3ー3 可憐、加恋、カレン その1
3ー3 可憐、加恋、カレン その1
カンパニー・ミゥの新しい職員の配属。本社担当業務エリアの拡大といった重要事項が、いつまでも子離れ出来ない父親と、ちょっとばかり自分の趣味に走ってしまっている父親と、ちょっとズレた誇大妄想を抱いてしまっている父親、とそのイエスマンな子会社の社長で決定されている頃、本社の代表取締役社長である金髪ゴージャス美人のカレン・ホールデイズは、落ち込んでいた。
幼い時より帝王学を学び、兼務ではあるが財閥の要職を担い、その上でカンパニー・ミゥの実質的な舵を取っている舞。さらに、ニュートロン型人工頭脳と感情制御回路の理論体系を確執した若き天才科学者の徹。そんな2人に挟まれて、オトボケ枠として見られやすいカレンであったが、実際にはカレンも相当に優秀である。
今回の騒動が起きた後、裏方として様々な方面にネゴシエーションをしていた舞はさておき、その舞のむちゃぶりな対応を、表舞台で、マスコミの対応、各種関係機関との利害の調整、果ては公社との数多くの賠償問題について等、実際の行動をしていたのはカレンである。優秀ではないはずがない。
そのカレンが、落ち込んでるのだ。
ぶっちゃけ舞も徹も底抜けに明るい性格をしているとか、くよくよせず突き進むような破天荒な人格であるだとか、そういうことは、まったくといって望むことはできない2人である。
本人は気付いていないかも知れないが、良いも悪くもカレンは社のムードメーカーでもあるのだ。
そんなカレンがうじうじしていれば、気になるのも人情であろう。
カレンからみても、今回の事件において、舞の対応は本当に迅速で、適切だった。
そして、カレンは、自身が代表(たとえ、実質的にはそうではないとはしても)であり、社を預かる立場にある。
でも、カレン自身は舞に頼りきりで動くことも、判断をすることもできなかったのだ。
ミゥが起こした今回のギガスペースラインの違法な強制突破という事態は、問題の規模が大きすぎたのだ。
代表は、社の方向性だけを示し、あとは優秀な部下に任せればよい。そう言う経営者も多いだろう。
しかし、カレンが代表を務める、カンパニー・ミゥは、本社とはいえ、実質としては3人と1人のアンドロイド、たった4人が属している零細企業でもあるのだ。難しい問題も起きないし、財閥に属している限り経営が傾きこともない。せいぜいがミゥが引き起こすクレーム処理が、問題解決業務のほとんどである。そして、今回もそのはずだった。ただ、実際に起きた問題が、公社や他のコロニーをも巻き込む、大事件であった点である。
カレンは優秀ではあるが、ついこの間まで学生で、その後の社会経験も、自身の家業であった地域に密着した宅配、運送業がすべてである。舞とは本質的に違う。それはどうしようもないことではある。
『このままでいいのか』
カレンは、そう思い悩み、そして落ち込んでいたのだ。
カレンは、事務所でリクライニングチェアに体を任せると、『ふぅ』と、ため息をついた。
「コーヒーを置きますね」
徹が、カレンの前に、なみなみに注がれたコーヒーカップを置いた。
カレンは、自分のため息が聞こえたのではないか・・・慌てて座り直し、
「あっ・・あ、ありがとう」
取り繕うかのように襟を正して、笑顔で立っている徹に謝意を伝えた。
丁寧な口調に、意外そうな顔をして
「ええ」
答えた徹をみて、口を尖らせて頬を染める。
かなり可愛い。
徹が、そんなカレンを見つめていると、
「ジロジロ見るんじゃねえよ、この変態がっ」
カレンが、照れ隠しなのか、急に口調を平素に戻し、徹に憎まれ口をきく。
徹は、申し訳なさそうに眉をしかめ、
「す、すいません」
そう頭を下げた。
「何の用だよ」
徹を横目でみながら、カレンがそう尋ねる。
「いえ、カレンさんが神妙そうな顔をしていたので、ちょっと気になったので・・・」
「がっ!?・・」
カレンが言葉を詰まらせて、再び赤くなって下を向く。
「この度は、私がミゥの管理をうまくできなかったこともあり、カレンさんにも迷惑をお掛けしました。マスコミの対応や、公社pの対応お疲れ様でした。何かお手伝いできることがあれば、私も微力なら手伝いますので、言ってください」
徹は、カレンの次の言葉を待たずに、手を両脇に揃えて、大きく頭をさげた。
「いや、ま、その・・・」
カレンは、まともに言葉を発することができず、震えている。
徹は、そんなカレンの様子をみて、
「怒っていますよね。半分は私のミスですし・・・」
徹はさらに続けた。
「・・・」
カレンは、言葉なく、目の前のコーヒーに口をつけ、
「まずい」
そう呟いた。
「すいません、なかなか上手くなりませんね」
下げていた顔をあげて、今度は頭を掻いた。
カレンは、
「えっ、あっ、まぁ」
と、言葉にならない小さな奇声を発しながら、両膝をそろえて、徹に顔を見る。
「いや、ちげぇよ。あたしは、社長っていわれながら、ぶっちゃけミゥの行動には興味をもってなかったしさ。あたしなりも今回のことは反省してるわけでさ・・・、だから・・・」
最後は声が小さくなって聴こえない。
徹は、
「いえ。カレンさんは頑張ってますよ。舞さんはある意味暴君です。それはもう昔から」
そう笑った。
徹が、舞のことを自分の言葉で方あるのを、カレンは初めて聞いた。
「そんなにか?」
「ええもう」
カレンの問いに、徹が答える。
そして、自然と2人から笑い声があがる。
「あはははは」
「はははっ」
カレンは、もう一口コーヒーに口を運ぶ。
「やっぱりまずいな、お前少しは学習しろよ」
カレンの頭の中は、霧が晴れたようにすっきりしており、口調ももう平常運転に戻っていた。
次の話で1部完です。
2部もプロットも終わり、書き始めています。




