改革。
評価&ブクマ、ありがとうございます。
アヤは普通に恥ずかしいのです。
聖女の離宮を管理してわかったことは、このままではいけないということだった。
「働きがいのある職場って、どういう職場かしら?」
真顔で尋ねたわたしにアインスは渋い顔をする。
「それは今、この状況でする話?」
不機嫌に問われた。わたしははっと、今の状況を思い出す。
仕事を終えて離宮から帰り、3人で夕食を取った。ジェイスを寝かしつけた後、2人で寝室に移動する。2人で少しワインを飲んだ。ジェイスの一日の様子を報告する。離宮の件は話すかどうか迷って、口にはしなかった。そしてほろ酔い気分でベッドに移動したのは少し前のことになる。
横になったら、アインスが上から覆い被さってきた。
子作りを頑張ることをわたしに宣言した後、アインスは本当に真面目に頑張っている。
そこまでして子供が欲しいのか、それとも行為そのものに嵌まったのか。どちらなのかよくわからないが、アインスがノリノリなのはわかった。どちらか追求するほど、わたしも無粋では無い。
仲が良いことはいいことだと、現状を受け入れることにしていた。だが内心では毎日するということに慣れなくてちょっと引いているのは内緒だ。妙に恥ずかしくて、つい、他のことを考えて恥ずかしさを誤魔化してしまう。
今日はそれが職場の改革についてだった。考えている内に、そっちに意識が集中してしまう。
気づいたら、質問が口をついて出ていた。
「あー……。後でいいです」
わたしは引き下がる。自分が間違っているのはわかっていた。反省もする。
「……はあ」
アインスはため息を漏らした。
わたしはびくっと身体を震わす。申し訳なく思った。さすがに叱られるかもしれないと覚悟する。
だが、アインスはこの状況でも優しい。
「いいよ。先にこの話を終わらせよう」
そう言うと、覆い被さっていたわたしの上から降りた。わたしと並んで仰向けに横たわる。
わたしはさすがに罪悪感を覚えた。そっとアインスの手を握る。
「何?」
アインスが驚いた顔をした。
「なんとなく」
わたしは苦く笑う。
「その気が無いということではないの。ただ、気になることは頭から離れないタイプで……」
言い訳した。
「知っているよ」
アインスも苦く笑った。
「だから先に、気がかりを解決しよう」
握った手を握り返してくれる。
「それで、何がそんなに気になっているの?」
優しく聞いてくれた。
(いい人過ぎる)
わたしは心の中で、感動する。王子が選んでくれた相手がアインスで良かったと、今さら感謝した。
「実は……」
わたしは聖女の離宮の現状を話す。それはアインスも初耳だったようだ。横領の件はもちろんだが、離宮の使用人の話も知らなかったらしい。貴族は使用人の待遇なんて、気にしないのかもしれない。
「そんなことになっていたのか」
アインスは聖女の離宮が問題を抱えていることに驚いた。今まで、聖女の離宮で問題が起きたなんて報告は聞いたことがない。あそこはどこか別世界のように感じていた。だが、話を聞くと他と同じようにどころか、もっとドロドロした感じがする。
「この国の人って聖女を崇め奉るので、聖女に対してはもっと真摯に対応しているのだと思っていました」
わたしは正直な感想を告げる。大切だという割に、扱いはそれほどいいとは思えなかった。いろんなことがちぐはぐに感じる。
「存在は崇めるけど、それが自分の生活に絡むとなるとまたいろいろと違うのかもな」
アインスは自分の考えを口にした。わたしもそれに同意する。
「てっきり、聖女の離宮で働くというのは名誉なことで。聖女の役に立ちたいと望んでいる人が働いているのかと思っていました」
誤解していたことを話した。まさか、左遷場所だとは思わなかった。
「望んで聖女の離宮で働いているわけではないなら、本城の仕事かせめて他の離宮の仕事に戻してあげたい」
自分の意見を口にする。
「それでいいのか?」
アインスは心配した。
「ダメなの?」
逆にわたしは聞く。何を心配されているのか、わからなかった。
「それで人が足りなくなったら、困らないか?」
アインスに問われる。
(なるほど、そういう意味ね)
わたしは納得した。
「うーん……」
少し考え込む。だが、困ることが思い浮かばなかった。
「たぶん、困らない」
そう答える。
「わたしは離宮に住んでいないから、正直に言うとあんなに侍女はいらないの。やってもらう仕事がないから。侍女たちが離宮に泊まり込んでいるのも、出来るなら止めさせたいと思っている。主がいない離宮に泊まる理由なんて無いと思わない? でももしかしたら、今さら帰る家がない侍女もいるかもしれない。そう思うから簡単には踏み切れなかったの。でも、そういう事情がある侍女は他の離宮に移動して貰えばいいのかもね」
話ながら、なんとなく改革の形が見えてきた。
「でもそれはまず、王子に相談してくれ」
1人で先走りそうなわたしをアインスが心配する。
「もちろん」
わたしは頷いた。
「他の部署に異動して貰うにしろ、その根回しは必要だもの」
にこやかに答える。
「そういう意味では無かったが。まあ、相談する理由なんて何でもいいか」
アインスはちっょと面倒そうに、結論を出した。
「じゃあ、そういうことでこの話は終わりでいいか?」
アインスは尋ねる。
それがどういう意味かわかるから、わたしは顔をちょっと赤くする。
アインスは無言で、改めてわたしの上に覆い被さってきた。
アインス、いい人。><




