4-5 双子、双丘、早急 その1
4-5 双子、双丘、早急 前半
徹が、舞とのデート?に四苦八苦している頃、ラボは大騒ぎになっていた。
財閥から指示がでていた、ミゥの外装パーツと、秋、冬の2つのバージョンの専用ユニフォームのデザインと設計。
今日、財閥内でアンドロイド工学の大家として有名であり、実質、このラボの開設者である『江藤 徹』。その雲の上のような存在の人物が、ラボを訪れる。そして、本人と今回のプロジェクトについて議論を交わすことができる。ラボにとっては、盆と正月が一緒に来たようなものである。
特に、このラボの研修主任を務めている2人にとっては、昨晩は、思わず、緊張しすぎて眠れなかったほどである。
2人の主任、『皇 淳』と「皇 林檎」である。
2人は、中華系の父親と日系の母親のもとに生まれた一卵性双生児のハーフである。この2人、主任と役職を名乗っているが、年齢的に言えば高校生の2人である。この兄妹、かなりの秀才肌であるのだ。
2人の父親は、徹の両親と同じ、このラボの前身である『次世代アンドロイド研究部門』の研究員であり、徹の両親と時を同じく、事故で他界をしていた。小さかった2人は、祖父祖母の家族に引き取られ、育てられた。その時、資金援助を受けたことから、財閥にはただならぬ恩義を感じており、本人たちのたっての希望で、父親の研究を引き継いでいるこのラボに就職したのである。
特筆するのは、ラボに就職したときの年齢である。2人は今、17歳であった。
徹は、アンドロイド関連、特に人工知能分野に関しては、本人は自覚していないが、もちろん宇宙的な権威である。それに比べこの2人は、ある分野に特化して特別な能力を持っているわけではなかったが、全体的に成績が優秀である、といった感じである。
特に、淳、林檎の2人は、それぞれ、淳が文系、林檎が理系と、お互いの得意分野をしっかりと分担して効率よく学業を修め、『2人いれば無敵』といった、スタイルをとっていたのも功を奏した。その成果もあり、高校生になってすぐ、大学科目まで履修を終えてしまい、飛び級で高校卒業、そのまま1年足らずで大学を卒業。そして、すぐにラボに就職したのである。
いくら頭が良くても、徹とは系統が違う。やはり、ラボの仕事、特に最先端アンドロイドの新技術開発には苦労しているらしく、財閥の中でも、どんどん新しい技術の理論を実用化そていく徹を、一番に尊敬しており、いつも助言を欲しいと思っていたのだ。
このラボは確かに、ミゥの人工知能理論を具現化するために開設されたラボであり、徹が名誉所長になっているのも事実。しかし、あくまでも徹は、カンパニー・ミゥ、本社の職員である。
徹がこのラボに顔を出すのは、発注した部品や、新しい理論を搭載したプログラムチップの確認作業の時ぐらいである。ぶっちゃけ徹は、自身の役職も忘れているぐらいである。そんなこんなで、2人にとっては、まさに雲の上の存在なのである。
ちなみに、淳が外装を含むデザインと人工知能のロジックのテストや効率化を担当しており、林檎が駆動系や五感、視覚や聴覚などの感覚器センサーを担当している。今回の外装は、淳がメインの担当であり、前回、ミゥに実装された手の指の触覚センサーの担当が林檎である。
2人とも、黒髪、黒い瞳の日本人的な容姿の美男美女であり、徹と同じ系統の人種であることを伺わせるが、中華系の父親の遺伝子が関係しているのか、身長は淳が175cm、林檎が168cmと、日系の平均と比べると若干高かった。淳は父親に似て細い切れ長の目で、林檎は母親に似てどんぐり眼。一卵性双生児であるのだが、容姿に関しては、父親と母親の良いところをそれぞれ引き継いだらしい。頭脳と容姿、年齢的なこともあって、ラボでこの2人のファンは多かった。
ラボが大騒ぎになっていたのは、徹がラボに訪れ、歓待を受け、皆の指導にあたり、打ち合わせで素晴らしい提言をした・・・・・・・からではない。
むしろその逆である。
淳、林檎をはじめ、多くのラボの職員が、今日、この日の、徹との打ち合わせに期待を寄せていたのだが、実際には、徹は、舞に急かさせるように、当該のデータをラボのコンピュータにアップロードすると、説明もまともにせずに、ラボを去ってしまったのだ。
2人だけではなく、期待していた、全職員が肩を落とした瞬間である。
しかし、これだけでは、単なる落胆であり、多少の騒ぎにはなるかもしれないが、大騒ぎにはならない。
そう、問題はアップロードされたデータである。
2人は、徹が今回アップロードしたデータを見て、驚愕の声を上げたのだ。
「林檎、見てみろよ。これ・・・・」
淳が、仮想現実に展開された、外装パーツの新胸部ユニットを指さす。
「確かにこれは。。。」
自分の専門分野ではないとはいえ、そのすごさはわかる。
展開されたデータは、現在の外装パーツと比べると、それは人の胸部にかなり近いものだった。
乳房がしっかりと形成されており、シルエットはもう人のそれと変わらない。まあ、外面的な形成データだけであれば、人を模倣することで近いデータを作ることは可能である、
問題は、その胸部、人間でいう『大胸筋』の中に張り巡らされた、人工知能との連携し動作するために、緻密に構築された神経伝達回路とその動作モジュールの部分であった。
人工知能から伝えられた、疑似的な感情に反応し、それが電気信号となって筋肉内に配置されている人工繊維の弛緩、収縮を促すような新しい理論に基づき、この新胸部ユニットは構成されていたのだ。
繊維と神経の伝達回路を複雑に組み合わせることにより、人の大胸筋に近い動作を可能としており、その上に配置されている乳房は、その大胸筋の動きに合わせて自然な揺れ方をするように設計されていた。
感情の起伏に合わせて、筋肉を代替する繊維組織が動く。
これは、現在のアンドロイド工学ではありえない技術である。むしろ、もうオーパーツと呼びたい。そんな最新の技術データを、急ぎ足で訪れて、社の同僚の女性に尻を叩かれて、足早に、説明もせず、アップロードだけして去っていったのだ。
ぶっちゃけ、この理論だけでも学会で発表が可能であり、場合によっては宇宙全体を席巻するかもしれない新技術である。徹にとっては、ミゥの胸部という目的で開発したものだろうが、実際にはその応用範囲は広い。医療現場でも、再生医学でも、もちろんアンドロイド工学の世界でも、いくらでも活用可能な技術といえる。
この時、この胸部ユニットの設計理論と一緒にもう1つ、アップデートされたデータの中に、徹がどさくさに紛れて承認を取ろうとしていた別のデータもあったのだが、フォルダの上層に保存されていなかったため、2人はそれに気付かなかったのだが、後日、再び驚愕することになるのであった。
淳が胸部ユニットのデータの検証を行うため、実際に仮想空間上に設計モデルを展開し、脳からの信号をで疑似感情として入力してみたところ、新胸部ユニットにモデライズされているユニットの外皮パーツの乳房は、見事な揺れを見せた。それは淳の表情を見ていれば一目瞭然。もう、生唾物なのであった。
その様子を横で見ていた林檎は、
「変態・・・」
そう言いながら、少し頬を染めて目を伏せた。
明日までには、後半入れます!




