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 愛情<国王&王子side>

評価&ブクマ、ありがとうございます。

国王と王子視点になります。




 国王もキルヒアイズも、アヤがどんなお願いをしてくるのか、内心では戦々恐々としていた。

 召喚者のアヤにはこちらの常識はほぼ通用しない。発想が突飛で、2人にはアヤの行動が読めなかった。

 だから、アヤの願いが思ったよりずっとまともで簡単なものだったので、ほっとする。


「仕事のために離宮に通う時は、ジェイスを一緒に連れてきたいのです。聖女の離宮にジェイスの部屋を用意してください」


 少しばかり言いにくそうにそんなことを言うアヤに、キルヒアイズは苦笑した。


(アヤが今日やったことに比べれば、その程度のこと造作も無い)


 そう思う。それは父王も同じだったようだ。2人はちらりと目を互いを見合う。


「いいでしょう」


 国王は頷く。


「離宮に子供部屋を準備し、乳母も手配しましょう」


 約束した。

 その言葉を聞いてアヤは安堵する。


「良かった。わたしの留守中、屋敷に置いておくのが心配だったのです」


 そう言って微笑んだ。

 アヤが自分のやったことの重さをちゃんと理解していることに国王は気づく。

 アヤの力を見た貴族達は恐怖しただろう。それが畏怖に変わるならいい。敬う気持ちがあるなら、アヤを聖女と認めるだろう。だがたぶん、そう上手くはいかない。恐怖は排除に変わる可能性の方が高かった。怖いものを人は取り除きたくなる。アヤの立場はより厳しくなることが予想された。

 そして本人もそれを理解している。


「狙われると、思っているんですね?」


 確認するように国王は問うた。


「貴族達の神経を逆なでした自覚はあります」


 アヤは頷く。


「アインスは自分の身は自分で守れるでしょう。ですが、ジェイスはまだ子供です。わたしの側に置く方が安全だと思います」


 苦く笑った。

 狙うなら、子供の方が簡単だ。人質にとればアインスもアヤも手が出せない。そんなのは誰でも考えることだろう。


「わかっているなら、もっと穏便な手段をとればいいのに……」


 キルヒアイズはため息を吐く。


「穏便な手段を取ったつもりが、あれなんです」


 アヤは反論した。拗ねて頬を膨らませる。

 それを聞いたキルヒアイズは困った顔をした。

 アヤは悔しげにキルヒアイズを睨む。


 そんな2人のやり取りを面白そうに国王は眺めた。自分が思っているより、2人がずっと仲が良いことを知る。


「仲良しなんだな」


 国王は独り言のように呟いた。

 アヤはちらりとキルヒアイズを見る。


「そうですね」


 否定しなかった。

 肯定が返ってくるとは思わなかったので、キルヒアイズはちょっと驚く。


「恋愛感情は持てませんが、弟のように思っています」


 アヤは打ち明けた。

 キルヒアイズはアヤがそんな風に思っているなんて、知らなかった。


「え?」


 戸惑う。

 驚かれたことに、アヤの方も戸惑った顔をした。


「伝わっていないのですか?」


 そう聞いた。


「何をです?」


 キルヒアイズは困惑する。


「召喚されて半年、誰より側にいてくれたのはキルヒアイズ様です。弟のように、家族のように思っています」


 アヤは答えた。


「……知らなかった」


 キルヒアイズはなんとも微妙な顔をする。

 大切に思われていることを知って、嬉しくないわけではない。だが、それはキルヒアイズが望んだ形ではなかった。


「弟か……」


 苦く笑うしかない。


「不満ですか?」


 アヤは尋ねた。この世界に家族がいないアヤにとって、キルヒアイズはある意味、拠り所の一つだ。

 好きだと言われても応えられないが、情がないわけではない。大切な存在ではあった。

 自分が一番辛い時に側に居てくれたのがキルヒアイズであることは間違いない。だが親しくなりすぎて、異性としては見られなくなってしまった。

 その事実に、キルヒアイズも気づく。ある意味、納得がいった。


「……まあ、いい」


 そう呟く。


「それより、今後の日程を話し合いましょう」


 お披露目についてや聖女の離宮で仕事を開始する日などを決めた。






 話し合いを終えて、アヤは帰った。

 キルヒアイズは自宅まで送ろうとしたが、大丈夫だと断わられる。車に乗るまで見送って、自分は王の執務室に戻った。

 すでに机で事務仕事を始めていた国王は、ちらりと息子の顔を見る。


「無事に帰られたか?」


 問うた。


「はい。何事もなく、王宮を出ました」


 キルヒアイズは応える。


「力を見せつけられて、なお聖女に手を出そうとするほど愚かでは無くて良かった」


 国王は冷めた口調で呟いた。


「そうですね」


 キルヒアイズも同意する。


「それにしても、アヤを王族に取り込めなかったのは痛いな」


 国王は走らせていたペンを止めた。真っ直ぐ、キルヒアイズを見る。


「ええ」


 キルヒアイズは頷いた。


「親しくすれば好意を寄せてもらえると思ったのですが、アヤには逆効果だったんですね。まさか、弟のように思われていたとは……」


 ため息を吐く。

 自分に対するアヤの愛情をキルヒアイズは感じていた。だからこそ、可能性があると思っていた。だが愛情は愛情でも、それは種類が違っていたらしい。


「アインスは夫として愛せて、何故わたしは弟なのか」


 不満を口にする。年の差があると言うなら、それはアインスだって同じだ。


「出会い方の違いかもしれないな」


 国王は答える。


「どこで、わたしは間違えたのでしょう?」


 キルヒアイズは父王に問うた。

 そんな息子に国王は優しいまなざしを向けた。


「誰もきっと、間違っていない」


 首を横に振る。


「お前は王子としても男としても十分すぎるほどよくやっているよ」


 息子を労った。




人の気持ちは思い通りにはなりません。

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