会議 4
評価&ブクマ、ありがとうございます。
無駄に永くなりました。^^;
水晶を通して、わたしは話し合いの様子を見ていた。どういう魔法なのかはわからないが、発言者にクローズアップされる仕組みに感心する。
(こうやって王家は情報を集め、管理しているんだな)
その秘密をあっさりと教えてくれたことに少なからず、違和感を覚えた。おそらくこの事実はかなりの極秘事項だろう。ここにサイモンしかいないことがそれを物語っている。それを簡単に教えてくれるなんて、正直、思っていなかった。
誤魔化されることも想定していたのに、案内されてちょっと戸惑う。
(もはやわたしもこちら側の人間ということなのかな)
自分の抜き差しならない状況を理解して、ちょっと気が重くなった。
だがそんなわたしの気持ちには関係なく、話し合いはヒートアップしていく。ただし、それは話し合いのていなんてなしていなかった。ただそれぞれが自分の主張を口にしている。その意見はあまりにばらばらだ。
「……この人達の意見って、纏まるのことはあるのかしら?」
思わず、キルヒアイズに聞いてしまう。とても意思の統一がはかれるとは思えなかった。主張も考えもばらばらで、共通点を見つけようと考えることの方が無謀に思える。
「あったでしょう? アヤ様を聖女の座から引きずり下ろす時に」
皮肉たっぷりにそう言って、キルヒアイズは口の端を上げた。
「ああ……、確かに」
わたしは同意する。
「わたしを聖女にしたくないというただその一点で、この人達は繋がっていたのね」
納得した。
「面白いわね」
ぼそっと呟く。独り言だったのに、キルヒアイズにも聞こえたようだ。
「何がです?」
問われる。
「わたしの力を目にして、この人たちがどうするのか興味があるわ」
わたしはにこやかに微笑んだ。
キルヒアイズは呆れた顔をする。
サイモンは苦笑していた。
「性格が悪いのは自覚しているから、口にしなくても大丈夫よ」
言われる前に、自分から口にする。
「わたしは自分のことを聖女だなんて思ったことは一度もないし、それに相応しいと考えたこともないわ。無条件でみんなを救いたいなんてさらさら思わない。だって、無償の情けくらい重くて苦しいものはないのよ。一方的にそれを他者に与えるのはただの傲慢だと思う」
わたしの言葉に、サイモンが「ほう」と呟き、面白いという顔をした。
「その話、後で詳しく聞かせてください」
頼む。それぞれの発言をざっくりとメモっているサイモンはとても忙しそうに手を動かしていた。わたしの話を聞く暇なんて、ない。
「詳しく話して聞かせるほどの深い話ではないんだけど」
わたしは困った。だがそれ以上は口にせず、黙る。サイモンの邪魔をしたくなかった。
約束の時間が来るまで、水晶に映る不毛な話し合いをわたしたちはただ眺めていた。
時間になり、わたしは部屋に戻った。キルヒアイズが部屋まで同行してくれる。
ドアをノックし、開けてくれた。わたしは室内に入ると席に着いた。
「話し合いは終わりましたか?」
素知らぬ顔で貴族達を見る。終わっていないことなんて、知っていた。
「ええ」
穏やかに微笑んだのはエヴァンスだ。
その面の皮の厚さに感心する。
(あれを終わったと言うのか)
何も知らなければ、話し合いは本当に纏まったと思ってしまうような自信に満ちた顔をしていた。
「では、わたしは皆様に自分の力を証明してよろしいのですね?」
みんなに確認する。わたしが問いたいのは、そのただ一点だ。話し合いの結果を問うつもりなんて最初からない。そんなの、どうでも良かった。
「……どうぞ」
少し間が空く。貴族達は、ちらちらと互いの顔を確認し合っていた。
わたしはそれを了承と受け止める。
「では、皆様全員の了承を得て、力を行使します」
宣言すると両手を胸の前で握りしめた。
力の発動には詠唱も特別なポーズも必要無い。イメージすればわたしの力は発動するようだ。だが、わざと胸の前で手を組む。その方がそれっぽい気がした。
わたしの身体からぶわっと金色のキラキラしたモノが溢れた。
部屋の中がざわつく。それは動揺の方が多きかった。
金色のキラキラは部屋の中に広がる。部屋全部を包み込んだ。
その光景に貴族達は唖然とする。中には口をぽかんと開けている人もいた。あまりに驚いているので、わたしの方が戸惑う。
(わたしが力を使えるなんて、本当に思っていなかったのかしら?)
言いがかりをつけてきたと考えていたが、本当に信じていなかったのもしれない。もしかしたら、彼らに悪意は無かったのかもしれない。
(でも、もう遅い)
わたしは心の中で呟いた。もう力は発動させてしまった。今さら、止めることも引っ込めることもわたしには出来ない。
「うっ、うわっ」
そんな声があちこちから上がった。戸惑うその声はどこか悲鳴に近い。
「なんだ、これ? どういうことだ?」
パニックを起こしている人もいた。
貴族達の姿は目に見えて変化している。髪や爪、髭がどんどん伸びていた。総じてみんなむさ苦しくなる。
「お静かに。皆様の身体を5年分、成長させただけです。髪や髭、爪が伸びたので容姿に変化はありますが、体調は悪くないはずです」
わたしの言葉に、視線が集まった。
「むしろ調子が良くなっているはずですが、どうですか?」
問いかける。
「それは……」
返事に貴族達は困った。目に見えない変化は、実感し難い。
「わかりやすく、目に見える形でわたしの力を感じていただきました。自分が5歳、年老いた自覚はないとしても、髪や爪、髭が伸びたのを見れば歳月が過ぎたことを実感していただけると思います」
にこやかにわたしは微笑んだ。
部屋の中はしんと静まり返る。
彼らはわたしの怒りに、今、気づいたようだ。これが嫌がらせだと、察したのだろう。
「わ、わかりました。納得したので、元に戻してください」
末席の方で、誰かが声を上げた。
「無理です」
わたしはにこやかに答える。
「聖女の力を受けることが出来るのは、一生に一度きり。そう決まっているでしょう? 皆様方は今、その一回を使って、わたしが聖女であるかどうかを試したわけです」
説明するわたしに、何人かの貴族が青ざめた。
「そんな話は聞いていない」
そんなことを言い出す。
「いいえ、話しました。そして決断のための時間も差し上げました。最初に、承認を取りましたよね?」
わたしは貴族達を見回した。
あれがそうだとは思わなかった--そんな声が上がると、わたしは身構えていた。だが、そうはならない。
「……」
誰も何も言わなかった。重苦しい沈黙だけが部屋に満ちる。
不思議に思って1人1人を見ると、露骨に目を逸らされた。その身体は微かに震えている。
(そうか。わたしが怖いのか)
反論が返ってこない理由をわたしは理解した。簡単に人の時間を先に進められるわたしは畏怖の対象になったのだろう。
ある意味、賢い選択だ。怖いものには逆らわず、奉った方が害は無い。
「それに、行使した力は戻せません。力とはそんなに都合の良いものではありません」
わたしは説明した。
「伸びた髪も爪も通常通りに切って問題はありません。髭も普通に剃れます。それは自分で対処してください」
貴族達を見回す。
貴族達は何も言わなかった。
「それでは、そういうことで」
わたしは部屋を出て行こうとする。これ以上、ここにいても気まずいだけだ。とりあえず、彼らに釘は打てただろう。きっと二度とわたしに関わろうとしないに違いない。
「待ってください」
誰かがわたしを呼び止めた。面倒くさいと思いながら、わたしは振り返る。
「あなたは本当に聖女なのですか?」
質問された。
「質問の意図がよくわからないのですが、この力は普通の魔法ではありません。普通ではない魔法を使うのが聖女なら、わたしは聖女だと言うことになるのでしょうね」
答える。わたし自身は、自分が聖女でありたいなんて思っていない。勝手に好きなように呼べばいいと思った。例え、悪魔と呼ばれてもわたしはそれを受け入れる。
自分の力はそのくらい異質だと、行使したわたし自身も引いていた。
思った以上にあれでした。




