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宇宙宅配便カンパニー「ミゥ」!  作者: いのそらん
1部
12/94

1-6 勉強、教育、無駄な知識? その5

1-6 勉強、教育、無駄な知識? エピローグ


日課を終えると、ようやく2人の長い1日が終わりに近づく。


 この日も、いつもの、それらの映像ファイルの再生がすべて終了すると、徹は毎日同じ質問をミゥに尋ねていた。


「ミゥ。全部見終わったかい?」

「ハイ」

「今日の感想は何かあるかい?」

「・・・」

これもいつもと同じ問いかけ。


「なんでもいいから、感じたことを言ってごらん。いつもいってるでしょ?」

 徹は、毎日同じ質問に、最近では若干違う返事がかいってくるのを楽しみにしていた。


「ハイ・・・。映画ノ中ノ女性ハ、イロイロナ衣装ヲ持チ歩イテイルノデスネ。アノ衣服ハ、ドコニ持ッテイルノデスカ?」

 最近のミゥの質問は、具体性があるものに変化してきていたのだ。徹も丁寧に返答する。


「あれは役者さんが、映画のシーンに合わせて着替えているんだよ。だから持ち歩いている訳ではないんだよ」

「ソウナノデスカ」

「どうして、服が気になるんだい?」

「特ニ理由ハアリマセン。ワタシハ服ヲモッテイマセン」

 ミゥは、そう言うと、時々見せるように、自分の髪の毛先を指でいじりはじめた。徹は少し驚いたような顔をみせて、それからミゥにやさしく声をかけた。


「そうだね。欲しいのかい?」

 思わぬ反応があったので、徹は質問に変化を加えた。


「別ニ欲シクハアリマセンガ・・・」

 徹はミゥのメンテナンスルーム横のクローゼットに目を向け、


「ここには、君のための洋服もちゃんと用意されているよ。もし着たいのであれば、そこのクローゼットを探してみるといいよ。ぴったりとした服は今は着れないけどね、ちゃんと外装パーツの上からも着ることのできるゆったりとしたものを選んであるんだ。」

 そう言ってから、徹は立ちあがると、ミゥの充電とバックアップを行うあの椅子の横にあるクローゼットの扉をあけて、中を確かめるように眺めた。ミゥは、その徹の背中を見つめ、それからクローゼットを凝視した。


「こっちにこないのかい?」

 徹がミゥを手招きする。


「・・・」

ミゥは動かない。


「そうか、じゃあ、1つ僕がプレゼントをあげよう」

 そう言ってミゥに笑顔を向ける。


「プレゼントデスカ?」

 しばらくクローゼットに釘付けになっていた視線を、振り返った徹に戻し、少し大きな声でそう返答をした。 

 ミゥの様子を横目でみながら、徹はクローゼットの中の小さな小物入れから何か小さなものを取りだした。

 そして、ゆっくり歩いてミゥに近づいた。


「プレゼントだ。君の髪の毛は長いから、ちょっと邪魔だろう?この髪止めを使ってごらん」

 そういいながら、徹は、赤い小さな柔らかい布でできた、円状の髪止めを差しだした。髪をとめる中央の穴の付近が、皺になりよっているのは、その部分に髪を締めるためのゴムが入っているからであろう。


「髪止メ、デスカ」

 おそるおそるといった感じでミゥがそれに手をのばす。


「うん。使い方はわかるね?」

「ハイ、映画ノ中デ何度モ、主人公ノ女性ガ後デ髪ヲタバネテイマシタ」

 手にした髪止めを手のひらでなんども転がしながらミゥがそう答えた。


「うん。じゃあ、明日から髪が邪魔だな?おしゃれしたいな?と思ったら、朝配達にでるときに使ってごらん」

「ハイ。ナゼ髪止メヲクレルノデスカ」

 ミゥの視線が髪止めから徹に戻る。


「君が1つ進歩したお祝いだよ」

「・・・」

 ミゥは再び髪止めを見つめる。


「以前、君は配達先で小さな女の子に、ハート型のシールを腕に貼られたことがあったよね?」

「ハイ」

小さく頷く。

「あの時、君はシールがぼろぼろになって自然と剥がれ落ちるまで、それを剥がさなかった」

「ハイ」

もう一回小さく頷く。


「それが、プレゼントの理由だよ」

「ワカリマセン」

ミゥは今度はピタリと動きを止める。

 徹は、机の中から小さなビニールの袋を取りだして、ミゥに見せた。


「ソレハ・・・」

「そうだ、あのシールだ。覚えていたね」

 徹が目の前で振っている袋をみて、ミゥが言葉を詰まらせる。

 本当に感情的に詰まらせたかは不明だが、徹にはそう見えた。


「君の記憶システムは、ファジーに作ってあるんだ。すべての事象を記憶することはできない。つまり、君の心が強く印象を受けたことを覚えるように作ってあるんだよ」

「ハイ」

「それも、1つの答えだよ。理由がわかったらこのシールも君にあげよう」

 そう言って徹は、その小さなビニール袋をミゥに手渡した。


「・・・」

 ミゥは自分の手の中の髪止めとシールを交互に見ると、やがて小さな声で


「ワカリマセン」

 そういって、俯いた。


「ミゥ、今日は疲れただろう。寝るとしようか?」

「ハイ」

 質問をされると、ミゥは平常運転に戻る。


「今日はどこで寝るんだい?」

「イツモノ椅子デスリープモードニ移行シマス」

 残念ながら、ミゥのこの返答はいつもと変わらなかった。


「そうか」

 徹は短く了承の意を返した。


「・・・」

 ミゥは無言で頷く。徹が話を続ける。


「そうそう、その髪止めの色違いの髪止めが、さっきのクローゼットの中の小物入れにいくつもはいっているよ。気分で変えて出掛けるといいよ」

「・・・ハイ」

 ミゥがほとんど聞こえない声で頷く。

 徹はわざとらしい大きな声でミゥに声を掛ける。


「じゃあ、おやすみ」

「オヤスミナサイ」


 ミゥは、今度は普通の声の大きさでそう返事を返すと、そのまま黒い小さな椅子に座るとスリープモードに入った。ミゥ専用の扉の上についている非常灯のみが部屋を照らしており、その柔らかい光が椅子に座るミゥの影を壁に広げていた。

 徹がミゥに薄いブランケットをかけると、影は揺らめいて闇に溶けていった。


これで1ー6 分割終了です。

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