2-4 入浴、乳浴、女の体 その1
2-4 入浴、乳浴、女の体 前編
「え?おじさんが、私の髪の毛を切ってくれるの?」
これが、徹と茶褐色の少女の最初の会話だった。
確かに、徹は部屋に閉じこもっており、ほとんど外には出ない。人間の女性にはほとんど興味はなく、興味があるのはモニターの中の数値や数式だった。1日のほとんどの時間は、ニュートロン型人工頭脳を搭載した人類史上初の自律思考が可能な女性型のアンドロイドのミゥに費やされていたのだ。逆にミゥを1人の女性とするのであれば、世の中のどのストーカーも舌を巻くだろうほどの執着振りであるといえた。
まあ、昼間から、異常に空調の聞いた部屋で、丸い体をいっそう丸くしてお茶をすする姿は、正直ジジイ臭いこと極まりないといえる。これらの徹の生活を見ていれば、13歳のチャイにしてみれば、徹はぶっちゃけジジイなのかもしれない。とはいえ、ほとんど初対面の少女に『おじさん』呼ばわれる謂れはなかった。
徹が、少女のいささか無礼な問いかけに対して返答をしようと口を開きかけた時、別の声が割って入った。
「チャイ様。マスターノ年齢ハ、マダ24歳デス。『オジサン』ト、ヨブニハ少シ年齢ガ、足リナイノデハ」
チャイは大きく振り返いった。
「ミゥ姉さん。この変態が私の髪の毛を切るって言ってるんだよ」
ペントハウスのウッドデッキに連れてこられて、ミゥの脚にしがみついて不安そうな顔をしていた女の子との面影はどこへやら・・・。
すっかりと寛いで、ずいぶんと横柄である。
まあ、子供というものは、元来遠慮というものを知らない生物である。
そんなことは、徹も百も承知。しかし、自分が同じぐらいの年、同じような境遇だった時・・・
こんなに横柄で無遠慮だっただろうか。
自分には、チャイと同じ境遇になるまでに、学校で一緒だった幼馴染の女の子が居て、ある事をきっかけに生活環境が一気に変わった後も、その女の子が年に似合いない財力でいろいろと助けてくれた。
将来もなんとなくではあるが、酷いことにはならないんだろうなという安心もあった。
他の子から比べれば恵まれていたし、寂しくもなかったのかもしれない。
でも、初対面の、しかも自分を助けてくれるはずの大人に、『変態』はない筈である。ないと信じたい。
「変態って、それはないだろ!」
と、徹にしては珍しくツッコミを入れてしまった。心なし頬が引きつっていたかもしれない・・・。
チャイは、徹のツッコミ?をされると、すばやくミゥの後ろに隠れた。
ミゥは、徹の顔とチャイの顔を交互に見比べながら、チャイに声をかけた。
「チャイ様。私ノ頭髪ハ人工ノ物デスガ、コノ髪モマスターニ整エテモラッテイマス」
場の空気を感じたのか、感じないのか不明だが、ミゥが機械的な声で伝える。
「へぇ?ミゥ姉さんって、髪の毛も伸びたりするの?」
チャイが目をパチパチしながら、ミゥの髪の毛をなでる。
「イエ。私ノ頭髪ハ伸ビルコトハアリマセンガ、一定期間毎ニ新シイモノニ植エ替エヲ行ッテイマス。ソノ度ニ、私モマスターニ髪ヲ切ッテ貰ッテイルノデス」
チャイは、ミゥがいつものように、自分の髪の毛を指で巻きながら、話す様をしばらく見ていたが、再度徹に視線を向けると、
「そうなんだね・・・・」
そう言って、徹にあかんべぇをして再び言葉を続けた。
「でも、あたし、今、髪の毛なんか切って欲しくないけどな」
ミゥは、自分の髪の毛をいじるのをやめると、チャイの髪の毛に手を絡ませた。
「舞様が、切ルヨウニトオッシャッテイマシタ。オ風呂ニハイル前ニ髪ノ毛モサッパリシタライカガデショウカ?」
ミゥは、舞が残していった言葉を命令と受け取っているのか、そんなことを提案する。
チャイが嘆息をつく。
「まあ、変にならずに切ってくれるなら別にいいんだけどね。施設だと自分で適当に短くするだけだからね。だから、全体の髪の毛の長さがなかなか揃わないの、だから、いっつもこうやって結んでるんだ」
そう言って、チャイが結んでいた髪を解く。確かに、ぱっと見にも不揃いなのがわかる。特に自分で見えない後ろ側は、ぶっちゃけ適当と言っても過言ではないレベルだった。
今度は、ミゥがチャイの髪の毛をなでながら、質問する。
「自分デ切ルノデスカ?理解デキマセン」
チャイは、自分の髪を軽く掻き揚げて、額に手を当てると、
「まあ、気にしなくていいよ。ミゥ姉は、恵まれてるんだよ」
そう、寂しそうにミゥに答えた。
「ソウナノデスカ?」
ミゥは、徹の方とチャイを交互に見ながら、素直に疑問を口にした。
「まぁ・・私は施設での生活しか知らないから、たぶんだけどね」
チャイは、ため息をつきながら肩をすくめて、そう返答した。
「メモリーシマシタ」
チャイは、『何を?』って顔を徹に向けて、再び嘆息をつくと、椅子に腰掛けた。
「・・・おじさん、ミゥ姉さんっていつもこんな感じなの?」
突然、話を振られた徹は、再びおじさんと呼ばれて苦笑いを浮かべたが、悪気はないことはわかっているので、とりあえず無視をして、チャイの質問に返答する。
「ミゥは、いまどんどん勉強して賢くなっていってる最中なんだよ。人間でいうのであれば、ミゥはまだ生まれて間もない赤ちゃんなんだ。でも着実に成長しているんだ。普段は、お客様やこのオフィスのスタッフとの会話がほとんどだから、君はミゥにとって新鮮なんだよ。そんな意味で、きっと覚えておきたいって感じたのかもしれないね。悪気はないんだよ」
チャイは、ミゥに視線を戻すと、
「じゃあ、チャイの方が年上なの?」
そう尋ねる。
「肉体的な年齢の上ではそうなるね」
徹が、ちょっと考えるそぶりをして、そう答えた。
「ふーん。じゃあ、妹だね」
チャイは、そういって、ミゥに体ごと向き直ると、
「ミゥ、あたしおじさんに髪の毛切ってもらうから待っててね」
そうミゥに告げた。
「了解シマシタ」
自分が年上とわかると、急に態度が変わる・・・。結局2人ともまだまだ子供なのだ。そして徹に振り向いて、満面の笑みを浮かべた。
「じゃあ、よろしく。お・に・い・さ・ん」
徹は、小さなお姫様に冷や汗をかきながら、ミゥを見つめた。
『おじさんには即、訂正をいれてくれたのに、変態には最後まで訂正無しなのかよ。。。。。俺なにか間違えたのかな?(汗)』
ミゥは徹の視線に気づくと、再び自分の髪の毛をいじりながら、チャイのお風呂の準備に向かった。
徹は。椅子に座ったチャイに、ミゥの散髪の時にも使っている散髪用のシートをかぶせ、さきほどぞんざいに解かれた三つ編み綺麗にいといた。そして、霧吹きで髪を湿らせると、慣れた手つきで散髪を始めた。
10分もすると、ひろげたシートの上には髪の毛がかなりちらばっていた。
「さぁ、できたぞ。鏡みるかい」
「うんうん」
頷くたびに、払っていない髪の毛が広げたシーツの上に落ちる。徹は手鏡をもってくると、チャイに手渡した。
「うわぁ~~~~」
それがチャイの大一声であった。
「可愛いいいぃ~~~」
これが第2声。
「やっぱり思ったとおり変態でロリコンだったのね」
・・・・第3声。
「・・・」
最後で落とす、なかなかツワモノなチャイ。
「あははは。冗談だよ。あんた上手いのね。ちょっと見直したよ」
「・・・」
徹は、苦笑いを浮かべて、無言で頷いた。
鏡に映ったチャイの髪型は、眉の上で綺麗の前髪が整えられ、左右のもみあげは、耳の前で小さな束になっていた。 後髪は、首の付け根からうなじむけて、髪の毛の厚さを残すように外に向けて上に刈り込まれていた。チャイは、よほど新しい髪形が気に入ったのか。しばらくの間、鏡を持って自分を眺めていた。
「さぁ。ミゥが待ってるから、お風呂いっておいでよ。後でもう一度髪の毛は束ねてあげるから、髪の毛もちゃんと洗って毛を流してくるんだよ」
「はーい」
『案外、素直な娘なのかもな・・・』
徹がそう思った瞬間・・・
「覗かないでね」
そういって、チャイはお風呂場に走り去った。
「・・・・」
徹は、またもや無言で、今度は右手で頭を掻きながら走り去るチャイを見送った。




