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 侍女。

評価&ブクマ、ありがとうございます。

侍女たちの話を聞きます。




 5人の侍女の内、知った顔は2人だけだ。わたしがいない間に、3人の侍女が変わったらしい。


(これは多いの? それとも普通のことなの?)


 正解がわからないので、困る。

 とりあえず、侍女たちの話を聞くことにした。


「こういうのって、年配の侍女から呼ぶべきよね?」


 手伝ってくれているディオルドに問う。


「そうですね。その方が揉めないと思います」


 ディオルドは頷いた。


「では、上から順に呼んで」


 わたしは頼む。




 最初にやってきたのは50代くらいの女性だ。わたしがここに住んでいた時からいた人で、名前をルースという。いつも厳しくて、わたしは怒られた記憶しかない。だが実はわたしは彼女が嫌いではなかった。厳しいが、間違ったことは言わない人だと知っている。


「こんにちは、ルース。戻ってきてからゆっくり話すのは初めてね」


 わたしが気さくに声を掛けると、驚いた顔をされた。だがそれは一瞬で、直ぐに表情は普通に戻る。


「聖女様のお世話をする機会が減りましたので」


 話す時間がない理由を口にされた。


(これは嫌味なのかな。違うのかな?)


 わたしは思わず、考え込む。どちらとも取れる気がした。


「申し訳ありません。嫌味を言ったわけではありません」


 困っていると、本人に否定される。


「ごめんなさい。わたしが考えすぎたのね」


 わたしは苦笑した。


「ところで、みんなの前でも話した通り聖女の離宮の勤務体制が変わります。夜勤がなくなり日勤だけになることで、給料も減るし住む場所を探す必要も出て来ます。それでは都合が悪ければ、今まで通りの勤務体制の部署に配属を変えようと思っています。ルースは今まで通りの勤務体制と新しくなる勤務体制、どちらで働きたいですか?」


 回りくどい説明を一切排除し、わたしは直球で尋ねる。


「何故、勤務体制を変える必要があるのでしょう?」


 答える前に、ルースに質問された。


「ここの主であるわたしがここに住んでいないのに、夜間の勤務や休日勤務は必要がないからです」


 わたしは答える。


「しかし、離宮では備蓄のポーションを管理しています。離宮から休日や夜間に人がいなくなれば、盗難の恐れが出るのではありませんか?」


 ルースは質問を続けた。実は、聖女が不在の間も今までと変わらぬ体制を聖女の離宮が維持してきたのはその在庫管理が理由だ。無人には出来ないという主張は一瞬、理にかなっているように思える。だが、侍女が何人居ても盗賊には関係ないとわたしは思っていた。むしろ、被害者が出るだけだろう。


「それなんだけどね。万が一の場合、貴女たち侍女を犠牲にする今の防犯体制は見直したいの。むしろ、それが夜間勤務を廃止する一番の理由よ」


 わたしの言葉に、ルースは驚く。


「泥棒と鉢合わせても、貴女たちでは取り押さえることも出来ないでしょう? むしろ、居直られて殺されるだけだわ。それならいっそ、最初から侍女は置かない方がいいと思わない?」


 問いかける。


「それに、一応ここは王宮の中よ。そう易々と侵入は出来ないと思うのよね」


 王宮に賊が侵入したら大問題だ。警備は堅い。


「経費削減のためではないのですか?」


 ルースは真面目な顔で聞いてきた。けっこう本気でそう思われているのがわかる。


(ケチだって思われているのか、わたし)


 心の中で苦笑した。だが、今までは見逃されてきた横領に関しても手を入れたのはわたしだ。傍から見ると金に煩く見えるのかもしれない。


(まあ、否定はしないけどね)


 無駄な経費は確かに嫌いだ。


「経費削減は結果論よ。最初は勤務体制を改善したかったのと、防犯体制を見直したかっただけ」


 正直に話す。


「そうでしたか」


 ルースはわりとあっさり、納得してくれた。


「簡単に信じてくれるのね」


 今度はわたしの方が意外に思う。


「アヤ様は変わった方ですが、嘘をつくのは嫌いな方だと思いますので……」


 ルースは答えた。

 わたしは笑うしかない。


「それで、ルースはどうしたいの?」


 わたしは問うた。


「それは、わたしの要望は通るということですか?」


 ルースは確認する。


「いいえ」


 わたしは首を横に振った。残念ながら、違う。


「要望は参考にするために聞いているだけよ。最終的にはわたしが決めます。ただし、転属することに決まったら、異動先の希望は出来るだけ叶えたいと思っています。わたしにどこまで出来るかわからないけれど」


 はっきり告げた。5人の侍女には上下関係がある。下の人間が上の人間に忖度する可能性は十分にあった。だから、侍女に関してはわたしが自分の一存で決めることにしている。恨むなら、わたしを恨めばいい。侍女たちの関係がぎくしゃくするのは避けたかった。


「聖女様は変わっていてもやはり聖女様なんですね」


 ルースはそんなことを言う。


「それ、褒め言葉に聞こえないわ」


 わたしは苦笑する。

 ルースはただ笑った。


「わたしは可能なら、このまま聖女の離宮で働きたいです」


 囁くようにそう口にする。


「その場合、住む場所を確保しなければいけないわけだけど、大丈夫かしら?」


 わたしは心配する。長年、離宮で働いていたということは、住む家はここだったはずだ。


「実家で母が1人で暮らしていますので、都合がいいです。夜や休日は母と居られるなら、助かります」


 思いもしないことを言われる。人にはいろいろ事情があるんだなと思った。聞いてみないとわからない。


「わかった。参考にするわ」


 わたしは約束する。

 そしてその後も順番に侍女たちを呼んで話を聞いた。




みんないろいろあります。

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