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 家族1

評価&ブクマ、ありがとうございます。

時間があるときにゆっくり話す予定なのです。





 その日は休みで、朝から、わたしとアインスとジェイスはずっと3人で過ごした。取り立てて何かをするわけではない。どこかに出かけるわけでもない。ソファに座って、とりとめのない話をするだけだ。だがそんななんでもない時間がわたしには幸せに思える。アインスやジェイスもそう思ってくれたらいいなと願った。

 わたしがたくさん話かけて育てたからか、ジェイスはおしゃべり好きな明るい子に育っている。わたしの話に一生懸命相槌を打ったり、わたしやアインスに何かを必死に話してくれたりした。会話の半分くらいは意味不明だったりするが、本人にはちゃんと意味があるらしい。必死に理解して貰おうとする姿はただただ可愛いかった。


(はあ……。こんな日常を送る日がくるなんてね)


 心の中で呟き、にんまりする。


 召喚される前のわたしは1人で生きていくことを決めていた。

 もっとも、実家で家族と一緒に暮らしていたので正確には1人では生きていない。それでも、いつか1人になることを覚悟していた。

 そういう人生が寂しいのかそうでもないのか、わたし自身にもわからない。

 ただわたしは自分は結婚に向いていないと思っていた。

 もっとも、わたしも別に最初から1人で生きていくと決めていた訳ではない。20代の前半は結婚しなければいけないのかもしれないという変な義務感を抱えていた。結婚に夢や希望を抱くタイプではなかったが、失望していたわけでもない。人並みに結婚して子供を産むんだろうなと漠然と思っていた。

 しかしある時、気づいてしまう。わたしは結婚という制度に向いていない。

 結婚というのはたぶん、自分の人生を半分相手にあげる代わりに、相手の人生を半分貰うことだ。お互いに半分、不自由な思いをして相手に合わせる。

 そんなのは無理だと思った。わたしにはやりたいことがたくさんあって、見た目よりアクティブにあちこち飛び回っている。その生活を手放すことは出来ないと思っていた。


(強制的に手放すはめになったけれど)


 心の中で苦笑する。

 そして全て無くしたわたしは今、絶対に無理だと思っていた結婚生活を送っている。自分の子では無いが、親にもなっていた。

 そしてこの生活を苦だと思ったことはない。


(家事全般をする必要が無いからなのか。それとも、愛があるからなのか……)


 わたしはじっとアインスを見た。


「アヤ?」


 視線に気づいて、アインスもこちらを見る。


「どうした?」


 問われた。


「ううん。何でも無い」


 わたしは否定する。

 愛とは何だろうと痛いことを考えてしまったのは口にしなかった。


「それより……」


 視線で、アインスを促す。


「そうだな」


 アインスは頷いた。気乗りしない返事をする。一度は覚悟を決めたが、アインスはそれでも迷っているようだ。

 その気持ちはわたしにも理解できる。だが、関係の無い第三者の口からジェイスが真実を知ってしまう方がわたしは怖かった。

 話すなら、わたしたちの口から真実を伝えたい。


「ジェイス、おいで」


 アインスはそう言うと、ジェイスを抱上げた。

 基本、ジェイスはわたしにべったりだ。たいてい、わたしの隣にいる。抱っこも求めてくるのはわたしに対してだ。アインスはあまりジェイスを抱っこしたことがない。

 そのせいか、抱かれる方も抱いた方もどこかぎこちなかった。

 それを見て、わたしはふっと笑う。


「何故、笑うんだ?」


 アインスが拗ねた顔でわたしを見た。バカにされたと感じたらしい。


「微笑ましいなと思っただけですよ」


 わたしはそっと、アインスの背中に手を添えた。






 わたしたちが向かったのは、以前、わたしの寝室だった西棟の端の部屋だ。アインスと寝室を一つにするようになってからは、寝室としてはつかっていない。だが物置としては利用していた。季節が違うドレスや宝飾品はこちらの部屋に置いている。

 その部屋の壁に、ずっとしまわれていたアインスとレティアの肖像画を飾ることにした。

 最初はジェイスの部屋に絵を飾ろうかと思った。母親の顔を見たい時もあるかもしれないと考える。だが、アインスに強硬に反対された。

 ジェイスにとって母親はわたしなので、絵の中にしかいない母親は必要無いと言われる。触れられて、抱きしめてくれる母親がいればそれでいいと言われた。

 その言葉に共感しないわけではない。そんな風に言ってもらえるのは嬉しくもあった。

 だが、納得は出来ない。

 必要か必要で無いかを決めるのはジェイスだ。わたし達が押しつけるのは間違っているだろう。

 そこで、ジェイスが見たくなれば見れる場所に絵を飾ることを提案した。今は物置のように使っているわたしの元・寝室に飾る。他の部屋と違い、他人の目に触れることは少ない場所だ。

 結婚式の後に見たその絵に、複雑な気持ちがまったくないと言えば嘘になる。わたしにとっては苦い思い出に繋がる絵だ。だが、レティアには恨む気持ちも何もない。絵がそこにあっても、気にならないだろうと思った。


 アインスに抱っこされて、ジェイスはご機嫌だ。どこに行くのだろうと、ワクワクしている様子が見える。

 期待させるのが、心苦しかった。


(胃が痛くなりそう)


 わたしはそっと、自分の腹を手でさする。

 それに気づいたお付きの侍女が何か言いたそうにしたが、言わせなかった。黙って、わたしは首を横に振る。

 その意図を察して、侍女は口を噤んだ。

 そんな侍女を扉の前に残して、3人だけでわたしたちは部屋に入る。

 この絵がわたしの部屋に飾られていることはみんな知っていた。絵を運び、飾ったのは使用人たちなのだから、ばれないわけがない。

 わたしとアインスが何かしようとしていることは使用人達にも伝わっていた。


使用人達もドキドキしているようです。

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