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宇宙宅配便カンパニー「ミゥ」!  作者: いのそらん
2部
43/94

4ー3 美人、人材、それ人災 その3


 徹の目が、舞の目と合う。見つめあう瞳と瞳。

 とたんに寒くなる背筋。ビクッとした徹の震えを感じ、フローラインが振り返り、舞を視界に捉える。舞が歩き出すのを確認して、フローラインが挑戦的に微笑む。


 舞も徹とフローラインのすぐ側まで来ると、立ち止まり、先ほどまでの憤怒の表情はどこへやら、天使の微笑みを浮かべて、


「とおるさん、ご機嫌麗しゅう」


 そう小首をまげた。


「ま、舞さん、いや、これは、こ、おはようございます」


 徹は、フローラインから逃れるようにして、舞の方に向き直り、挨拶を返した。噛み噛みである。


「んー、伊那笠のお嬢様、何か用事なの? 今、うちは取り込み中なんだけど」

 答えたのはフローライン。しかも、身長差を生かした上から目線。


「あら、貴女には用事はないわ。そこを退いてくださるかしら」

 舞も、負けずに視線を掬い上げるようしながら返答。

 両者を交互に見ながら狼狽える徹。愉しそうに2人の言葉のキャッチーボールを見守っている勝。


「うちのスィートハニーが久しぶりに帰宅したのだから、家族水入らずの団らんを邪魔しないでくれる?ねぇ、勝」

 そういって、徹の肩に掛けていた片手だけ戻して、勝の頭をなでる。


「ねぇママ、今日は、あのお姉ちゃんに会えるんだよね?お兄ちゃんと一緒にいるって」

 勝が徹の白衣の裾をつかむ。勝はママの側に立つことを選んだようだ。来年小学生になるとはいえ、なかなか侮れない。


「子供をダシにするなんて、年増は、これだから・・・」

 舞の声色が危険な色をはらむ。

 フローラインは胸をそって、徹の方につきだし、


「ほんのちょっと若いだけで・・・。まあ、そんな貧相なものでは勝負にならないのでは?ねぇ徹くん」

 ググっと、胸を更に徹の方に近づける。


 突然話を振られた上に、会話の内容がアレである。徹は、一層困惑して、


「え、いや」

言葉にならない。

舞は、


「な、な、何をおっしゃっているのかしら、色仕掛けなんてはしたない真似・・・それに、それなりには、ありますの・・よ・・」

 最後まで言いかけて、すぐ側に徹が居るのを思い出して言葉をひっこめる。

 フローラインが、舞の焦った顔をみて、ニヤニヤ笑っている。


「そもそも、あなたはご主人がいらっしゃるのでしょう?」

 舞は、絞り出すように反撃する。


「親子のスキンシップですもの、主人は関係ないわ。ねぇ、勝」。

 そう言って、フローラインは、勝を抱きしめる。


「ママ、ロボットのお姉ちゃんは?」

 会話がチグハグであるが、フローラインに同行している勝は、ぶっちゃけ『ロボットとのお姉ちゃんに会えるわよ』等と餌をちらつかせてついてきた、『既婚女性が一人で男性の部屋に押し入る時の保険』のようなものである。ある意味仕方がない。

 それでも、この親にしてこの子あり、親の心を読み、ボケを織り交ぜながら掩護射撃。やはり侮れない。まあ、ミゥに会うためには、とりあえずは昼まで部屋で待つのが一番手っ取り早い。それは確かなのだから・・・。

 舞は、


「質問の答えになっておりませんわ」

 もう一度、詰問する。その横で、徹が、


「勝くん。ミゥは、用途によってその形状や機能を付加しているロボットとは違って、効率ではなく人形(ひとがた)であることを主眼においているんだ。その上でミゥ自身の経験による判断で、ミゥ自身が選択した動作により作業結果を返すことができる、新しいアンドロイドなんだよ」

 と、無駄に細かく分かりにくい説明。勝は、


「よくわからないけどスゴいね!」

 と、あいまいな返答。

 それを聞いた、フローラインと勝が、


「まあ、難しいのね!じゃあ勝、お部屋の中で詳しく教えてもらわなっくっちゃね?」

「そうしよう、ママ」


 等と、そんな会話を交わしている。

 確かなことは、舞の詰問、大すべり・・・。舞の顔色が変わる。


「と、お、る、さ、ん」

 一言一言、置くように、丁寧に、そして反抗を許さない冷たい声で、徹の名前を呼ぶ。

 徹は、


「こ、これは子供に対する正確な知識の・・・」

「と、お、る、さ、ん!」

 徹の言葉に覆い被せるように、舞が再び名前を呼ぶ。先程よりも更に声は硬く低い。

 二人の様子を見たフローラインは、


「あらあら、お兄ちゃんは忙しいみたいね。また今度遊んでもらいましょうね」

 そう言って、勝の頭にポンッと手を置いた。

 勝は、


「お姉ちゃんに会いたかったな。残念」

 そう言いながら、一瞬ぐずるような仕草を見せたが、ママの顔を見てすぐにひっこめた。フローラインは、勝の頭に置いた手でクシャッと毛を握って、


「お隣さんだから、いつでも来れるわよ」

 チラッと舞の方に顔を向け、そのまま徹に顔を寄せてウィンクした。

 徹が赤くなりながら、頭を搔くと、舞が、


「近すぎです!」

 叫び声を上げた。

 フローラインと勝は、そのまま、


「またね~」

 手を振りながら帰っていった。

 舞は、フローラインと勝が居なくなると、『これ以上邪魔がはいらないうちに』と、半ば強引に徹の背を押して車に押し込み、デートに、いや市場調査と業務に向かったのだった。


 白衣のままだし、戸締まりしてないわだし、徹としては、是非とも抵抗したいところではあったが、こうなると舞はテコでも自分の考えを変えない。長年の経験からそれはわかっている。

 徹は諦めて肩を竦め、


『もうあと一時間もすればミゥが徹の家で休憩するはず。休憩終了時に施錠してくれるはずだ』

『いや、するんだよな』


 自問自答した。

お盆中に、もう4-4 前半、後半ぐらいはアップできそうです。

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