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オーバーラップ  作者: 杏 烏龍
壱:桜ヶ丘高校剣道部の伝説
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第三話~仮入部~

 入学二日目の放課後。竜太はチャイムと同時に廊下に飛び出していた。新入生なので授業はまだ無く、授業の準備の話ばかりだったので、放課後がずっと待ち遠しいかった。

 校舎を出で中庭を抜け、足早に歩く竜太。すると後ろから剣二も走ってやってきた。

「竜太はん、待ってな! そんなにあわてんでも武道場は逃げへんよ!」

 竜太は剣二に目もくれず、

「北条が遅すぎるんだ! やっと念願かなうのに待ってられるかよ」

 二人は競うように校舎の端にある武道場に向かっていった。


 武道場にはまだ誰も来ていなかった。二人は早速稽古着に着がえようとすると、入り口には張り紙がしてあった。

『仮入部を希望する諸君は制服のまま、武道場内で待機すること。 剣道部顧問 嶂南(やまなみ)

「えっ? 制服のまま?」

 二人は戸惑った。重い思いをして稽古着と防具を持ってきたのにと思った。

「今日練習させてもらえへんのやろうか……」

「そうなるのかな?」

 二人は困ってしまった。すると、いきなり後ろから

「仮入部希望の新入生か! そんなところに突っ立てないで中にはいった、入った!!」

 周りにビリビリ響きわたるかのような大きな声。二人がびっくりして振り返るとそこにはがっちりとした体格で、ジャージ姿のいかにも体育教師! という人が立っていた。顔は丸く、あごには少しひげを蓄えていて、達磨大師っぽく見え、一見柔道か拳法の先生のようだ。

「ほらほら、人の往来の邪魔になるから、中に入って右側で待っていてくれ、その重そうな防具は更衣室にでも入れておくといいぞ、今日は使わないからな」

 そう言って、二人は『ひげの先生』に武道場へ押し込まれた。二人が防具を置いて中に戻ると、

「まあ、そこに座って待っていてくれ、もう少し後でもっと人数が集まれば話をするからな、ところで君たち、剣道は強いか?」

 と『ひげの先生』はいきなり竜太と剣二に質問を浴びせた。竜太、剣二はいきなりの質問で面を食らったが二人同時に、

「はい!」

 と力強く答えた。

「そうか! 強いか! けっこう、結構! わっはっははは!」

 二人の答えを聞いて『ひげの先生』そう言い残して奥に消えていった。

「だれだありゃ?」

 竜太は完全に圧倒されていた。

「あの人顧問の先生とちゃいます?『もっと人数が集まれば話をするから』と言ってはったし」

 剣二は答えた。二人はその場で待つことにした。

 そのうちに新一年生らしき人が何人も武道場に現れ、見る見るうちに大人数になった。数えれば男子三十人、女子十名くらいはいるだろうか?

「ふ〜ん。入部希望者多いんだな」

「そりゃ竜太はん全国制覇した学校だからうちらみたいな人たちとちゃいますか?」

「……」

「竜太はん……、びびってるの?」

 剣二がいたずらっぽく話す。

「んな訳ないだろ!」

 竜太は憮然として答える。

 しばらくすると上級生たちがやってきた。もちろん竜太憧れの東堂しのぶもいる。稽古着を着てたれをつけた状態で思い思いに準備運動をはじめだした。

「早く仲間に加わりたいよな、北条」

「ほんまそうですわ。でも入部試験を合格せんとあかんから」

「それはそうだけど」

「どんな試験で勝てばいいんやから、竜太はんやったら大丈夫やね」

「北条のレベルならあっさりだろ」

「でも油断は禁物や、竜太はん」

「お互いに」

 正座して待っている間、お互いを励ますかのようにひそひそと話す二人。すると――、

『どぉん! どぉん!』

 時を告げる太鼓の音が武道場に響く。その音を聞いて上級生たちは一斉に整列する。奥から紺の胴衣と袴を身にまとった人が現れた。先ほど竜太たちを武道場に入れてくれた人だ。

「ほら、やっぱり顧問の先生や」

「確かに、いかついな」

 相変わらず二人はこそこそしゃべっている。

 顧問の先生らしき人は、少し前とはうって変わってとても厳しい表情になっていた。眉間にしわが刻まれ、眼光するどく、少し蓄えたひげがより攻撃的な表情を作り、いつでも飛び掛ってきそうな雰囲気だった。そして、竜太たちの所にゆっくりと歩いてきた。

 「え〜、新一年生の諸君! 入学おめでとう。そして、数ある倶楽部の中から我が剣道部に入部を希望してもらったことに剣道部顧問として敬意を表する。申し遅れた、自己紹介しておこう。私は桜ケ丘高校剣道部顧問、嶂南(やまなみ)だ。ここ桜ケ丘高校剣道部の卒業生で段位は五段だ。君たちの中で晴れて入部できたならぜひ一緒に練習したいと思っている」

 嶂南先生は新一年生の前に立ち、熱く語った。顔が紅潮しているのがわかる。

「今回ここにいる新一年生は全部で男子三十二名。女子十名すべて仮入部希望者でいいな!!」

 いきなり竜太たちに問い掛ける。竜太たちはあまりに急に聞かれたので返事ができなかった。

「なんだなんだ!! 返事がないぞ! 君たちは入部したくないのか! どうなんだ!」

「はいっ!!」

 今度は新一年生ほぼ全員が返事した。その返事を聞いて嶂南先生は満足した表情を浮かべた。

「それぐらい元気がないとこれから君たちに課す入部試験を突破することができないぞ。さて、すでに二年生や三年生の先輩から聞いていると思うが、我が桜ケ丘高校剣道部は全国に有数の強豪で名を轟かしている。一昨年は男子で悲願の玉竜旗大会※で全国制覇を成し遂げた。しかし、全国制覇したとはいえ、強豪の名を継続するには常にどの学年でも高いレベルを保たなければならない。故に我が校剣道部は入部希望者に対して入部試験を課している。その試験を突破したもののみが入部を許されるのだ。しかし、入部出来たからといっていつまでも安寧はない。成績が芳しくなければ、半年後にまた入部希望者を集めて入部試験の際に入替え試験を課す。そこで不合格なら部を去っていただく。その場合は自己研鑽をして半年後に入部試験に臨むか、あきらめるかだ。ひどいと思うかもしれないが、この世界は弱肉強食だ!強いもののみが生き残る。我が部はその伝統を守ってきている。君たちはぜひ入部試験を突破してほしい。ここまでで君たちから聞きたいことはあるか?」

「どんな入部試験なんですか?」

 新一年生の誰かが聞いた。

「まあまあ、慌てるな」

 嶂南先生の目が怪しく光り、そして微笑む。

「気になる入部試験についてだが、今日入部希望者の新一年生はここに男子三十二名、女子十名いる。明日までに仮入部届を出したものが試験を受ける資格をもつ。試験方法は、男子はまず三十二名から十名まで絞り込む。トーナメント方式で勝ち抜いた八名と、一回破れたが敗者復活トーナメント方式で勝ち上がった二名を加えて十名にし、その後、上級生の入替え者と勝負し、その勝者が合格とする。女子十名はトーナメントで五名とし、あとは男子と試験方法は同じだ。ぜひ勝ち抜いてほしい。健闘を祈る! 以上!」


 竜太たちは嶂南先生の説明を聞き、当然のごとく仮入部届を提出した。試験日はあさってとなった。その後、部活の見学は許されたので二人ともその場に残って先輩たちの練習を見ることにした。練習を見ながら剣二がこそっと竜太に話し掛けた。

「竜太はん、自信あります?」

「入部試験のことか?」

「当然そのことですわ。もし予選で負けてしまって、敗者復活にまわればきつくなりそうやし、予選はお互いに絶対負けたらあきまへんで」

「あたりまえだ、俺は絶対に負けない!」

「うちもや、竜太はん、お互いがんばりましょ」

 竜太と剣二はお互いに健闘を誓った。

 そのとき、嶂南先生の大きな声が武道場に響いた。

「東堂! どうした、最近剣に力が入ってないぞ! しっかりしないと入替え戦で負けてしまうぞ!」

 それを聞いて竜太は驚いた!

「えっ? しのぶ先輩……入替え戦? なぜ?」


 ※玉竜旗大会

玉竜旗全国高等学校剣道大会(ぎょくりゅうきぜんこくこうとうがっこうけんどうたいかい)のこと。毎年七月下旬に福岡県福岡市で開催される実在の高等学校剣道大会である。



(第四話に続く)

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