1-6 勉強、教育、無駄な知識? その4
1-6 勉強、教育、無駄な知識? 終編
「マス・・、徹サン。何カ私ニ変ナコトガ?」
「いや、何もないよ」
「ソウデスカ。アマリ観察サレルト、スコシ戸惑イヲ感ジマス」
その返答に、徹はますます笑みを浮かべた。
ほんの少しではあるが、感情と仕草が連動している。徹は素直に嬉しかったのだ。
「そうか。ごめんね」
徹はそう謝ると、椅子に座ったミゥが正面になるように座りなおし、ミゥの目を覗き込んだ。その途端、ミゥが一瞬体をこわばらせるようにして、頭を後ろに引いた。
「どうしたんだい?」
「イエ、突然デシタノデ、反射的反応カト」
「ふむ。でも君にはそんな反応をする、動作プログラムはないんだけどね」
徹はミゥの反応を確かめるように、ミゥに語りかける。
「ソレハ・・・」
ミゥが視線から逃げるように顔を背ける。
徹は再び笑顔で話を続けた。
「まあ、カレンさんや舞さんと、いろいろ話をするのは、とても君には勉強になっているんだね」
「ドウイウ意味デショウカ?」
ミゥが徹に視線を戻す。
「ミゥ的に言えば、君の感情回路が受け取った外的、あるいは周囲の状況から、体の動作プログラムへの連結がより複雑に細分化されていってるという所かな?」
ミゥにわかりやすい言葉で説明をする。
「アリガトウゴザイマス」
ミゥが丁寧に頭を下げる。
「人的にいえば、君の中の人間としての行動や反応が徐々に増えてきているということだね」
徹の説明は続く。
「・・・」
ミゥが黙ってしまうと、徹は話題を変えた。
「さて、そろそろお腹減ったな。ミゥ君はどうするんだい?」
これは今まで何度も繰り返されて来た問いかけ。
「有機的ナ栄養摂取ノ話デスカ?」
「そうだね」
徹は大きく頷く。
「必要性ガ理解デキマセン」
ミゥは、一瞬だけ間を置いて、そういつもの返事を返した。
「わかった」
これもいつものやり取り。
「徹サンノ食事ハ私ガ用意ヲシマス」
そしてこう続く。
「ん?いや、今日は・・・」
「イエ。私ガデキルコトハマダ少ナイノデ、オ役ニ立チタイノデス」
徹はひきつりそうになる頬で頑張って笑顔を維持して、
「それ以外の部分でも十分お役に立っているよ・・・」
そうミゥに返す。
「ソレハ、私ガ食事ノ用意ヲスルノヲ拒否シタイノデスカ?」
徹は、うつむいて、頭を掻いた。
『どうして、そんなところだけ、するどいんだ・・・』
「ドウカイタシマシタカ?」
ミゥがやたらと凝視しているように感じる。
「いや、わかった。じゃあミゥに頼むよ」
「ハイッ!」
徹の観念したようなつぶやきを聞くと、心なしか、元気にミゥが返事をした。そして、10分後、徹の前にはあるものが湯気をあげていた。
「マスター、召し上がれ♪」
『どうして、この台詞だけそんなに流暢なんだよ・・・』
徹は再び心の中で、そんな声を発しながら目の前のものに目を向けた。目の前にあったのは、人がまだ地球で生活をしていたころの大発明であり、現在でもその恩恵は計り知れないレトルト食品の王、カップ麺であった。それも、味噌味。これが、ミゥが現時点で、用意できる食事唯一のものであったのだ。そしてなぜか種類は味噌味のみ。
ミゥが最初、食事の支度としてカップ麺を出したときは、徹は大いなる驚きとう喜びで心が一杯になり、それはもう大変な勢いでミゥを賞賛した。
しかし、だからといって、それ以降、来る日も来る日もこれでは、徹もたまらないい。何度か別の食事の支度を教えた。いくつかについてはミゥも覚えているはずであるのだ。ただ、それでもミゥはカップ麺を出しつづけるのだ。
おそるおそる上を見上げると、ミゥが徹が料理?に手をつける瞬間をじっとながめている。
今のミゥには、まだ表情らしい表情がほとんどない。正直真顔で凝視されるのは、特にこんな状況だとちょっと怖い。徹は、昨日同じように、笑顔で、
「ありがとう」
そういって、カップ麺をすすり始めた。こうやって、ミゥと徹の夜は過ぎていくのだ。
食事が終わると、徹は、映画や教育の映像をモニターでミゥに見せつづける。ミゥはアンドロイドであるため、視覚からの入力に頼らずとも、データとして映像ファイルを閲覧することも可能だったが、徹は敢えてモニターを利用していた。徹がミゥのために用意した題材は3つあり、それを順番を変えながら毎日見せているのだ。
人間であれば、毎日同じ映画などを見せられたら、それがいかに面白い作品であったとしても飽きてしまうのかもしれないが、ミゥは現時点では飽きるという感情はまだない。まあ、毎日、同じ映像を見つづけているのだ。
1つ目は、涙を誘う感動物のラブストーリーの映画。2つ目が人類が地球で生活していた時代の世界遺産と呼ばれるか数々の雄大な景色。3つ目が、このコロニーでの人々の生活がいかに素晴らしいかを紹介したコロニー宣伝用のプロモーション映像であった。順番こそは毎日変えているが、中身はいつも同じであるのだ。
そしてそれらの日課が終わる、




