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7-2 進化、真価、深化 その4

 舞は、徹からSWAN号の戦闘ログ、ミゥの戦闘ログ、その修正点と整合性についての説明を受け終えると、静かに頷いた。


「それなら問題なさそうね」

「よかったです」

 徹が胸を撫で下ろすように息をつく。


「もともと徹さんがやることですから、心配はしていませんでした」

「そう言ってもらえれば・・・」

 徹が言いかけたところで、舞がさらりと重ねた。


「そういう方面においてのあなたの才覚は信用しています。他の部分に関しては心配だらけなので、安心はしてほしくないものですが・・・」

「はぁ・・・」

徹の声が、目に見えてトーンダウンした。


「マスターノ作業ハ完全ナモノデシタ」

ミゥが、自然に会話へ割って入った。


 舞の肩が、ほんの一瞬だけ固くなる。

 ミゥが誰かの会話に割って入るなど、今まで一度もなかったからだ。


 舞はミゥを見つめ、わずかに目を細めると、徹へ向き直った。


「徹さん、例のログは消してはいませんね?」

「あ、はい。指示の通りに残してあります。今はミゥとは切り離したスタンドアローンの磁気ディスクに保管してあります」


 その言葉に、ミゥが微かに反応した。

 舞は横目でその動きを確認したが、何も言わずに話を続けた。


「磁気ディスクって、いつの時代ですか・・・」

「いえ、磁気ディスクなら、仮に何かあっても中を読み取ることさえ難しいかと思いまして・・・」


 徹が頭を掻きながら言い訳をする。


「まあ、いいわ。後で確認しますわね」


 その瞬間、ミゥが明らかに大きく反応した。


「私ノ記憶ニ関スルログデアレバ、舞サンノ閲覧ニ関シテハ個人情報保護法ニ抵触スルノデハアリマセンカ」


 徹が驚いたようにミゥを見る。

 舞は、意外でもなんでもないという顔で、静かにミゥへ視線を戻した。


「卑怯なようで、こういう言い方はしたくないのですが、先に謝っておくわミゥ。これは『舞』ではなく、


『出資者としての伊那笠財閥としての舞』

『カンパニー・ミゥの役員としての舞』


と考えてください」


 舞は、柔らかい笑みを浮かべながらも、言葉の芯は揺るがなかった。


「舞、何を言ってるんだい?そんなこと卑怯でも何でも・・・」


 徹が口を挟もうとした瞬間、舞が再び言葉を重ねた。


「これは徹さんが関わる話ではありません。わたしとミゥの問題ですわ」

「・・・」


 徹は困ったように舞とミゥを交互に見つめる。


「マスター。舞サンハ、私ヲ認メテクレテイルト推察シマス。助ケハイリマセン」

「助け??」


 徹は完全に理解が追いつかず、舞へ助けを求めるように視線を向けた。

 舞は小さく息を吐き、徹に言った。


「ミゥの言葉の裏にあるものを、わたしが言葉として伝えてしまったら、それこそミゥに失礼にあたります。たまには自分で考えるとよいですわ」

 徹は口を閉じるしかなかった。

 舞の返答を聞いたミゥは、また薄く笑みを浮かべた。


 徹はまだ気づかない。

 ミゥと舞が、何について静かに火花を散らしているのか。

 玲華が心配していた『修羅場』は、すでに始まっていた。


「それにしてもミゥ。ずいぶんと1日で変わったのね」

 舞は口元に手を添え、微笑みながら問いかけた。


「変ワッテハイマセン。表現ノ方法ヲ得タノデス」

「なるほど・・・」

 舞は納得したように頷き、そして静かに宣言した。


「いいわ。受けてあげる。でも、ログは見るわよ」

「ハイ。ソレハ既ニ了承済ミデス」

 舞は徹へ向き直る。


「ということだから、切り出した感情部分のログは、あとで読ませてくださいね。ミゥに許可はもらったわ」

「え。ええ・・・」

 徹は戸惑いながら頷いた。


 その瞬間、ミゥの顔からふっと表情が抜け落ちた。

 冷戦は、ミゥの中でいったん終わったのだ。


 合理的で、切り替えが速い。

 舞がログ閲覧の正当性を持つと理解したミゥは、それ以外の部分で戦い、そして『引き分け』と判断したのだろう。


 舞は話を本題へ戻した。


「では、当日は、私はSWAN号の客席でモニター越しに報告を受けながら、ミゥの要請に許可を出していた。それでよいのですね?」

 徹は一瞬呆けたが、慌てて頷いた。


「え、はい。その通りです」

 舞は続ける。


「ミゥの戦闘ログは、公社の端末に接続する形ですべて提供。そのうえでAI診断を受けて、不正な書き換えがないか確認してもらう。それで良いですね。おそらく公社の担当官は、この件で全権を持っているわたしに許可を求めてくるはずです」

「はい、それで構いません」

 徹が頷く。


「SWAN号のログも同様に、公社にゲートを開き、AI診断で不正の痕跡を確認してもらう。こちらもそれで良いですね」

「そうですね」


「最後に、戦闘に使った武器ですが、砲撃以外はすべて実弾のミサイルで間違いないですね」

「間違いありません」

 徹は端末を確認しながら答えた。


「例の有線ウイルス弾ですが、これはこちらの攻撃ではなく、敵戦艦が出航前に何者かの手で遅効性ウイルスに感染していて、それが戦闘最終局面で発動した。そういう筋書きでよいのですね?」

 舞の声が、わずかに低くなる。

 核心の確認だった。


「はい。もともとそのように見えるように組んであるウイルスです。AI診断を受けても、事実が露見することはないと断言します」

 徹は淡々と答えた。


 舞は最後の確認として、ミゥへ視線を向けた。


「ミゥ、あなたから見て、今回の偽装が露見する可能性は何%ぐらいかしら?」

 静かに座っていたミゥの目に、わずかに光が宿った。


「マスターノ作業ガ、公社ノAI診断デ偽装トシテ露見スル可能性ハ0.001%デス」

「・・・。ずいぶんと低い確率ね。統計学的にはそんな0に近いことはありえるのかしら?」

 舞の問いにも、ミゥの表情は動かない。


「可能性ハ存在シマス。コノ確率モ、AIノ誤判断発生ノ可能性トシテ算出サレタモノデス」

「なるほど・・・」

 舞は納得しきれない表情を見せたが、ミゥは続けた。


「ソレニ、マスターノ作業ヲ、AIデアル私ガ確認シテイマス。ワタシノAI診断精度ハ、公社ノソレニ劣リマセン」

「その自信の根拠は?」

 ミゥの表情が、はっきりと力強いものに変わる。


「マスターノ設計ニヨルモノダカラデス」

 舞は小さく息を吐いた。


「分かったわ・・・」

 舞の冷戦は、ここでようやく終わりを告げた。


「徹さん、では問題がなければ、公社の事情聴取に向かいますわよ」

「はい。わかりました」

 舞、徹、ミゥはリムジンを降り、公社の建物へ向かって歩き始めた。


 その背中を、玲華とアレンが少し離れた場所から見守っていた。

 リムジンから離れた場所で話をしながら警護をしていた2人だったが、不思議とリムジンの中の修羅場を感じていた。その証拠に、3人がリムジンから出てくると、2人とも安堵のため息をついたのだった。


 本来の波乱の一日は、事情聴取を受けるここからであるのだ。

 舞とミゥの戦いは、あくまでも前哨戦にすぎない。ただ、徹にとってどちらが大変なのかは、玲華たちには想像ができなかった。


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