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オーバーラップ  作者: 杏 烏龍
参:入部試験・心技体
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挿話二~剣への心~

 竜太は、身支度をしながら、ふと考えていた。

(『人を護る剣』――どこかで聞いたことがあるんだけど……)

 発田の行動、言動に対して咄嗟に出てきた言葉『人を護る剣』。

 これまで竜太は剣道に対して『強くなりたい』『上手くなりたい』と思うことはあっても、『人を護る』と思ったことは実は無かった。

(でも、何故そんな言葉が出てきたのだろう?)

 理由はわからない。ただ発田の行動と言動に対して竜太自身が驚くくらいに自然と心の思うままに出てきた言葉である。わずかな疑問がつい身支度の手が止まる。

「竜太はん、手がとまってるで」

 傍にいる剣二が竜太に身支度の続きを促す。竜太がぼんやりしているように見えたからだ。

「ああ」

 竜太は短く答え、すぐ身支度に戻る。しかし心のひっかかりがまた竜太の指を止める。

(何だろう、この気持ちは。懐かしいような、悲しいような……ただ、急に胸をこみ上げる様な気持ちになって――)

 あと一歩のところが思い出せない竜太。もどかしい気持ちが募る。すると、ある言葉が竜太の脳裏に広がった。

 

「心正しき者におのずと護りの剣をつたへるものなり。邪の心宿りし者、護りの剣をつたふることなし……」


「竜太はん、何ぶつぶつ言ってますんや」

「あっ――ちょっと独り言」

「もう、竜太はんしっかりしてや」

 竜太が口にしたのは、幼い時に剣道場で稽古前にいつも詠唱させられていた『お題目』であった。

(護りの剣――そうか、ここからだったんだ)

 今でも諳んじて言えるお題目。竜太の心の中には、この言葉の意味が解らなくても、父と一緒に一心に大きな声を出していた幼い日の自分がいる。そう、剣道がとても強かった父と一緒に。

(親父はお題目を言った後は決まってこう言っていたな――『心が正しく無ければ、剣を持つ資格は無いぞ』だったかな……)

 そこまで言って、竜太は気がついた。

(心正しき――そうか、だから俺は発田先輩の剣への心が許せなかったんだ。剣は人を傷つけるものではないんだ)

 たった数十文字の中に込められた剣への心が。竜太の心に小さく火を点けた。


(第十話に続く)

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