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 企み。

評価&ブクマ、ありがとうございます。

使用人と顔を合わせるのが気まずいのです。





 朝食の席でアインスはとてもご機嫌だった。

 終始にこにことわたしを見ている。


(居たたまれない)


 わたしは苦く笑うしか無かった。


(お願い。もう少し隠して)


 心の中で悲鳴を上げる。

 視線を感じてそちらを見ると、使用人たちに目を反らされた。彼らの眼差しが生暖かいのは気のせいだと思いたい。誰も何も言わないのが余計に気まずかった。


(いや、何か言われてもそれはそれで気まずいんだけど)


 心の中で呟く。

 だがそんなことでオタオタしていられたのは朝だけだった。昼前に、キルヒアイズがやって来る。


 今度は護衛騎士をぞろぞろと引き連れてはいなかった。側近であるサイモンを従え、護衛は外出時は常に同行している一人だけを連れている。


(昨日の今日で暇なのかしら?)


 そう思ったが、もちろん、そんなことはない。聖女関連はそれだけ優先事項ということなのだろう。

 アインスは書斎に彼らを通した。

 わたしもその場に同席する。ソファに座って向かい合った。


「今日はどうしたのですか?」


 わたしに話があると言うので、問う。


「今後の予定を調整しに来ました」


 キルヒアイズは答えた。そういえば、今後の予定は何も聞いていないことに気づいた。

 自分の条件が通って、わたしはだいぶ浮かれていたらしい。妊娠云々という嘘をつかずにすんだことにもほっとしていた。


「聖女様を迎えるための準備がありますので、離宮に出勤なさるのは一週間後くらいからで構いません。聖女の任命式や国民へのお披露目などは離宮に出勤なさるようになってから相談しましょう」


 静かな口調で、予定を伝えられる。


「そうですか」


 わたしは頷いた。別に不満はない。直ぐにでも離宮に通って欲しいと言われるかと思っていたので、予定外に余裕があって驚いた。聖女が不在な期間は短ければ短いほどいいはずだが、今さら一週間くらいでは変わりがないのだろう。

 だが違和感も覚えた。


(わたしを迎える準備って具体的に何?)


 首を捻る。

 聖女の離宮は聖女しか使えない。だから聖女がいない時は離宮は閉じられた。しかし掃除は週一で行うし、庭の手入れも継続して行われているはずだ。一週間も準備にかかるようなことは何もない。

 半年ほど住んでいたのでそのことはよく知っていた。

 一週間という期間には何か別の理由があるのだろうと勘ぐる。


「それで、わたしに王宮に来て欲しくない本当の理由は何ですか?」


 さらっと問いかけた。

 ぴくりと一瞬、キルヒアイズの身体が反応する。


「何のことですか?」


 誤魔化した。しかし、もう遅い。


「隠し事は止めてください。この一週間は何のための時間ですか?」


 にっこりとわたしは微笑んだ。


「……」


 キルヒアイズは困る。


「わたしのことをわたしに隠すのは止めてください。知っていた方が対処出来ます」


 わたしはさらに言い募った。知らない方がいろいろと厄介だ。問題があるなら、きちんと教えて欲しい。


「誤魔化されてはくれませんか」


 やはりと、キルヒアイズはため息を吐いた。覚悟を決めた顔をする。話してくれる気になったようだ。


「一度聖女ではないという烙印を押した以上、それを撤回しなければなりません。しかし、それは簡単なことではないのです」


 なんとも気まずそうに説明する。

 王制だと言っても、絶対的な権力者ではない。貴族の意見を無視は出来なかった。


「なるほど。わたしに烙印を押した連中が、いろいろとうるさいのですね」


 わたしは納得する。

 力を発現したといったところで、それを証明する術はない。言葉だけなら何とでも言えると、ごねているのだろう。簡単には信じないに違いない。その程度のことで簡単に納得するなら、初めから聖女ではないという烙印を押そうなんて考えない。彼らはわたしが聖女であることを受け入れられないのだ。


(わたしだって、別になりたくて聖女になったわけではないけれど)


 心の中で愚痴る。


 彼らがただわたしが聖女ではないと騒ぐだけなら、気にしない。誰かに認めてもらいたくて、聖女になるわけではない。彼らに認められなくても、わたしは平気だ。

 だが、彼らはわたしやわたしの周りにいる人間に害をなすかもしれない。ジェイスに毒を打ち込んだ犯人が彼らの中にいるなら、わたしは絶対に許せない。二度と、わたしにケンカを売らないように完膚なきまでに叩きのめしたい。


(問題は、ありあまるほどある聖女の力が、人を害することには向かないってことよね)


 どうすれば彼らに恐怖を植え付けることが出来るのか、考えなければならない。

 そんなとうてい聖女とは思えないことをわたしは考えていた。

 ある意味、彼らの『聖女ではない』という意見は正しい。


「……その通りです」


 不本意そうにキルヒアイズは認めた。その程度のことを簡単に対処出来ないのは、自分の無能さを示すようで嫌なのだろう。とても気まずい顔をした。

 だがそれはキルヒアイズが悪いのではない。人は見たいものしか見ないし、信じたいことしか信じない。信じたくない人間に信じさせるのは至難の業だ。


「この数日、王宮では話し合いが行われることになっています。アヤ様にはいい感情を持たない輩もいますので、アヤ様は王宮にいない方が安全だろうということになりました」


 キルヒアイズは聖女であるわたしに敬称をつける。今までとは一線を画した。

 わたしの安全を気遣ってくれるのはとてもありがたいが、逆にチャンスだと思う。


「陛下にお願いしていた件、ちょうどいいのでその時にお願いします。わたしが聖女であることに反対する人たちが集まるのですよね?」


 直接、自分で話すとわたしは告げた。

 その言葉にはキルヒアイズだけではなく、アインスも驚く。


「アヤ?」


 顔をしかめた。


「どうせ彼らに会うならば、今でも後でも同じです」


 わたしは言い切る。

 もちろん、同じではないことはわかっていた。わたしを聖女だと認めた後の彼らに会うのと、聖女であるのは偽りだと主張する彼らに会うのでは全然違う。

 だが、あえてこのタイミングで会いたいとわたしは考えた。

 力を見なければ納得しないなら、力を見せればいい。


(証明しろと言うならば、証明してやろうじゃない)


 ふっとわたしは笑う。


「何を企んでいるのです?」


 キルヒアイズにもアインスにも不安な顔をされた。







いつかわかってくれるとかぬるいことは考えていません。

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