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 名簿

評価&ブクマ、ありがとうございます。

やることはさっと終わらせたいタイプです。




 キルヒアイズに面会を申し込んだのは朝のことだった。

 離宮に出勤し、侍女に申請を頼む。相手は王族だ。会うには手続きが必要になる。

 王族との面会は直ぐに可能とは限らなかった。わたしとしては二~三日待つくらいの気持ちでいる。しかし返事はすぐにやってきた。午後のお茶の時間に会うことになる。自分が出向くつもりでいたのに、キルヒアイズの方から来てくれることになった。


「いろいろ気を遣わせているのかしら?」


 気遣われていることを気にしたら、ポーション作りを手伝ってくれている侍女の1人がふっと笑う。


「聖女様の方が殿下より立場が上なんですよ」


 そう言われた。


「え?」


 わたしは戸惑う。


「聖女様はこの国にとって、陛下と並ぶ存在なのです」


 その言葉に、力が発現した後に国王と同等だと言われたことを思い出した。そしてそう話す侍女の目がなんだかキラキラしていることに気づく。

 崇められているのを感じるが、そういう扱いはあまり得意ではない。


(そういう自分たちより上位に位置づけられる存在を、異世界からの召喚者であるという理由だけで受け入れなければいけないのは貴族的には複雑でしょうね)


 反発を受ける理由が少し理解できる気がした。不平不満はきっと、今までもあったのだろう。しかし今までは自分たちと見た目が同じだから反発する理由が見つけられなかったのだ。不平不満は心の奥に押し込めて隠していたのかもしれない。だがそこに、明らかに人種が違うわたしが現われた。今までの不満がそれで爆発してもおかしくない。だが、こっちだって呼んで欲しかった訳ではない。呼んでおいて、勝手な話だ。


(何度考えても、わたしが彼らを許す理由は何もないわよね)


 改めて、そう思う。


「偉いと言われても、わたしがしているのはポーション作りだし、事務仕事だし。偉くなった実感は全く無いわ」


 苦く笑うと、侍女も苦笑した。


「事務仕事を聖女様がするというのは初めて聞きました」


 そんなことを言われる。


(まあ、そうでしょうね)


 心の中で相槌を打つ。だが、性格だから仕方ない。わたしは昔から人任せが苦手だ。自分が把握していないと不安で仕方ない。


「偉そうにしたいわけでは無いから、今のままでいいわ」


 そう呟いたわたしに、侍女はただ笑っていた。






 約束の時間に少し遅れてキルヒアイズはやってきた。忙しい中、無理をして時間を作ってくれたのかもしれない。サイモンも一緒だ。


「遅くなってすみません」


 聖女であるわたしを立てて、キルヒアイズは謝罪する。


「こちらこそ、時間を作って貰ってごめんなさい」


 わたしも謝った。

 とりあえず、2人に席を勧める。暫く世間話をしながらお茶を飲んだ。侍女が席を外してから、ところでと話を切り出す。

 聖女の離宮の体制を変えたいと伝えた。


「具体的に、何をしたいのですか?」


 善し悪しを答える前に、キルヒアイズは問う。


「ここで生活していないわたしに、多くの侍女は必要ありません。それに、通いのわたしのために夜間も侍女が離宮に留まる必要があるとも思えません」


 わたしは考えを伝えた。


「つまり、侍女の人数を減らして、夜間の泊まり込みを無くしたいってことですね?」


 キルヒアイズに確認される。


「そうです。それともう一つ、本意では無くここで働いている人たちを本城に戻してあげたいと思っています」


 わたしはそう続けた。


「どういう意味です?」


 キルヒアイズは首を傾げる。しかし、サイモンの方はわたしが何を言いたいのか理解しているようだ。ただ苦く笑う。


「聖女の離宮はエリートコースから外れた左遷場所らしいです」


 わたしが告げるとキルヒアイズは驚いた。


「そうなのか?」


 サイモンに確認する。


「そう言えなくもないです」


 サイモンは肯定した。


「昔は、聖女の離宮は聖女を信奉する人が希望して働く場所だったと聞いています。ですがいつからか、一度飛ばされると戻ってこられない場所になったようです」


 説明する。


「わたしは本城に戻りたい人を本人の意思を尊重して戻したいと考えています。例え、聖女の離宮がそれによって人手不足になるとしても、構いません。ですが、それはわたしの一存ではもちろん出来ません。そこでキルヒアイズ様の力を借りたいのです。戻りたい使用人達の受け入れをお願い出来ませんか?」


 わたしは頼んだ。


「それで、本当に困りませんか?」


 キルヒアイズは聞く。


「困るような何かがあるのでしょうか?」


 逆にわたしは質問した。キルヒアイズが何を心配しているのか、わからない。


「例えば夜勤や泊まりを廃止した場合、ポーションの在庫の管理はどうなりますか? 夜間の警備がいなくなって困りませんか?」


 キルヒアイズの問いかけに、わたしはしばし考える。


「確かに在庫の警備という点では、離宮には常時人がいた方が良いかもしれません。でも、果たして侍女が警備の役に立つでしょうか? そして強盗などと鉢合わせた場合、侍女たちの命は助かりますか?」


 その質問に、キルヒアイズは黙った。もちろん助かる訳がない。殺されるのは目に見えていた。わたしはますます、離宮に侍女たちを泊めるわけにはいかないと思う。


「わたしは犠牲にするために、離宮に人を残すつもりはありません。ポーションの在庫の警備に関しては、別の方法を考えます」


 そう伝えた。


「なるほど」


 キルヒアイズは頷く。


「では具体的に、誰が本城に戻りたいのか、名簿をつくってください。話はそれからにしましょう」


 もっともなことを言った。人数もわからず、返事が出来るわけがない。


「それは、名簿をつくったらなんとかしてくれるという意味ですか?」


 わたしは確認する。


「具体的な人数がわかってから、その話はしましょう」


 キルヒアイズは安請け合いはしなかった。だがその方が信じられる。


「わかりました。まず、名簿を作ります」


 わたしは約束した。




人事は簡単ではありません。

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