第5章 5-1 新入、NEW、にゃん その1
新章突入です。
第5章 5-1 侵入、新入、にゃん その1
カレンは、未だに拗ねていた。
舞と徹が、ミゥの新胸部ユニットの設計とユニフォームのデザインを決めるために、業務として市場調査、及びラボでの打ち合わせに出かけたのはもう1か月も前の事。そして2人が出かけた翌日、カレンは2人からその事を聞くことになった。つまり、その日からはや1か月、ず~っと・・・
『何故、自分は置き去りにされたのだ』
『二人だけでずるい』
『社の費用で夕食まで食べてるじゃないか』
『だいたい今度食事をするときは舞があたしに御馳走するって・・・』
『徹も、徹だ。裏切者』
などと、拗ねまくっているのだ。
最後の『徹も・・・』の部分は、多少、公平ではないような気もするのだが、その所為もあってか、カレンが舞に向かってブツブツ言い始めると、いつもどこかで徹が、
『ハックション・・』
と、くしゃみをし続けていた。そうもう1か月も・・・。この時代になっても、『誰かに噂されると発現する日本伝統のくしゃみ芸』は、存在するようである。
そもそも、噂なのかとツッコミを入れたくなるが、まあ、『濡れ衣』も噂の1つであると考えれば、正しいのかもしれない。
さて、拗ねているカレンはさておき、季節は巡り、シュワーツの天候も、地球時代の日本に倣って、秋に調節をされ始めていた。
同じ頃、カンパニー・ミゥにも、新たな風が吹いていた。
1つは、舞が財閥と共に仕掛けていた、全宇宙規模の『ミゥのユニフォームデザインコンテスト』が終了し、結果として、春、夏、秋、冬の4つのユニフォームが決定したのだ。
ユニフォームは季節ごとに発表していくこととなり、まずは『秋』のものが発表された。
胸部ユニットが、女性に近づくとはいえ、腰回り、膝上、それと足首から下は、軽装甲のようなメタルユニットの外装のままである。そのため、タイトなユニフォームを着用することはできない。
そこで今回は、上からすっぽりと被る『ポンチョ』のようなユニフォームが、一般投票と社内会議、それに加えてプロのファッションデザイナーの最終審査を経て採用された。
ユニフォームは、膝上までのポンチョで、身体をぐるっと覆うタイプ、それを左胸上でベルトにあるようなバックルで留めて使用する。向かって右半分がちょっと濃い目の空色で、左半分が若草色、左右の襟はボディ部分の色と掛け違いになっている。胸の上には、ポンチョの裾下から少し覗いているメタルの外装部分の色に合わせて、ワインレッド色で『Company Miu』と、社名が入っていた。
太ももの部分は今後もメタルユニットのままである。色は人の肌色からはほど遠いワインレッドであったが、造形は腰部に比べると人に近いフォルムをしていた。そのため太もも部分は、機械感が薄く人に近いシルエットであることを活かせるように、少しだけ露出するようなデザインになっていた。
もう1つの風は、董玲華が本社配属となり、初出勤日を迎えていたことであった。
カレン、舞、徹、ミゥ、そして新しく配属された董玲華の全員が、接待室兼会議室に集まり、朝礼をおこなっていた。普段は朝礼はおざなりになる事が多かったが、今回は、新たなスタッフを迎えるということもあり、カレンが音頭をとって会社らしい朝礼を実施しているのだ。
全員が、椅子に着席するのを確認したカレンは、
「皆さん、おはようございます」
全員の顔を見渡しながら、挨拶をした。
挨拶するカレンを見て、徹は『ああ、カレンさんが社長だったんだよね』などと、無礼なことを思わず考えてしまう。そんな不躾なことを考えていた徹にカレンが気づいたのか、非難がましい視線を向けた。
徹は目をそらして、『んんっ』と、小さく咳ばらいをした。
徹が姿勢を正すと、気を取り直したように。カレンが続ける。
「今日は、皆さんに、新しく配属された、新人スタッフを紹介したいと思います」
今度は舞が、『丁寧な言葉も使えますのね』と、ボソボソ独り言ちた。
隣に座っている徹はさておき、皆から少し離れたところに立って司会を務めているカレンには、距離的に聴こえるほど大きな声ではなかったはず。だが今度は、さっきよりはっきり、カレンが舞を睨みつけた。
舞が澄まし顔のまま、視線を避けるように玲華に顔を向けると、カレンは仕方がなく苦笑いを受けべ、話を続けた。
「彼女は、もともと財閥で市場調査などを担当している『情報部』に勤務をしていたのですが、今日からカンパニー・ミゥに転勤となります。『董 玲華』さんです。ここでは、ミゥだけでは賄いきれない部分の業務を担当してもらいます」
カレンの紹介を聞いた舞と徹は、『情報部がなんで・・・』と首を傾げていたが、カレン自身その問いを投げかけられても、問いに対する答えは持っていない、わからないものは、スルーする。立派な社会人であるカレンは、落ち着いた様子で左斜め後ろに控えて立っていた、猫耳の獣人を手で前に促した。
董玲華と呼ばれた獣人は、一歩前にでて、
「今日から、お世話になります、董玲華にゃん。先輩方を見習い、社に貢献できるよう、地域の方々のために『宅配業務』を粉骨砕身頑張りますにゃん」
そう『宅配業務』とひときわ強調しながら、深々と頭を下げて挨拶をした。
舞と徹の顔が、先ほどより一層多くの?マークで一杯になる。
「え?宅配業務って、今?」
「にゃんって・・・?」
ユニゾンしていて、どっちがどちらの質問かは、はっきり聞き取れなかったが、とにかくカレンと玲華が、それぞれ返答をする。
「いや、業務的には間に合ってるのはわかってんだけどさぁ、辞令にそう書いてあるんだよ」
と、カレン。
「猫の獣人ですので、やっぱり語尾は『にゃん』じゃないと、ガッカリされてしまうにゃん。サービス業にゃん?お客様サービスの一環にゃん?」
と、玲華。
「カレンさん、口調が元にもどってらっしゃいますわよ」
と、舞。
「じゃあ、兎の獣人は、『ぴょん』?それとも『うさ』?」
と、徹。
「うーん。どっちも捻りがないにゃん。きっと『レプッ』が一番似合ってるにゃん」
と、おまけの玲華。
「ないだろ!」
「ないですわ」
「ラテン語って無理」
1人少しずれているものの、まあ3人の心が1つになった瞬間であった。
そして、静まり返った朝礼に、秋の爽やかな風を送るかのように、
「記憶シマシタ」
ミゥの声が響いた。
いよいよ、カンパニー・ミゥ、フルメンバーが揃いましたね。
いよいよミゥがグレードアップ!しますよ。今後もよろしくお願いします。




