会議 3
評価&ブクマ、ありがとうございます。
もちろん、会話は聞いています。
わたしはさっさと部屋から出た。後ろ手にパタンとドアを閉める。
ここで待っていたら、キルヒアイズが迎えに来るだろう。今頃、彼は慌ててこちらに向かっているに違いない。
そんなことを考えていたら、本当に姿を現わした。珍しく1人だ。いつも一緒にいるサイモンも、護衛も連れていない。
(やっぱり)
心の中でそう呟いた。
キルヒアイズと目が合う。わたしはニヤリと笑った。
「1時間ほど、相談する時間を与えることにしました。その間、わたしは休憩します。あなたが今まで居た場所へ連れて行ってください」
わたしの言葉に、キルヒアイズの手がピクッと震える。わたしはそれを見逃さなかった。
「話は聞いていたのでしょう?」
問いかける。
「どういう意味でしょう?」
キルヒアイズは惚けた。
「言葉のままですよ。わたしは別に責めている訳ではありません」
わたしは微笑む。盗聴器なのかそういう魔法があるのか、手段はわからない。だが、わたしたちの話し合いの内容をキルヒアイズは聞いているだろうと思った。それは国を守る王族として、ある意味、妥当な対応だろう。むしろ、わたしに丸投げでノータッチを決め込まれる方が困る。
物事には、結論よりその過程が大事なこともあった。誰が何を発言し、どういう流れでそう決まったのか、知っておくことはとても重要なことだ。
キルヒアイズは迷う顔をする。だが、決断したようだ。
「……こちらへ」
案内してくれる。
わたしは後をついて行った。
連れて行かれたのは思ったよりずっと近い部屋だ。曲がり角を曲がって直ぐにドアがある。キルヒアイズはそのドアを開けて、中に入った。
室内にいたのはサイモン1人だ。それは秘密を知る人間は少ない方がいいからだろう。護衛さえ、部屋にはいない。
サイモンは残って室内の話を聞いていたようだ。
部屋の中には水晶のような透明で丸いものがあった。わたしの両手で包んでも余るくらい大きい。そこに映像が映し出されていた。
(魔法の類いの方なのか)
ちょっとワクワクする。
話し合う姿が見え、声が聞こえた。思ったより、相談はヒートアップしている。だが、その内容はわたしの予想とは少し違った。
彼らは力を見せられた後にわたしのことを承認するのかしないのかを話し合っている。
(あれ?)
わたしは小さく首を傾げた。
(思っていたのと違う)
心の中で苦笑する。わたしとしては、力を見せてもらうかどうかを話し合うのだと思っていた。だが、この話し合いは違う。力を見せてもらうことを前提として、その後にどう対応するのかの相談になっていた。
「この人達、わたしに力を見せて貰うことに関しての迷いとかないのかしら?」
わたしはサイモンに聞く。
「あー……」
サイモンは苦く笑った。
「そういう議題はありませんでしたね」
答える。
「……そう」
わたしはただ頷いた。
「どうかしました?」
キルヒアイズに問われる。
「いえ、別に」
わたしは首を横に振る。
警戒心が薄いと思ったなんて、口に出来るわけがなかった。力を見せてもらうということがどういうことなのか、彼らはわかっていないのだろうか?
疑問に思ったが、気づかないならそれはそれでいい。わざわざ教えてやるつもりはさらさらなかった。
「それにしても、力を見てもなお認めないって。どういう理由で認めないことを正当化するつもりなのかしら?」
わたしはキルヒアイズを見る。
「さあ?」
キルヒアイズも首を傾げた。
「まあ、屁理屈だけは一流なので」
答える言葉に棘がある。というか、むしろ棘しか無い。
(いろいろあるんだろうな)
王族というのはなかなか大変らしい。
それは離宮にいた時、キルヒアイズの愚痴をけっこう聞いてあげていたので知っていた。王家の力は貴族に比べたら、当然、強い。だが、絶対的かというとそうは言えない。
貴族に結束され、反乱でも起こされたら厄介だ。鎮圧は可能かもしれないが、被害は甚大だろう。
それがわかっているから、貴族達はけっこう強気に出る。自分たちの意見を無視できないことを知っていた。
中でも、聖女の血を引く貴族達は何かと口うるさいらしい。
(偉くなるというのは厄介事を引き受けると言うことでもあるのね)
そう考えると、キルヒアイズには同情が湧いてきた。
「人の上に立つって、大変なことね」
ため息を吐くと、キルヒアイズが苦笑する。
「どうして、他人事みたいな言い方なんですか?」
問われた。
「だって、他人事だもの」
わたしは答える。
「いいえ。すでに聖女様はこっち側の人間ですよ」
真顔で、キルヒアイズに見つめられた。嫌みったらしく聖女と呼ばれる。
「えー……」
わたしは嫌な顔をした。
「聖女になんてなりたくないのに、こうやってわざわざ説得に来ている自分の人の良さにはため息が出る」
わざとらしく、大きなため息を吐く。
「説得のために来たんですか?」
キルヒアイズは疑った。真っ直ぐに見つめてくる目をわたしも見つめ返す。
「他にどんな目的が?」
にこやかに問うた。
「いえ、別に」
キルヒアイズは答えない。
(まあ、バレているよね)
わたしは心の中で呟いた。
もちろん、説得のために来たわけではない。正直、彼らに認められても認められなくても、そんなのどっちだって良かった。わたしは困らない。ただ今後、わたしの家族に手を出すようなことがないように、釘は刺しておかなければいけないと思った。そのために、今日は足を運ぶ。
聖女に逆らったら怖いと思って貰わなければ困る。
力を力で押さえつけるのは愚かなことだとわかっているが、悠長に説得している余裕なんて、わたしにはなかった。
聖女らしさなんて持ち合わせはないのです。




