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オーバーラップ  作者: 杏 烏龍
壱:桜ヶ丘高校剣道部の伝説
3/33

第二話~好敵手と先輩~

 

「おまえは! って……竜太はん、そんな悪人みたいにうちを呼ばんといて欲しいですわ」

 校門の影から一人の少年が現れた。背格好は、かえでと同じぐらいだが少々華奢に見える。

「北条くんも同じ高校だったの?」

「はい! かえではんと一緒でうれしいですわ」

 満面の笑みをたたえているこの少年、竜太のライバルで同級生の北条剣二ほうじょうけんじである。隣町の中学校剣道部の主将で、竜太とはいつも大将戦で合間見えてきた。現在の勝敗は三勝三敗一分。腕前は竜太とスタイルが違うもほぼ互角である。

 竜太はいきなりライバルの登場にいささかうんざりした表情で、

「ほんとにそのはなし方は何とかならないのか北条。『竜太はん』って呼ばれるとなんか気持ち悪いし、その自分のことを『うち』って言い方もなんとかならないか?」

 剣二は京都出身。そのためにはなし方がナチュラル関西弁だ。一念発起して剣道の強い桜ヶ丘高校に入学するために中学から親元を離れ祖父の家に越境中である。本人ははなし方にコンプレックスには思っていないらしく、

「竜太はんそやけど、うちはこのはなし方で十五年間過ごしてきたからそう簡単に直らへんし、今更直す気はないですわ」

「だけど、そのちょっとカマっぽいしゃべり方は」

「竜太いいじゃない。私は北条くんの関西のはなし方はなんか好きよ」

「ほんま? かえではん! ほんまそう言われるとうれしいわ! おおきに! かえではんはいつも優しくてうちうれしいわ」

 かえでに言われてさらに満面の笑みになる剣二。

「優しいって、北条くんもお世辞がうまいのね」

 と、まんざらでもないかえで。その横で少しむくれている竜太がボソッと、

「おおきにって。もともと剣道するためにこの高校に入ったくせに。まあ、北条はかえでが気に……」

「ああああああっ! 竜太はんそれ以上言わんといて!!」

 ぼそっとつぶやいた竜太の口を思いっきりふさいで、顔を真っ赤にしている剣二。

「ちょっと、かえではん失礼」

 きょとんとするかえでを尻目にそのまま校門の隅に竜太を連れていき小声で、

「竜太はん! 殺生やわ。かえではんに知れたら!」

「わるいわるい」

 竜太は剣二にあやまった。

「竜太はんお願いですわ。ほんまに頼みますわ、くれぐれも内緒に内緒に……」

 剣二は両手を合わせて懇願した。あまり二人でひそひそと話をするとかえでに不審に思われるので、二人はかえでの前に戻った。

「二人とも、なにこそこそとしているの!」

「いや、ちょっと男同士の話を……。なっ。竜太はん」

「おう! ちょっと北条と部活の話だ」

「ふぅーん。なんか、二人とも私に隠し事していない?」

 不自然な二人にいぶかしがるかえで。

「それはそうと、かえではん、当然部活は薙刀部なんでしょ」

 話題をいきなり変える剣二。

「そうなの。春休みから練習に参加させてもらったんだけど、レベルが高くてついていくのに必死なの」

 うまくごまかせたとほっとする二人。そのままかえでは話を続けながら校門をくぐりお互いの教室に向かいだした。

「それはそうと、北条くんも竜太と同じ剣道部に入るのでしょ。薙刀部の先輩から聞いたんだけど、剣道部に入るにはなんか試験があるんだってね」

「そうそう、そのことで竜太はんに話があったんで、門の前でうち待ってましたんや」

「あ〜、そのしゃべり方イライラするぅ!」

 かなり嫌気がさしている竜太。そんなことはお構いなしに剣二は続けて、

「竜太はん。今年の剣道部の入部枠は五人らしい。今うちがわかっているだけで希望者は約三十人ちょっと。先輩の話しやと選抜試験をするみたいや。キツイと思わへん?」

「ふぅ〜ん。五人のところに三十人かぁ」

「竜太はんあんまり関心あらへんみたいやね?」

「いや、三十人いようが、百人いようが入部枠の五人に入るのは絶対に俺だ!」

「おおっ! えらい自信や竜太はん。でも残念やけど入部枠はもう四人になったで」

「えっ? なんで?」

「だって一人の枠はうちに決定やし」

「へぇ〜北条こそ、えらい自信家だね」

「竜太はんこそ」

 お互いにライバルと認める竜太と剣二。不敵な笑みを浮かべながら歩いている二人ともかなりの自信家だ。かえでは少し後ろからそんな二人を見ながら歩いている。中学の時から二人はそろうとずっとこの調子だ。そんな二人を見ていると「ライバルっていいな」と少しうらやましい気持ちになる。今の二人はそんなかえでの気持ちに気づくことはなく話に夢中だ。

「ただ、どんな試験をするのかは先輩に詳しく聞けなかったんやけど……」

「たぶん入部希望者で勝抜き戦じゃないかな? まあどんな試験でも勝てばいいんだし」

「今日の部活のときに先生から話があるそうや」

「部活か……楽しみだ」

 三人が話をしながら下駄箱の前にさしかかった時、後ろの方から名前を呼ぶ声がした。

「中村くん! 西園寺さん! えっと……北条くん!」

 皆が振り返るとすこし小柄な少女が、こっちに向かって歩いてきた。

「あっ! しのぶ先輩! おはようございます!!」

 今度は竜太が満面の笑みを浮かべて挨拶をした。

 しのぶ先輩と呼ばれた少女は東堂とうどうしのぶ。学年は二年生。剣道部の先輩である。竜太と同じ中学の剣道部の先輩でもあり、剣道一筋の竜太にこの高校にすすめたのも彼女である。文武両道の彼女は学校でもトップクラスの成績で、部活の剣道でも常に上位にいる。背丈はかえでほど高くないが、腰まである長い黒髪とキリリとした表情が学校の男女を問わず、皆の憧れの存在である。

「おはよう! みんな入学おめでとう。またよろしくね!」

「はい、しのぶ先輩! これからもお願いします!!」

 と、とにかくうれしそうな竜太。剣二は少し緊張しているらしくうまく話せないでいる。かえでは、竜太がしのぶに憧れていることを知っていて、かえでに見せたこともない満面の笑みの竜太が少し気に入らない。すこし竜太たちからはなれて横を向いてむくれている。

「今日の部活で入部試験の説明があるから、二人とも遅れずに武道場にきてね。それと……」

 しのぶはかえでの方を向いて、

「西園寺さん。本当に入学おめでとう! 勉強大変だったでしょ」

 いきなり話しかけられたのでかえでは焦る。

「あっ、はい。東堂先輩ありがとうございます。ホント竜太のヤツ、すぐサボるのでもう大変で」

「かえで! しのぶ先輩の前でそんな事言うなよ!」

「だってホントの事じゃない!」

「俺もがんばったから入学できただろ!」

「まあまあ、二人とも……こんな所でけんかしないで」

 竜太とかえではしのぶに嗜められて我にかえった。

「もう、竜太のせいよ。東堂先輩の前では恥ずかしい思いさせて」

「それは俺のセリフだ。せっかくしのぶ先輩と話ができたのに」

 しのぶは二人に悪いと思ったのか、

「みんないきなり呼びとめてゴメンね。じゃあ放課後にね」と言って足早に教室にいってしまった。

 竜太とかえでもバツが悪いのか黙って自分達の教室に向かおうとした。

「北条、そろそろ教室行こうか。……北条?」

 剣二はしのぶに初めて話しかけられてなかなか緊張が解けないらしく、その場から離れられなかった。



(第三話に続く)

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