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宇宙宅配便カンパニー「ミゥ」!  作者: いのそらん
1部
29/94

2-5 いくぞ、とぶぞ、超えるぞ宇宙!  その6

 一方、ギガスペースラインのゲートを突破したミゥは、徹に通信を送っていた。完全に突入してしまうとあらゆる通信ができなくなってしまう。そのためギガラインのへの突入の加速時間、ほんの30秒のチャンスを狙って通信を送っていたのだ。

 と、いっても、音声や画像の通信は無理であったため、徹のところにある、自分のメンテナンス用のシステムコンソールに対して、文字通信を送ったのだった。


 徹も、ミゥが宇宙空間にでてからずっと、モニターの前でミゥからの通信を待っていたので、すぐにミゥから通信が送られてきていることに気づいた。この時代、文字通信など滅多にあるものではない。舞達に気づかれないように、作業をしてる振りを続けながら、ミゥの通信に返答をおこなった。


「マスター。私ノ行動ハ、34ノ社内規則ニ違反し、12ノ宇宙交通法ニ抵触シテイマス。シカモ、イクツカハ刑事事件ニ発展スル可能性モアリマス・・・%&・・$・・#」

 ミゥから送られてきた通信内容は徹が予測していたのものとは大きく違っていた。徹は驚きながらも、口元に笑みを浮かべながら丁寧に返答を打った。


 ミゥが徹に通信を送っている間も、管制室からは停船要求が絶え間なく送られてきていた。ミゥは徹に通信を送りながら、管制室への音声通信の回線を開いた。そして、息を吸い込むと突然、歌を歌い始めた。


 そうやってミウが歌い始めた頃、ようやく警備艇の警備員達がミゥたちを視界に捉えていた。

 警備艇は直接破壊につながるような攻撃こそすることはないが、ミゥ達を停船させるための、牽引ワイヤーと電磁ネットを展開させようとしていた。ミゥは、徹に通信を送りながら、同時に、それらの攻撃を巧みな操船技術でかわし、そして更に歌を歌っていたのだ。


 一方、徹からの返答もコンソールに文字で表示され続けていた。


「ミゥ・・・。確かに君は周囲から見れば間違っていることをしているのかもしれない。でも、君自身は、それを間違った、恥ずべき行動だと思っているのかい?」


「・・#・&%・・」

 残念ながらミゥからの返信は文字化けで読めない。

 徹はミゥの中にインストールされている倫理規定や宇宙交通法、もちろん社内規定と、初めてかもしれない生まれ始めている感情との戦い。

 それを想像しながら返事を打つ。


「人はね時々間違ったこともするんだ。それが自分にとっての正しい事だと心が感じたならね・・・そう、君が人なら・・・」

「人トシ%テデス&カ?」

 辛うじて今度は返答を読むことが出来る。


「そうだ」

興奮しているのか、徹の口調がいつもより荒い。


「・・・・」

 ミゥからの通信が止まった。徹は言葉を続けた。ミゥは監視艇からの攻撃を右に左にとヒラヒラとかわしながら歌い続けていた。


「君は、子供の誕生日に親が買って与えるおもちゃの人形じゃない。俺ののすべてが詰まった新しい存在・・・。何も遺伝子操作だけが新しい命の創造じゃない。そう、新しい・・君も新人類なんだ!」

ミゥは、文字からさえ伝わってくる、激しい肯定の感情に


「新人類・・%$・」

 とだけ打ち返す。


「そうだ」

 再び強い肯定。


「ワカリマシタ%%。理由ハハッキリトハ言葉ニデキナイノスガ、コウシタイト&%#&確カニ感ジルノデス&&」

 ミゥは初めて、感覚からの非論理的ともいえる、そう感情を吐露した。


「ミゥ。通信にノイズが多い。何が・・・」

しかし、その言葉は全部は徹には届かなかった。

そして、ミゥから更に続いた文字列を見て、声をあげた。


「歌ヲ$歌ッテ%$%イルノデス」


『っ····』

 社内には、財閥の情報部から流れてくる現状に、釘付けになってるとはいえ、舞もカレンもいる。

 徹は左右を見渡し自分の口をふさいだ。


「歌って・・・おい、歌って・歌ってなんだ?」

 徹は震える手でそう聞き返した。


「%&%$#$」

 限界だった。


「くっノイズが多すぎる。ミゥ。どうしたんだ。返答をしてくれ」

 必死に通信を送るがミゥからの返信はない。


「・・・」

 何かを打とうとしている。

 コンソールに入力中のアイコンが点滅している。


「ミゥ!!」

 徹が急いで呼び掛ける。


「イッテキマス」

 最後の通信がコンソールに流れた。

 タイムオーバーである。


 そしてミゥは警備隊を振り切ってギガラインに突入した。

 不法な侵入を示唆するサイレンだけが、管制室と監視艇にこだましていた。


 ミゥは確かに最後、『いってきます』と、言った。ならば、徹にできることは見守ることだけだった。徹は大きなため息をついて、そして珍しくギラギラした獲物を狩る狩人のような表情で微笑を浮かべた。

 コンソールの前から立ち上がった徹の表情は、いつも通りであり、隣の部屋の2人のために2杯目のコーヒーを用意しはじめた。


 一度中に入ってしまえば、何者にも邪魔することはできない。ゲートアウト先にもよるが、おおよそ30分程度の時間で通り抜けることができた。


 ギガライン内を航行する船舶は、インしたゲートとアウトするゲート、その2つの間で接続されている微弱な電波をたよりに航行することになる。そのために、アンテナが必要なのであった。もし電波をロストすれば、まったく別のゲートに到着してしまうか、あるいは一生の亜空間から抜け出すことができない悲劇に見舞われてしまうのだ。


 ミゥは正確に電波を捕らえていたし、間違いはなかった。

 ミゥは順調に航行を進めていた。そして、モニター越しにチャイの寝息を聞くと、先ほどのギガライン突入の際に歌っていた歌をもう一度歌を歌いだした。


  ごーごーみぅ~~~♪

  ごーごーみぅ~~~♪

  強い体ときらめく知性、

  どんな所もひとっとび

  あなたの元に届けます~♪

  愛する人へ~

  大切な物を~

  親切、丁寧、真心込めて~

  さぁ、いくぞ、いくんだ~みぅ!

  今日もミゥはあなたの元に届けます~♪

           作詞・作曲 遠藤徹


 歌詞にも曲にもセンスがなく、さらにはミゥの歌には感情がまったくなかった。突入の際には歌を聴く余裕などなかったチャイは、今度は微笑を浮かべながら一回瞬きをした。ここまでが緊張の連続であったためか、その歌を聴きながら眠ってしまった。


 ミゥが目的のコロニー領域にゲートアウトすることを信じていた人物がここにもう一人いた。だからこそ、突入の報を受けてからの舞の行動は早かった。


 すぐに支社を通じてコロニーでの入国許可を取り、宇宙ドックでの受け入れ体制をとった。ここで更に強制入国などをされては、社としての損害は金銭的なものだけではなくなってしまうからである。結果、異例ともいえる早さで許可がおりた。

 ちょうどその許可がおりたころ、チャイを乗せたミゥは、ゲートアウトしたのだった。


 チャイのコンテナには小さな積載物チェック用のモニターがついていたので、ミゥはそのモニターにコロニーの映像を転送した。チャイは、ようやく着いたことを知ったのであるが、完全に船酔いをしていたので、ただうなずいただけであった。

 やっぱりこの大きさの宇宙船である、しかも躱すだけとはいえ、派手なドックファイトもした。流石に乗り心地抜群とはいかなかったようである。


 その10分後には、ミゥ達は財閥所有のドックに入港した。

 2人は、こうして温帯湿潤気候フロリダ型調整コロニー、別名、リゾートコロニー『エデン』に降り立つこととなったのであった。


 このコロニーエデンは、数あるコロニーの中でも、常夏のリゾートを売り物にしているリゾートコロニーであった。

 その後、舞の指示で即、チャイの両親のことが確かめられたが、残念ながらチTVで放映された人物が探していた子供はチャイではなかった。そのことを告げられたチャイは、その場に泣き崩れた。


 チャイはとにかく泣いた。


 しかし、泣き終わると、周囲が思っていたよりはあっさりとその事実を受け入れ、笑顔をとり戻した。


 カンパニー舞の面々は、その場にいたミゥの視覚情報をオフィスで眺めていた。現地とは1時間ほどの時間差があったが距離を考えればかなりのリアルタイムといえる。

 チャイのその様子をみたカレンが、


「こいつ案外強いな・・・」

 そうつぶやくと、徹が立ち上がって、何かを思い返すような、そんな声で、


「もう今までに十分泣いてきた、だから・・・」

 そうつぶやいた。


 モニターに集中していたカレンは、その小さなつぶやきに気づなかったが、舞は横目で徹を見ると、少しだけ眉を寄せた。

 

 しかし、このミゥとチャイの冒険は、社とチャイのその後の運命を大きく変えることになったのだった・・・。

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