2-2 小さい、小さな、依頼人 その1
2-2 小さい、小さな、依頼人 前半
舞が、不本意ながらその集配を許可してから20分後には、ミゥは、徹から入力された座標を左眼球内の内視界ディスプレイ上の地図にマーキングするとその地点に向かっていた。
ミゥが宅配業務に使っているのは、スズキ製の軽ワゴンである。
青い色のどノーマルな外装の上から無理矢理、白を下地とした車を斜め横に結んだかように、ピンク色の塗料でリボンが描かれていた。そのちょうど車体の横の部分あたり、リボンの腹に、社名である「宅配カンパニー・マイ」のロゴがデザインが描かれていた。そのロゴは、洒落たフォントで綴られており、そこだけなら一流企業を思わせる集配用軽ワゴンといっても差し支えないのだが・・・、まあ、いかんせん土台となっている車本体がボロい。
そう、この軽ワゴンも、何を隠そう「ホールディング宅配便」時代から受け継がれている遺産の1つなのである。徹の改造により、ミゥのシステムを直接車の制御コンピュータに接続することができるようになっていた。そのため、ナビゲート機能等の各種機能は、かなりのハイテク仕様車なみであった。ただ外見からは、まったくそのことが想像できないのだ。もっとも見栄をはって贅を凝らした集配車を用意したところで、正直それほど積載する荷がないのではあったが・・・。
とにかく、白地にピンクの帯、運転しているのはアンドロイドである。目立たぬはずはない。
通常業務として、ミゥが平素から担当している西地区であれば、ミゥを見かけることは珍しいことではなくなっており、今日に到っては人の目を引くことはなくなっていた。ただし、普段ミゥが足を踏み入れることのない東地区では違う。ミゥとこの集配車は、まさに走る広告灯よろしく目立ちまくっていた。
たしかに、車の運転を行うアンドロイドは存在しないわけではない。しかし、それが人型であることはまずない。車の運転・制御にアンドロイドを用いる場合は、アンドロイドの本体は車の制御コンピュータに直接接続するタイプの単なる箱で提供されているのが通常なのだ。例外あるとすれば、私有地内、例えば工場内での荷運搬のためのホークリフトの操作などをするアンドロイドぐらいである。
つまり、一般道を人型アンドロイドが自らハンドルを握って運転することはそれだけ稀有なのである。しかも、ミゥはナビゲーション自体は直接コンピュータ同士で制御をしているものの、その他の運転動作はすべて、自分の手足を使って運転しているのだ。まあ、アンドロイドでも道を走るためには免許がいる。そのため。ミゥはアンドロイドとして一般道を走る許可を得るために、人間と同じに自動車教習学校にも通ったのだった。ま、通った自動車学校は、伊那笠グループの学校ではあったのだが、免許を取得したことには変わりはない。
そんなこんなで、世にも珍しい、集配車が実在するに至り、この宣伝効果を生み出しているのだ。
そんな派手な集配車が、普段来訪者すらほとんどない、東地区再果ての地に乗りつけたのだから、野次馬さえでる始末であった。ミゥ自身は、現時点ではあまり羞恥という感覚が発達していないこともあり、周囲を一瞥しただけで、集配地点の建物の玄関に向かっていった。
ミゥが集配に訪れたその場所は、東シュワーツ孤児院であった。
こんな科学が進んだ時代に孤児などいるのだろうか?そんな疑問をもってもおかしくはない。たしかに医療技術が発達し、体の一部を機械化することも可能な時代ではある。なかなか孤児など生まれそうにはないのだが、やはりこのコロニーシュワーツにも孤児はそれなりにいるのだ。
事故で両親を亡くした者もいるが、中には捨てられた子もいる。いつの時代になってもそういう輩はいるのである。特にコロニーという膨大な面積を誇る宇宙空間に点在している居住空間の都合上、子を捨ててコロニーを移住してしまえば、子供がある程度の年齢に達しており、情報を提供したとしても追跡することは難しかった。シュワーツが日本型のコロニーであるように、他のコロニーもそれぞれ特徴がある。移住者は、移住した先の様式にあわせて名前を改名したりすることも珍しくはない。
そんなこんなで科学の進歩は、コロニー間孤児が両親を見つけにくいという背景を作ってしまってもいるのだ。
東西南北の居住エリアにはそれぞれ1つづ孤児院が運営されていた。どの孤児院も公社が資金を出して運営されていた。
孤児院で育った孤児は、14歳になると、公社の訓練所に移され、公社での業務を叩き込まれ、16歳から社員として働くことになる。この点では、公社にとってはある意味、先行投資でもあるのだ。
そういう意味では今回、カンパニー・舞に依頼の電話をかけてきた少女は、少なくとも13歳以下ということになる。
ミゥは、車を脇の駐車スペースに止めると、車のナビゲーションシステムと接続していた背中のプラグをはずすと、ゆっくりと車の外で出た。周囲は、十数名の野次馬でとりかこまれていた。
人型のアンドロイドとはいえ、ミゥには機械的なパーツがいくつも残っている。誰がみてもアンドロイドだとわかる。先程も言ったように、アンドロイドが派手な車にのって孤児院に乗りつけたのだから周囲の目を引くには当然のことであった。
ミゥは周囲に一瞥すると、ゆっくりと孤児院の正門をくぐった。
ちょっと1話の文字数が多かったようなので、2000文字~3000文字ぐらいに調節してアップするようにしますね。




