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 現実逃避。

評価&ブクマ、ありがとうございます。

意外とバカップルです。




 決意したものの、アインスにはまだ迷いがあるように見えた。


(迷って当然か)


 そうとも思う。


「まだ迷っているの?」


 寝室で、2人きりになったタイミングでわたしは声をかけた。それが何についてなのかは言葉にしなくても通じたらしい。

 アインスは黙って、小さく頷いた。


「アヤはなんでそんなに余裕なんだ?」


 むしろ、さばさばしているわたしの方がアインスには不思議らしい。訝しい顔をされた。


「余裕じゃ無いけど、どうせ直ぐにばれることでしょ?」


 わたしは苦く笑う。

 ジェイスはわたしにもアインスにも似ていない。そう遠くない未来、本人がそのことを自覚し、気にする日が来るだろう。自分は誰の子なんだと、疑いを持つに違いない。

 その時に、騙されたって思われるのが一番辛い。

 黙っているというのは、嘘をつくのと等しいと受け取られるだろう。


「結局、どのタイミングで伝えても傷つかないことはないと思うのよね」


 わたしの言葉に、アインスは眉をひそめた。渋い顔をする。


「だったら、早い段階で伝えて、それでも家族だと思って貰うしかなくない? 隠し通せるわけがなく、事実を変えることも出来ないんだから。覚悟を決めるしかないでしょ?」


 わたしは諭した。


「……」


 それでもアインスは迷いを捨てきれないらしい。


「それに、伝えるならわたしと貴方の子が出来る前の方がタイミング的にはよくない? 生まれた後からだと、ややこしいことになりそうな気がする」


 自分の子が出来たからボクはいらないんだとか言われたら、わたしは凹んで立ち直れない。

 そんな罵りを受ける未来はなんとしてでも回避したかった。

 わたしの言葉に、ぴくりとアインスは反応する。


「アヤ。もしかして……」


 目を輝かせたアインスの言葉をわたしは遮った。


「出来ていません」


 予想を否定する。


 わたしたちは寝室を一緒にしてから、寝室にこもる時間が多くなった。

 夫婦の寝室には、呼ばない限り使用人は入ってこない。誰にも邪魔されたくないときは寝室が一番だ。

 内緒で話をしたいときは寝室を選ぶ。

 そのせいで使用人達には生温かな目で見られていた。しかし、それには気づかないふりで無視する。


 貴族の生活にはプライバシーがない。

 常に人が側に居るのが当たり前で、世話して貰うのは普通のことだ。だが、誰かの気配が常に側にあることに、庶民のわたしは慣れない。生まれながらの貴族であるアインスはまったく気にしていなかったが、わたしにとってはかなりのストレスだ。


(頼むから1人にして!!)


 時々、そう叫びたくなる。

 寝室さえ、1人の時はプライベート空間ではなかった。世話をするために、侍女たちは勝手に入ってくる。

 それは善意なので咎めにくかった。彼女たちは仕事をしているだけだとわかっている。


 しかし、夫婦の寝室にはさすがに遠慮するようだ。邪魔をしては悪いと思うらしく、勝手に入ってくることはない。

 それはわたしの気持ちをかなり楽にしてくれた。

 その事に気づいて以来、わたしは1人になりたくなると寝室に行く。部屋でぐでぐでするわたしを見て、アインスは苦笑していた。

 だが、咎めることはしない。許容していた。

 優しい人なのだと、改めて思う。

 だが頻繁に寝室に入り浸ることには弊害があった。使用人達からは意味深な目を向けられることが多くなる。


(めちゃくちゃエッチが好きな人みたいに思われているんだろうな)


 そう考えると、気分はドナドナだ。売られていく子牛の気分を味わう。

 えっちをしたいから寝室に引きこもる訳では無いのだが、やることをやっていないわけでもない。

 アインスはやたらと跡を付けたがるので、わたしの身体にはあちこちにキスマークが残されていた。

 それもまた、『毎日お盛んね』と言いたげな眼差しに拍車をかける。

 実際、早く子供が欲しいアインスは毎日頑張るという言葉を有言実行していた。


(そんなところも真面目かよっ)


 心の中では突っ込むが、口に出して文句は言えない。


「そうか」


 否定され、アインスは目に見えてしゅんとした。がっかりと項垂れる。


(こういうところ、ずるくない?)


 わたしは心の中で毒づいた。アインスは自分の容姿が優れていることを絶対、自覚していると思う。そしてわたしがそんなアインスの見た目に弱々なことも知っているのだ。

 そうとしか思えないことが時々、ある。


「子供の件はほら、運を天にまかせるしかない話だから」


 落ち込まないでと宥めた。


「そうだね。私達は自分たちが出来ることを頑張ろう」


 アインスの手がわたしに伸びる。嫌らしく触れてきた。


(ん?)


 話の流れが変だなとわたしは気づく。だがその時にはもう、ベッドに押し倒されていた。

 首筋に顔を埋められ、舐められる。


「んっ」


 わたしは身を竦めた。


「……現実逃避、していません?」


 アインスの服を引っ張って、問う。


「いいや、全く」


 アインスは首を横に振った。


「ただ、弟が欲しいジェイスのお願いは叶えてあげたいよね」


 にっこり笑う。

 その顔がうっとりするくらい好みの顔で、ちょっと悔しくなった。

奥さんといちゃいちゃしたいわけです。

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