7-3 尋問、唖然、神の技 その1
舞と徹とミゥは、公社から指定された、公社ビルの20階にある、公社宇宙交通局の応接室に向かっていた。
公社は、宇宙統一政府として存在している正式名称、宇宙コロニー管理公社の略称である。公社は、宇宙に存在している全てのコロニーを管理し、さらにそれぞれのコロニーは、その公社の支局が運用を行っている。今舞たちがいるのは、その公社のコロニー・シュワーツ支社である。
さらに、今回事情聴取を行うのは、ギガスペースラインの管制を統括している「宇宙交通局」である。
公社の20階にある部署で、その業務はギガスペースラインの管理と、そのトラブル一切を取り仕切っている部署となる。
ただ、実際には交通管制が中心で、あっても事故や違反などを取り締まる程度の部署であった。
ぶっちゃけ、ギガスペースライン内で戦闘が行われることなど滅多にないのだ。
ギガスペースラインは、空間を湾曲させてつくられている亜空間である。いったん方向を失えば、下手すれば一生出てくることができない。そんな危ない場所で戦闘を繰り広げるなど、本来は正気の沙汰ではない。
宇宙コロニー管理公社は、基本非武装である。
警備隊にしても、違反艦艇を拿捕するぐらいの装備しか持っていない。
武装という意味では、SWAN号を始めとして民間船の方がずっと充実している。
それは、宇宙で略奪行為を行う宇宙海賊への対応などは、公社の業務範囲には入っておらず、それぞれの企業が個別に対応するものだからだ。
公社が非武装であることは、あくまでも宇宙のコロニーを管理する組織であり、コロニーを統括するという立場から、統一政府のような役割を担っていることを強調するためでもあった。
今回のような事態は想定外であったが、おおまかなガイドラインは本社が決めており、実際のコロニー自治は支局が独自の判断で行っている。
そもそもコロニーは宇宙空間に浮かんでいる。
ほんの小さな穴が空いただけで大惨事になりかねない。下手な武装をするより、コロニーを盾にとっている公社の方がよほど強いのだ。
『コロニー自体が襲われることはないのか』
という疑問もわいてくるだろうが、実際、このコロニー襲撃が起きたことはない。コロニー同士のつぶし合いが始まってしまえば、人類は逃げ場所を失ってしまう。
逆に言えば、海賊もコロニーに住んでいる。だからこそ、コロニーは襲撃しない。この時代の不文律であった。コロニーは人が生活する場所としては脆弱すぎたのだ。
『じゃあ、コロニー内の犯罪などはどうやって抑止するのか』
という疑問が出てくるかもしれない。
これは、同じ公社の中にある、宇宙コロニー管理公社の治安維持部がすべて担当していた。
地球時代の警察と同じ機能を持ち、コロニー内の生活における一般的な犯罪を取り締まっていた。交通違反から窃盗、殺人、詐欺などである。
もちろん、今回の亜空間での戦闘は、この範囲ではない。
舞たちが指定された応接室に到着すると、扉が静かに開いた。
室内の空気は廊下よりわずかに冷たく、舞たち3人の目に整然と並べられた椅子の配置が嫌でも目に入る。任意での事情説明であるはずなのに、どこか尋問室めいた含みを感じさせる並びだった。
机の向こう側には4人の人間が座っていた。
そのうちの1人は治安維持部の制服を着ており、すぐに所属が分かった。
まだそれ以外にも3人いる。
1人は警備隊のミハエル隊長。救助に当たった人物なので、ここにいるのは自然だ。もう1人は交通局の人間だろう。現場の管制官と同じ意匠の服で、色違いのものを着ている。
そして・・・残る1人。
ビシっとした灰色のスーツを着ているが、目つきが悪く、パソコンに向かって何かを入力している。スーツが窮屈そうで、もぞもぞと身体をよじっていた。
舞、徹に続いてミゥが応接室の扉をくぐると、その男は露骨にぶしつけな視線をミゥへ向けた。
ミハエルは綺麗な金髪だったが、残りの3人は黒髪黒目の日系人だった。コロニー自体が温帯湿潤気候ニホン型であり、日系人が多いコロニーであるため、これは不思議ではなかった。
3人が応接室に入ると、扉が自動で閉まった。
そして4人は席から立ち、舞たちに向かって頭を下げるのだった。
そのうちの1人。舞が交通局の職員だと予測した人物が、
「今日は、わざわざ事情聴取に来ていただき、ありがとうございます」
そう言いながら、再び頭を下げた。
「いいえ。お勤めご苦労様です。私が、伊那笠財閥の伊那笠 舞です。今回、任意にて事情の説明を行わせていただく、カンパニー・ミゥ所属の艦艇、SWAN号のオーナーとなります。よろしくお願いします。」
舞が、丁寧で、そしてにこやかな笑顔で挨拶を返した。
しかし、その目だけは一切笑っていなかった。
「任意?」
例の4人目、正体不明の男が反応する。
「ええ。任意ですわ。私たちはあくまでも襲撃された被害側でございますので」
舞は飛び切りの笑顔を浮かべたまま、声だけを冷ややかに返した。
「・・・」
「皆さま、お座りになったらいかがでしょうか。私たちも席に着かせていただきますわ」
舞は手のひらを前に出し、優雅に席を勧めた。
そしてそのまま徹とミゥに目くばせし、一番手前の席に座った。
本来であれば3つ席が並んでいるが、そうすると徹とミゥがばらばらになってしまう。今回は、徹とミゥは隣にいたほうが都合が良い。4人が席に座るのを確認して、舞が徹に自分の隣の席に座るよう促す。
舞、徹が席に着き、徹がミゥに席に座るよう促そうとしたその時・・・。先程からパソコンとこちらを行ったり来たりしていた男が、鼻で笑うように口を開いた。
「アンドロイドに席を勧めるのか?」
その言葉に、徹の隣に無表情で立っていたミゥが、静かにその男へ視線を落とした。
その動きは、人間の少女のような柔らかさではなく、機械的な静けさがあり、異様な滑らかさだった。
舞はその様子を見て、笑顔のまま、しかし目だけはあくまでも冷たいまま、男へ言葉を挟む。
「失礼ですが、あなたはどういった立場の人なのでしょうか?」
男は鼻を鳴らし、ふんぞり返った。
「私は、公社の宇宙技術開発局、人工頭脳統制官の望月だ。
今回のそのアンドロイドのログと、件の艦艇のログ、そこに搭載されたAIの不正を診断する技師だ」
その物言いには、宇宙AI技術の第一人者とされる徹への、安っぽい対抗心が滲んでいた。
嫉妬とも劣等感ともつかない、ねじれた感情が混ざっている。
舞は顔をしかめ、最初に声を掛けてきた交通局の人間を睨みつけた。
交通局の職員として名乗った、伊藤が慌てて頭を下げる。
「伊那笠さん、すいません。何分技術者でして・・・。普段、このような場に立ち会うことも少ないものですから。
あ、私は今回の事件を担当する伊藤と申します。よろしくお願いします。」
望月をフォローするように言った。
「そうですか。ミゥはカンパニー・ミゥの社員としてここに来ています。椅子に座ることに何か不都合があるのでしょうか?」
舞が淡々と問う。
「い、いえ。もちろん座っていただいて構いませんよ。こちらもミゥさんの状況は理解しているつもりです。」
「それならよかったですわ。」
舞がミゥに視線を送ると、ミゥは特に表情を変えることなく椅子につこうとして、徹をうかがう。
「構造上は耐えられると思うよ。それに君は重くない。」
徹がミゥの視線に気付いてそう声を掛けると、ミゥは、
「ワカリマシタ」
徹に笑顔を向け、静かに席に着いた。
望月は、その一部始終を、気に入らないと言わんばかりの表情で睨んでいた。




