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宇宙宅配便カンパニー「ミゥ」!  作者: いのそらん
1部
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1-3 ヒト?メカ?人工無能!

1-3 ヒト?メカ?人工無能!


 ペントハウスの陽当たりは最高。アンドロイドでもうたた寝したくなるような、そよやかな風あたり。そんなハウスベランダ部分に特設された総ひのきのウッドデッキには3つの人影があった。


 カレンと舞。この2人はその艶やかな髪、優雅な物腰、そして何よりも、その柔らかそうな唇。まちがいなく人間、それも街をあるく男共の目に釘付けにすること間違い無し!と、いった魅力たっぷりの女性である。


 1人は、肩までのたっぷりとしたブロンドに妖艶なパーマかけ、ゴージャスなプロポーションに切れ長の目に青い瞳。当カンパニーの代表取締役社長 カレン・ホールデイズである。もう1人は、腰までの艶やかな黒髪にスレンダーな肢体、くりっとしたつぶらな黒い瞳。当カンパニー常務取締役経理担当 伊那笠 舞であった。

 2人は、本社のベランダに特設されたウッドデッキに、大きなパラソルを広げ、オープンカフェばりの憩いの空間を楽しんでいた。


――ちゃんと仕事をしているのか?


 普通の企業に勤めている普通のOLが、もしその様子を見ることができたとしたら、きっとそう問いたくなるだろう。

 しかし、彼女達もれっきとしたOL(役職付き)である。当然仕事をしている。


 彼女達が座っているリクライニング可能なウッドチェア―の前に、ちょこんと置いてある円卓の上には、ビジフォンの子機が1台、ちゃんと仕事の為に置いてあるのだ。そのビジフォンが小さな円卓の一番奥に追いやられており、手前には良く冷えたアップルティのグラスが汗をかいているのを見ないことにすれではあるのだが・・・。


 どのみち、この会社のほとんどの業務は、伊那笠財閥所有のビジネスタワー内に設けられた、社員数13000人を有する子会社が営んでいる。この社員数4名を有する本社で取り扱っている業務は、電話やネットから依頼される、コロニー内宅配の受付と集配、そして宅配実務のみであるのだ。更に付け加えれば、唯一体を動かす宅配実務は、もう1人の女性?社員がすべて行っている。実際、この2人に割り当てられた業務は、まさに電話の対応のみであったのだ。


 しかも、社の代表番号として届けられているビジフォンナンバーは子会社のものである。数少ないコロニー内宅配業務の受付すら、ほとんどは子会社が受けてしまうという有様。ここの直通ナンバーを知っているのは、1度でもコロニー内宅配業務を依頼したことがある限られたお客様だけでなのである。それに加え、再度、カンパニー・マイに対してコロニー内宅配業務を依頼しようとして、コロニー内宅配伝票に記載されている直通ナンバーに連絡してきたという変わり者という限定条件がついている。


 変わり者って一体?と思うかもしれないが、ここには正当な理由があるのだ。

 その理由は、本社勤務女性社員3人目、宅配実務担当に大きく拠っている。

 その3人目の女性?社員の名前は、Miu。苗字も名前もはっきりしない。ただのMiuである。読みやすいように、発音でいえば、『ミゥ』となる。

 これだけでは、まったく意味不明なのだが、このミゥは少し変わっていた。そう、ミゥは、アンドロイドなのだ。


――だから何?


 と、言う声が聞こえてきそうだが、最後まで聞いて欲しい。

 このミゥは、これまでのオールプログラム制御の使役型アンドロイドとは一線を隔する、ニュートロン型人工知能を搭載した人類史上初の自律思考が可能な女性型のアンドロイドであるのだ。まあ、人工知能とはいってもミゥは生まれたばかり。その人工頭脳の中身は当然空っぽである。今はまだアンドロイドの赤ん坊であるのだ。まずは、人工知能に適度な学習をさせなければ自律思考できるとはいわない。


 実際生まれたばかりのミゥが機能として有しているのは、体の各パーツを電子頭脳からの命令通りに動かすための動作パターンプログラムと、視覚、聴覚、赤外線探査などの人間で言う五感を司る感覚制御システム、人間社会で生活するためのアンドロイド倫理基準に沿った行動抑制プログラム、基本会話のためのデータベースの4つがが搭載されているのみである。


 要約すれば、人間的な状況判断や気の利いた返答、そして自らの意思という、人工知能の肝の部分はすべて白紙である状態なのである。


 ハード的な話をすれば周囲の地理的条件を把握したりするためのナビゲーションソフトや通信機能なども組み込まれていたが、説明としては感覚制御システムの一部という程度である。ぶっちゃけ、この時点のミゥは、その他大勢のアンドロイドと同じで命令されたことを実行できる人形にすぎない。


 そして、このカンパニー・マイでの業務は、宅配業務。伝票に記載された住所に従って荷物を運ぶだけであった。


 いやいや、これだけでも、宅配業務をアンドロイドに一任している宅配業者が他にないことを考えれば革新的であるのだが、当然他の業者が、簡単な宅配業務をアンドロイドに行わせる企業がなかったのにはちゃんと理由があった。それはアンドロイドには感情がないという点である。


 もちろん、プログラムで笑わせることは可能だが、お客様はそんな真心のない笑顔では満足しない。それに、アンドロイドはとっさの機転が利かない。


 夫には知られたくない、妻の通販依存の浪費系商品を平気で夫に手渡してしまったりもする、。

 そんなこんなでアンドロイドが世に出回ったとき、一気に各種産業に浸透するかと思われた商業用アンドロイドは、実際には接客業にはほとんど普及しなかったというわけなのだ。その結果、アンドロイドは工場などでの単純作業などで使われる場合が多かった。一部、夜の歓楽街で女性型アンドロイドが接客係として活躍している例もあるが、これは特殊なケースであろう。


 そして、先ほど、カンパニー・マイ、コロニー内宅配業務に、再度依頼が入りにくい理由・・・。

 ここまで説明をすれば、その理由が不完全な人工知能でしか接客できないミゥに起因しているいうのもおのずと理解できるだろう。現時点では人工無能としかいいようがないのだから・・・。


 ミゥがこの企業で働かされている?働いている?理由は、ある意味、この宅配業務を通じて多くの人と接っすることにより、人工知能に経験を蓄え、より人間的な思考をすることができるように学習をするためでもあるのだ。


 さて、どうしてミゥがこの会社に勤めるようになったのかを説明するためには、本社勤務最後の1人、江藤徹についての語る必要がある。


 醜いほど太っているわけではないが標準体系を大きく超過しており、牛乳瓶の底のような厚いメガネをかけた小男。それが徹である。しかし、見た目からは想像できないのだが、この男、頭の中身だけは超一流、天才といっても差し支えなかった。


 宇宙的にも類を見ない史上初のアンドロイド、ミゥに組み込まれている自律思考可能な人工知能の理論を確立したのが、何を隠そう徹であったのだ。徹は、単に人工頭脳の理論を作り出しただけではなく、その人工頭脳によるアンドロイドの感情制御システムさえ、実現不可能とされていた部分までその技術理論を確立したのだ。


 では、なぜその天才がこんなところで雑用をしているのか・・・。

 悲しい話ではあったが、これもお金に焦点をあてて考えると答えが導き出される。それは、徹も舞の同級生、いやもっとひどい。幼馴染であったのだ。


 彼は、確かに天才であったのだが、お金がなかった。大学時代に確立した人型アンドロイド用の人工頭脳理論は世の中で大きく評価を得たが、試験段階まで漕ぎ着けるためのコネも財力もなかった。ここまで言えばもうわかると思うが、舞の登場である。舞はお金に任せて・・・・。いや幼馴染として、他のスポンサーが魅力的な申し出をする前に、徹の理論を徹の本人ごと買い取ってしまい、徹に実験体を完成させる設備をも与えた。


 徹は、理論どおりのすばらしいニュートロン型人工頭脳と感情制御回路を造りあげ、今まで世の中に無かった感情らしいものを持った最初のアンドロイド『ミゥ』を完成させた。しかし、罠はここにあった。たしかにミゥそのものを作る物理的な費用は財団もちだったが、研究にかかった活動費用はなぜか借金として徹に先払いされたことになっていたのだ。しかも、徹がその借金を払い終わるまでは、知的所有権は財団がレンタルして商用利用するという契約になっていたのだ。卒業と同時に多額の借金王になった徹には行く場所はここしかなかった。

 と、いうことで、ミゥと徹は舞の監視下、この本社に勤めることになったのである。


 ミゥは女性人型のボディをもつアンドロイドである。基本動作パターンも女性のものを組み込んであった。そこに女性ばかりの職場である、この本社を学習の場として最適だと舞が決めたのだ。人とアンドロイドの主従が逆転しているのは、徹が金銭的な面で首根っこを舞につかまれていることもあるが、女が3人(ミゥ含む)に男1人である、とても太刀打ちできるものではないとうのが実際のところなのかもしれない。


 こうして誰も知らない無名の天才科学者・兼ミゥの整備メンテナンス工・兼雑用の社員が生まれたのだ。


 そんなこんなでペントハウスのウッドデッキの上にはうら若き2人の娘がくつろいでおり、1人のアンドロイドが宅配を行い、1人の男がアンドロイドの行動を監視しつつ雑用に精をだしていたのだ。


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