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 家族 3

評価&ブクマ、ありがとうございます。

話したのはあの人達です。





 その後のジェイスはいつも通りだった。

 レティアのことには特に触れないし、わたしもアインスも口にしない。

 3歳のジェイスがどこまで理解しているのか、わたしにもアインスにもよくわからなかった。確かめるのもなんだか怖い。

 伝えるだけは伝えたので、とりあえずよしとすることにした。


 ずっと3人で過ごし、わたしとアインスを独占したジェイスは終始ご機嫌だ。

 はしゃぎ疲れたのか、夕食を食べている途中で寝落ちしてしまう。

 そんな姿が微笑ましくて、わたしとアインスは笑顔で互いを見た。

 使用人達も微笑んでいる。


「部屋に連れて行って、ベッドに寝かしてあげて」


 わたしは頼んだ。食事の途中なので、自分は立てない。


「かしこまりました」


 アンナはそう言うと、侍女に指示する。

 寝ているジェイスはそっと抱えられ、運ばれていった。

 わたしとアインスはそれを見送る。

 にこにこ笑っていたが、わたしの笑顔は途中でひくついた。

 わたしにはずっと昼間から引っかかっていることがある。アインスはどうかわからないが、わたしはあることが気になっていた。






 食後のお茶を飲みながら、執事長のセオールとメイド長のアンナを呼ぶ。

 2人は何かあると察したのか、人払いをしてくれた。


「どうかしましたか?」


 問いかけたのは白髪のセオールだ。渋いロマンスグレーのおじいさんは妙に威厳がある。


「実は聞きたいことがあるの」


 わたしは口を開いた。

 ジェイスがレティアのことを漠然と知っていたようだと伝える。


「まさか」


 セオールは否定した。


「禁じてはいませんが、この屋敷にレティア様のことを口にする者はほとんどおりません」


 首を横に振る。

 レティアは自分の侍女を連れてきていたので、屋敷の侍女はほとんどレティアとは接点がなかった。話題に出るような思い出もないらしい。


「まして、ジェイス様の前で話すなど……」


 ありえないと言いながら、万が一それが事実なら、厳重に対処しなければならないともセオールは考えているようだ。とても厳しい顔をしている。


 そんないつになく饒舌なセオールと対照的に、アンナは不自然に黙っていた。


「アンナ?」


 まさかと思いながら、呼びかける。


「あの……。確証はないのですが……」


 アンナはとても言いにくそうに口を開いた。迷う顔をする。


「もしかしたら、レティア様のことをジェイス様に話したのはこの屋敷の者ではなく、キャピタル夫妻かもしれません」


 思いもしなかったことを告げられた。


「えっ?」


 わたしは戸惑う。知っていたのかと確認するように、アインスを見た。

 アインスは首を横に振る。黙ったまま、口を不愉快そうに曲げた。




 月に一度、昼間の数時間。

 ジェイスはキャピタル家で過ごす。それは出産で娘を亡くした夫妻からの要望だ。せめて月に一度でいいから孫に会いたいと言われて、わたしはそれを受け入れる。継母として、拒否は出来なかった。ジェイスにとっては、彼らは実の祖父母だ。親交は断つべきでは無いだろう。

 昼間の数時間だし、キャピタル家は隣だ。お茶の時間くらいならと承諾する。

 送り迎えはアンナに頼んだ。わたしの顔は見たくないようなので、自主的に遠慮する。それでもたまにジェイスが嫌がり、わたしから離れない時があった。

 そういう場合は、気まずい思いをしながらもわたしも同席する。

 ここ数ヶ月は、ジェイスが駄々を捏ねることもなかった。アンナに送られてジェイスはキャピタル家を訪れている。


「先日、迎えに行った時にジェイス様を連れて夫人が出て来た部屋がレティア様のお部屋だったのです」


 アンナはなんとも微妙な顔をした。

 レティアは里帰り出産し、実家の自分の部屋でジェイスを産んだ。それでアンナはレティアの部屋がどこなのかたまたま知っている。だが普通は、他家のメイドがその家の令嬢の部屋がどこかなんて知るわけがない。だからきっと、キャピタル夫人はアンナがそこがレティアの部屋だと知っているとは思っていないだろう。


「ただそれだけで、何の確証もないのですが……」


 アンナは気まずい顔をする。

 だが、気持ちはわかった。レティアの部屋がどんな部屋なのか、訪れたことのないわたしにはわからない。絵の一枚くらい飾ってあっても不思議ではないだろう。そうでないとしても、部屋の主について何かしらを話したと考えるのが妥当だとわたしも思う。そうでなければ、何故その部屋にいたのかがまず疑問だ。


「勝手なことを」


 アインスは怒る。


「そうね。勝手ね」


 わたしは頷いた。

 レティアのことはとてもデリケートな問題だ。親であるわたしたちが頭を悩ませ、いつどういう形で伝えるか悩んでいたのに、勝手なことはしないで欲しい。

 わたしたちの悩んだ時間は何なのかと、腹も立った。


 しかし同時に、話したことを責める権利がわたしにはないこともわかっている。

 娘の思い出話をした彼らを咎めることが出来るはずもなかった。


「今後、ジェイスを夫妻には会わせない」


 アインスは憤りのまま、そう口にする。


「待って」


 それをわたしは止めた。


「孫しか残っていないのに、ジェイスを取り上げるのはさすがに可哀想だわ。思い詰めて、暴走されても困るし」


 アインスを宥める。


「じゃあ、許せと言うのか?」


 アインスは声を荒げた。


「いいえ。このまま放置は出来ない。彼らがどんな話をするのか、わからないから」


 わたしは首を横に振る。自分たちに都合のいい話を都合のいいように吹き込まれてはたまらない。勝手なことはするなと釘を刺しておく必要は感じた。


「わたしたちがジェイスに話をしたことを、アインス様が夫妻に説明に行くのはどうかしら?」


 わたしは提案する。にっこり笑ったら、アインスだけで無くセオールにもアンナにも引かれた。


「何を考えている?」


 アインスが怯えた顔で問う。


「ふふっ」


 面白かったので、答えずにわたしはただ笑ってみせた。




そこに悪意があるとかないとか、関係ない。

勝手なことをされると親として困ります。

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