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 救済。

評価&ブクマ、ありがとうございます。

やるならとことんがモットーです。




 救済とは何だろう?

 貧民を助けてくれという嘆願書を目にして、わたしはわたしなりに考えた。

 なんちゃって仏教徒のわたしには宗教というものは遠い。持てる者が分け与えるという精神もいまいち理解できない。何もせずに受ける施しは何の意味もないと思っていた。

 人間というのはなんとも厄介な生き物だ。自分が頑張って得た対価でしか、心は満たされない。対価なく受けた施しは人間を堕落させ、心が少しずつ死んでいく。

 だからわたしが与える救済は施しではない。自立へのサポートだ。


「まず、彼らが貧民街で暮らすことになった理由をはっきりさせましょう」


 わたしの言葉に、キルヒアイズだけではなくアインスもきょとんとする。予想外の言葉だったようだ。


「どういう意味ですか?」


 サイモンが困惑を口にする。


「言葉の通りです。好き好んで貧民街で暮らす人は居ないでしょう。そこで暮らすにはそこでしか暮らせなかった理由があるはずです。それを最初にはっきりさせたいのです。病気で働けなくなったとか、何か事情があってまともな仕事に就くことが難しいとか。親が居なくて行く場所がないとか。犯罪者で隠れて住んでいるとか。人によって事情はいろいろでしょうが、いくつかには分類できるのではないですか?」


 わたしの質問に、3人は顔を見合わせる。戸惑っていた。そんな情報。持っていないらしい。


(無理か)


 心の中でわたしは呟いた。サイモンも含めて彼らは上流階級の人間だ。貧民街について多少の知識はあっても、詳しいことは知らないのだろう。実際に貧民街を見た事なんてないだろうし、実情を知るわけがない。


「貧民街について詳しい平民とかの知り合いとか……いるわけないですよね」


 聞きかけて、無駄だと思った。そんな知り合いがお坊ちゃん達にいるわけがない。

 わたしはくるりと振り返り、ディオルドを見た。

 ディオルドはギクッとする。次にわたしが口にする言葉がわかったのだろう。


「貧民街のことに詳しい知り合いはいないかしら?」


 問いかけた。この中では一番、そういう知り合いがいる可能性があるのはディオルドだろう。彼は一応貴族だが、ほとんど名前だけの没落貴族で暮らしぶりは平民と変わりなかったと聞いた。むしろ、平民でも彼よりいい暮らしをしている人は沢山居たらしい。


「多少のことなら私でもお答えできますが、詳しく知りたいなら探してみます」


 ディオルドは答えた。

 その答えにわたしは満足する。


「詳しい話は後日聞くとして。今、答えられる質問にだけで良いから、ディオルドが答えてくれる?」


 問うた。


「喜んで」


 居酒屋みたいな返事が返ってくる。くすっとわたしは笑った。






 ディエルドによると、貧民街の住民は大きく3つに分けられるらしい。

 一つは親より前の世代から貧民街で暮らしていて、貧民街で生まれ育った人たち。彼らは成長した後も貧民街を出て仕事を見つけるのは難しいらしい。保障する人がいないと就職が出来ないからだ。


(意外とシビアな世界だな)


 日本より厳しいなと思う。

 この国で就職するには身元保証人が必要だそうだ。この保証人は本人が金目の物を盗んで逃げたり、仕事で大きな損失を出した時に文字通りに金銭で補填するらしい。通常は親か親戚がなってくれるが、他人の保証人になる人間はいない。そして貧民街で暮らす人間は保証人になれない。


 二つ目は落ちぶれて貧民街に来た人たち。彼らは借金で首が回らなくなったり、他国からやってきたり、病気で仕事が出来なくなったりとやってくる理由はいろいろだ。もっとも病気で流れ着いた人はそう長くは持たないので割合は少ないらしい。ほとんどが借金取りから逃げていたり犯罪者で逃亡していたりするようだ。


 そして三つ目は親を亡くした子供。行き場のない子供のたどり着く先は決まっているようだ。


「孤児院とかそういう施設はないの?」


 教会があるならそういう施設もありそうだと思って聞くと、ディオルドに苦笑される。わかっていないという顔をされた。

 ああ、そうかとわたしは納得する。


「そこから逃げてきた子供って意味ね?」


 察した。

 全ての孤児院がそういうわけではないのだろうが、劣悪な環境であるところも少なくないのだろう。こざかしい人間が集るのはいつだって弱者のところだ。着服や暴力などの温床に孤児院がなっている場合もあるのだろう。それに耐えきれず、逃げ出した子供は貧民街に集まるようだ。


「貧民街にいる子供を救おうと思ったら、まず、孤児院の経営を健全なものにしろってことね」


 わたしはため息を吐く。わかっていたが、予想以上に大変そうだ。


「さて、現状を理解した上で、話し合いを始めましょう。最初に言っておきますが、わたしは炊き出しをしたり衣料品を配ったりすることが救済だなんて思っていません。そういう付け焼き刃的なことでは誰も救えないから」


 わたしの言葉にキルヒアイズは困った顔をする。


「では、何をする気です?」


 問われた。


「とりあえず、貧民街を無くすことから始めましょうか」


 わたしはにっこり笑った。




乱暴な考え方です。^^;

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