小さすぎるじゃねぇか・・・。お前ミゥに負けてるぜ」
「な、なんてことを、身体の大きさごとに『ちょうど良い大きさ』というものがあるのです。ただ大きいだけなんて・・・ねぇ玲華さん」
声からすると、どうやらカレンが舞をからかっているらしい。
「うちにはわからないにゃん。獣人はもともとスレンダーにゃん」
玲華の困ったような声の返答。
徹が『獣人ってスレンダーが基本なんだ』と、一人で納得している間にも、扉の向こうからの会話は続いていく。
「じゃあ、あなたのブラを貸してあげたらどうなのかしら?」
「けっ。サイズが全然ちがうじゃねぇかよ。だいたい自分が小さいからって拗ねるなよ。設計したのはあの変態だぜ。文句はあいつに言えよ」
知らないところで、徹の所為になってしまっている?
「だいたいよぉ。ミゥの胸をこの大きさにしたってことは、小さいのは嫌いなんじゃ・・いや好みじゃねぇのかもよ」
言ってはいけない系のことを言ってしまうカレン。
「そんなことはありませんわ。先日、デートに出かけた時も、徹さんの視線を、このあたりにビンビン感じましたもの」
舞は、胸の前で手のひらを内に向けて、くるくる回す。
「あああああぁぁ。やっぱりデートじゃねぇかよ。何が、市場調査だっ!」
カレンが、舞の『デート』という言葉に過剰な反応を見せる。
「い、いぇ。業務です」
言い直す、舞。
「おい、玲華。こいつ『デート』って言ったよな?」
玲華に同意を求めるカレン。
「いぇ。うちは知らないにゃん。ショッピングセンターに行ったとか、星が見えるレストランで食事を食べてたとか、まったく知らないにゃん」
ダメダメな玲華であった。
「☆▽□※〇!?」
「%$#¥@・・・」
声にならない悲鳴をあげる、カレンと舞。
「なんだよ。星が見えるって、ファミレスだって言ったじゃねぇかよ」
思わぬところで、2人のデートの真実が丸裸になった瞬間であった。
扉の前で、徹も頭を抱える。
『入ることが出来ない・・・』
徹は、会議室に入る機会を完全に失っていた。もう中に入ることは諦めて、とにかく会話を聞くことに集中しかない。
情報収集と言えばなんとなく格好がつくが、これはもうぶっちゃけ、ただの『盗み聞き』である。会議室の扉に張り付いている徹、道徳的にはNGまっしぐらであろう。
徹が、『盗み聞き』の覚悟を決めて耳を澄ましていると、3人の話題が進展を見せる。




