第1.5章 閑話 昼下がりの美女、美少女、そして微妙
1.5章 閑話 昼下がりの美女、美少女、そして微妙
「なあ、舞、いいのか?」
金髪ゴージャス美女のカレンが、いつものようにウッドデッキのパラソルの下でそう声を掛けた。
普段、あまり難しいことを考えている風ではないカレンの表情には、少しだけ疑問符が浮かんで見えた。
「なにがですの?」
黒髪スレンダー、まさに清楚系お嬢様風(まああの伊那笠財閥の一人娘なのだからまごうことなきお嬢様ではあるが・・・)といった舞が柔らかい笑顔で聞き返す。
「なにがって・・・。あれだよ・・・」
カレンが口ごもる。
「あれが?」
舞も再び笑顔で聞き返す。
「・・・」
「・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・・」
静寂が流れる。
「だぁぁぁ・・・。めんどくさい、ほんとめんどくさい女だな、お前」
カレンが、頭を掻きむしりながら叫ぶ。
「失礼な・・・」
舞は笑顔を崩さない。
ビル最上階、ペントハウスのウッドデッキの昼下がり、カレンはサイダーを、舞はアイスティーを片手に水着で、ウッドデッキ中央に置かれた円卓を挟むように設置されたビーチパラソルの下のビーチソファにもたれ掛かりながら機智にとんだ会話に花を咲かせていた。
仕事中
ビーチパラソルにビーチソファ
水着
そう、仕事中である。当然業務に関する会話である。
カレンは黒を基調としたビキニタイプの水着、舞は白を基調として、腰と袖口に刺繍のはいったフリルのついたワンピース風の水着を着ていた。
「あの科学オタク、昨日もここに泊まったんだろ?」
カレンは、ソファにもたれ掛かった体を少し起こしながら、再び口を開く。
「それが何か?」
舞の顔がほんの少しだけ曇る。
「何かじゃねえよ、興味ないふりしててもバレバレだっちゅうの」
カレンがかぶりを振るようにして、体を本格的に起こし、ソファのへりに座る。
手に持っていたサイダーを円卓に置き、話を続ける。
「舞は、なんだかんだいって、徹に甘いよな」
舞も、ソファに座り直し、やはり手のドリンクをサイドテーブルに置く。
カレンの話は止まらない。
「アパートも借りてあげて、滅多に帰らないとなると、一通りの生活設備を社内に用意してるしさぁ。それだけじゃないよな、ミゥがカップ麺しか作らないからって、年中自宅の調理人の作った食事を差し入れしてるよな?大体、こんなこと言ったらもうそもそも何なんだって話にはなるんだけどさ、そりゃ、貨物専用宇宙船の通行証は伊那笠んところにとって必要なものだったんだろうが、それでもあんなに金積んで、それでもって国内のしかも地域限定のこんな小さな宅配業務をするためだけの支店?営業所?まあ、どっちでもいいけど、ほんとに必要だったのかよ・・・。しかも今更アンドロイドでの宅配。これ、どうなんだよ?」
カレンは一息ついて、サイダーをすする。
舞は、一瞬だけ目を見開いて、また笑顔を作り直し返答をした。
「もちろん財閥のため決まっていますわ。通行証は我が財閥に長年欠けていた重要なものです。お父様も、カレンさんとの縁で得ることのできた『貨物専用宇宙船の通行証』は、とても評価をして下さってますのよ」
「通行証はそうだろさ、じゃあ、あのメカフェチの研究はどうなんだよ」
「もちろん、評価して下さってますわ。そもそも徹さんの実現した『ニュートロン型人工頭脳と感情制御回路』は画期的で、今後のアンドロイドビジネスに大きな影響を与える可能性があるのですもの。あなたの審美眼にはかなっていらっしゃらないかもしれませんが、財閥にとっては十分に金の卵ですのよ」
舞も一気に返答を返す。
「審美眼って、じゃあ舞の審美眼には適っているのかよ?」
幾分意地の悪そうな顔で、詰問するカレン。
「なにをおっしゃりたいのかわかりませんが、金の卵といってるのです」
舞の声が少し硬くなる。
「いや、怒るなよ。別にあいつの技術が価値がないなんて言ってないだろ。あたしが言ってるのは、そこだよ、ミゥは自立思考型の感情を持っているんだろ?だから大丈夫なのかって言ってるんだ」
「△※□〇×・・・」
舞が固まる。
そんな舞をみて、カレンは肩をすくめた。
「まあ、舞が大丈夫だっていうなら、それはそれでいいんだけどな。所詮ロボットだしな」
金髪美人は自身で自身に言い聞かせるようにぼそりとつぶやく。
舞はうつむき加減に、カレンをちらりと伺いみると、
「カレン、今日はずいぶん絡むわね」
舞も若干低いトーンで独り言ちる。
「・・・」
「・・・」
会話が止まる。
幾分重たくなった空気を散らすように、舞が再び話始める。
「ところで、カレンさん、今日はミゥがメンテナンスルームでスリープモードに入ったら皆で食事でもいきませんこと?」
「へ?」
素っ頓狂は声を上げるカレン。
「だから、お食事にいきませんか?」
舞がもう一度言う。
「そりゃいいがよ。ロボ狂いもか?」
「ロボ狂いって、さっきはメカフェチ、その前は科学オタク・・・。もう少しましなネーミングはありませんこと?」
「じゃあ、ちびデブ」
「・・・」
「じゃあ、と お る さ ん?」
舞が、再び固まる。
「普通に呼べばいいでしょ!」
「だから普通に呼んでるじゃないか。ほれ、とおるさん」
「・・・」
「まあ、からかうのはこのぐらいにしておくか」
「(怒)」
「まあ、なんでもいいんだけど、あたしも行っていいのかよ?」
まさに、『ニヤリ』とした顔で、カレンが尋ねる。
「どういうことですか?」
少し頬を赤らめた舞。
「そりゃぁ・・・」
カレンは、そういうと再び肩をすくめた。
もじもじし始める舞。それを見かねたカレンは、腕を組みながら返答する。
「わかったよ、みんなでいこう、それでいいんだろ」
「・・・・」
舞は咳ばらいをすると、
「では、それでお願いします」
そう先ほどの沈黙を言い直し、そのまま立ち上がるとウッドデッキを後にした。
軽いステップで室内に消えていく舞は、心なしか楽しそうであった。
一人残ったカレンは、ビーチソファに再び横になって、若干ぬるくなったサイダーを口に含んだ。
そして、カレンは、舞からの『この話』、会社の買収と、新しい会社の設立、そして今営業開始しているアンドロイドを使用した宅配業の開始、短期間に次々と変化した自分の日々を思い返した。
今の生活にそれほど不満はない。
明日おも知れぬ零細企業で汗水たらして働く未来と比べれば、幾分どころではないマシな生活だ。
舞は可愛いし。ミゥだって頑張ってる。親父は金を得て老後は安泰。
しかも、自分は将来の予定(規模はまったく異なるが)通り、一企業の社長にも収まっている。
好きな車も乗り回しているし、何より仕事が楽だ。不満などない。
徹は・・・。
徹は、徹で悪い奴ではない。そうだ良い奴だ。
多少、『あれ』だが、かなり『あれ』だが・・・・。そう悪い奴ではない。
徹のもさっとした姿が脳裏に浮かぶ。
出会ってから、徹が自分に大きな迷惑を掛けたことはないし、いつも言うことは聞いてくれる。
そもそも、自分が現在乗り回しているレトロなスポーツカーは、徹がいつもメンテナンスをしてくれているからこそ、動いているじゃじゃ馬だ。電気自動車のくせにほとんど充電しなくても動き続ける、自動充電機能も追加してくれている。シートもあたしに合わせてフルカスタマイズ。コーティングもミゥのメタルパーツに施しているほとんど劣化しない最高級コーティングを舞に内緒で施してくれている。
やっぱり良い奴だ。
舞も言っていたが、あの時代遅れな眼鏡をやめれば、顔だって・・・。
あとは、ほんの少し痩せれば、まあ身長はどうしようもないが。
「ん!?」
あたしは、何を考えているだ。空をみて目を瞑る。そして、右手を団扇のようにして、パタパタと火照った顔に風を送る。
「よし、いくか。さて今日は舞に何を奢らせるか、じっくり考えなきゃな」
そう呟きながら、カレンはソファから立ち上がる。舞とは違って、そのボリュームある胸が揺れる。
舞が残していったアイスティーのグラスと、自身のサイダーのグラスを手に持つと、お尻を振りながらウッドデッキを後にした。
カレンと舞のガールズトーク。愛と感動の物語ですしね。
また、2章は推敲終わり次第アップしますね。




