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 離宮の現状。

評価&ブクマ、ありがとうございます。

いろいろあります。




 聖女となったわたしのルーティンはびっくりするほど普通だ。

 決まった時間に起きて、アインスとジェイスと3人で朝食を食べる。その後、迎えに来た車に乗り、ジェイスと共に王宮に向かう。毎朝、律儀にアインスは見送りをしてくれた。


(別にいいのに)


 心の中ではそう思ったけれど、口には出さない。行って来ますのキスを強要されるので実はけっこう気まずかった。だがそれも言わない方がいいのはわかっている。共に見送ってくれる使用人達が気を遣って、見ないふりをしてくれるのがなおさらきつかった。

 結婚生活とは思いやりという名の我慢の連続なのだと、しみじみ思う。だがその我慢をしても、続けたいと思っている気持ちがわたしの中にはあった。それが召喚前とは大きく違っている。

 以前のわたしなら、そんな風に無理するくらいならいらないと切り捨てただろう。

 ここに来てから確実にわたしは変わっていた。それが愛だとしたら、なんともこそばゆい。


 離宮に着くと、ジェイスを乳母に預ける。放っておくと乳母はただ遊ばせるだけだということに、二日目に気づいた。乳母の仕事は子供が危なくないように監視することで、あれこれ世話を焼くのとは少し違うらしい。わたしは少々、誤解していたようだ。そういうものだと理解した上で、わたしはあえてその日その日の課題を出すことにする。ジェイスと取り組んで欲しいことを一日に一つ、提示した。それは一見、ジェイスへの課題のように見えるが実はそうではない。乳母への課題だ。例えばそれは色の名前を覚えることだったり、数字や文字を読めるようにすることだったりする。3歳児にはまだ早い気もしないでもないが、何もせずただ遊ばせるだけというのはわたしがすっきりしなかった。自分がジェイスにしてあげたかったことを頼む。

 予想外に、この課題方式は上手くいった。乳母も、ただ様子を見守るだけの仕事には困惑していたようだ。楽しげに、ジェイスと一緒に課題に取り組んでくれる。


 そうやって乳母にジェイスを預けている間、わたしは聖女の服に着替えて仕事をする。最初はポーション作りだ。わたしの仕事の7割はポーションを作ることだ。そして残りの3割は事務仕事が占める。

 最初は聖女が事務仕事をすることを驚いた。そういうイメージがない。召喚後に離宮で暮らしていた時には事務的なことは何一つ聞かれたことがなかきった。だが、それはわたしが離宮の仮の主だったかららしい。聖女となった今は離宮の主はわたしで、裁量権もわたしにあるらしい。離宮が行う全ての責任者は聖女であるわたしだ。


(重いっ)


 予想もしなかった責任にとても戸惑う。

 しかしよくよく話を聞くと、それはわたしに事務処理をしろということではなかった。事務仕事を誰に任せるかを決めろという意味だとわかる。

 そこで誰かに丸投げしてしまえば楽だっただろう。しかしわたしはそういう選択をしなかった。自分が最終的に責任を持つものなら、全部自分で把握しておきたい。わたしはそういう性格だ。自分でやるのが一番手っ取り早い。

 離宮の事務仕事はある意味、わかりやすい。日常生活に関わる諸々とポーションに関する諸々に二分される。

 その程度の事務仕事なら自力でやれると思った。

 離宮の運営費に関することはもちろん、仕入れた材料費からポーションの売り上げまで、全部を自分でチェックすることにする。

 そう話すと、明らかに動揺する使用人達が何人もいた。どうやら探られると痛い腹を持っている人は少なくないらしい。

 今まで通り、事務仕事は慣れている人間に一任したらどうかと進言された。

 目の前で怪しい反応をされても何も気づかないだろうと、侮られていることに驚く。


(どんだけ愚鈍だと思われているのだろう?)


 逆に知りたくなった。

 わたしは今後は事務仕事を1人で全部行うことを宣言する。同時に、過去5年に遡って、帳簿などの確認をすることも告げた。

 万が一、帳簿の紛失があった場合はそれに関わった関係者を一律処罰の対象にすることも付け加える。証拠を隠滅される前に手を打った。帳簿がありませんでしたなんて、逃げを許すつもりはない。


 離宮の中ではちょっとしたパニックが起こった。チェックが甘いことを見越して、着服している人はかなりの数に上るらしい。

 わたしはやれやれと心の中でため息を吐いた。

 そこで一つ救済措置を提案する。

 不忠を処罰するのは容易いが、離宮の人員がごっそり抜けるのはそれはそれで困った。

 着服したことを正直に打ち明け、それを分割でもいいから返還するなら、今回だけは不問にふすことを約束する。

 猶予期間は1週間とした。週末までに考えて、週明けには答えを出すようにと告げる。

 使用人達は動揺していた。

 その話はあっという間に王宮の中で噂になる。

 話を聞いたキルヒアイズは心配して、離宮に来てくれた。




長くなりそうなので分けました。

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